2009年9月30日水曜日

Fleming, Honour, and Pevsner 1998 (5th ed.)


建築の事典と言えばいくつかがあって、すでに数冊についてはこの欄にて触れましたが、個人が自分の責任で編纂したものは、やはり面白い。
N. ペヴスナーは近代建築に関する目覚ましい著作を刊行した他、英国の歴史的建造物に関する基本台帳46冊(Buildings of England, 1951-1974)を纏めた高名な学者で、彼が纏めた建築事典はペヴスナーの死後も引き続き改訂版が出ています。

John Fleming, Hugh Honour, and Nikolaus Pevsner,
The Penguin Dictionary of Architecture and Landscape Architecture.
Penguin Reference
(Penguin Books, London, 1998, 5th ed. First published in 1966, as a title of "A Dictionary of Architecture")
vii, 644 p.

旧版の和訳も、少し昔になりましたけれども出版されました。

邦訳(旧版):
ニコラウス・ペヴスナー著、鈴木博之監訳
世界建築事典
鹿島出版会、1984年

21-22ページにかけては"Architecture"と言う項目の説明があって、権威あるこの建築事典で、どのように「建築」が説明されているかを知るのはきわめて興味深い。
第1行目からは、

"The art and science of designing structures and their surroundings in keeping with aesthetic, functional or other criteria. The distinction made between architecture and building, e. g. by Ruskin, is no longer accepted. Architecture is now understood as encompassing the totality of the designed environment, including buildings, urban spaces and landscapes."

と記していて、この部分は、初版の題名を改訂版で変更した理由にもなっていると感じられます。
一方で、ラスキンの「建築の七燈」を本格的に改めて吟味しないと駄目なのではないかという点も、同時に知られるところ。
かつては岩波文庫の訳が頼りでしたが、10年ほど前に新訳が出ました。

ジョン・ラスキン著、杉山真紀子
建築の七燈
鹿島出版会、1997年
334 p.

しかし驚かされるのは、

"The aesthetics of architecture cannot be readily distinguished from those of the other arts (poetry, music, sculpture, painting), and many questions remains to preoccupy architects: what does architecture express? what does it represent? and with what means (symbolic or otherwise) can it do this?"

という文にて項目の説明が終わる点で、要するに「建築というのは、結局は良く分からないよねえ」と、この事典は本の中の要になるはずの項目の解説において、信じ難いことを平然と綴っています(!)。

同じ英国から出ているJ. S. Curlによる建築事典では、もっと極端。

James Stevens Curl,
with line-drawings by the author and John Sambrook,
A Dictionary of Architecture.
Oxford Paperback Reference
(Oxford University Press, New York, 1999)
xi, 833 p.

この人による事典には、ペヴスナーの本では掲載されていない、もはや死語となった"parti"に関する項目(p. 484, left)があったりと、いろいろ目配りのなされていることが示唆されます。
著者については、Curl 1991、またHarris (ed.) 2006 (4th ed.)で以前に記しました。

日本語表記の「パルティー」もしくは「パルチー」は、設計行為の本質を考える上で19世紀のフランス・アカデミーの重要な用語であったはず。設計意図・設計思想、また基本設計や、設計上の工夫、たとえば今で言う「コンセプト」と同等な意味での「構想」、もしくは「芸術的霊感・インスピレーション」という、揺れ動く意味の中で使われ続けたのではないかと、この方面の権威である横浜国立大学の吉田鋼市先生は考察しています。
手書きの原稿だから、PDFになっても原稿内容は検索に引っかかりません。こういう重要な論考のテキスト化を、誰か進めてくれないかと前から思っているのですが。
この梗概集の該当箇所は、ネットにおけるCiNiiのページにて簡単にプリントアウトすることができます。

吉田鋼市
「"parti"の意味について -クロケ、ガデ、グロモールの使用例による一考察-」
日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)9126、1989年10月、
pp. 903-904.
http://ci.nii.ac.jp/naid/110004224845/

Curlの本では32-33ページで"Architecture"の項目を説明していて、最後には建築家フィリップ・ジョンソンの言葉、

"architecture is the art of how to waste space."

を挙げ、締めくくっています。
しかし、こういう危ないことを、建築の初学者にそのまま伝えるというのは大きな勇気が必要。
「建築というのは、空間をどのように無駄に使うかを問う芸術である」、という大意になりますでしょうか。

多人数の分担執筆による大事典、たとえばブリタニカとかラルースなどの場合では、とうてい許されないであろう書き方が、これらの事典では羽目を外してなされているかと思われます。

建築を真面目に考えようとする時、しかしこうした場所こそがおそらく本当の突破口。

2009年9月29日火曜日

Vassilika 2009


閉幕間際の上野のトリノ博物館展に再び行って、今年出版された英語版のガイドブックを購入。薄手の本ですが、良く見たらいろいろと載っています。
近年、館長に就任したE. ヴァシリカによる、トリノ博物館の活性化の一環による刊行物と思われます。

Eleni Vassilika,
photographs by Giacomo Lovera, edited by Silvia Cosi, layout by Francesca Lunardi,
Masterpieces of the Museo Egizio in Turin:
Official Guide

(Fondazione Museo delle Antichità Egizie di Torino, Scala Group, Firenze, 2009)
127 p.

あくまでも遺物のカタログではなく、一般向けのガイドブックとしています。このため、ビブリオグラフィーは一切なし。ただしインヴェントリー番号は付記されています。トリノ博物館のスタッフへの謝辞の他に、G. T. マーティンへの感謝の言葉が最終ページで見られる点も書いておきます。

ほとんどのページをカラーで印刷し、縦長の造本で、ペーパーバック。しゃれた構成です。収蔵品は古いものから順番に並べており、ヴァシリカによる序文が掲載されている他は、あってもいいと思われる目次や博物館の平面図などが省かれています。トリノ博物館は大規模な展示替えが予定されているので、妥当な選択なのでしょう。昨年、開催された第10回国際エジプト学者会議(The 10th International Congress of Egyptologists: ICE)におけるトリノ博物館の館員による発表で、博物館の改装の件は伝えられていたような記憶があります。
ヴァシリカによる他の博物館関連の刊行物としては、

Eleni Vassilika,
with contributions from Janine Bourriau, photography by Bridget Taylor and Andrew Morris,
Egyptian Art.
Fitzwilliam Museum Handbooks
(Cambridge University Press, Cambridge, 1993)
viii, 139 p.

があって、これも見やすい小型の出版物でした。

トリノ博物館と言えば、文字史料だったら王名表を記したパピルス、ワーディ・ハンママートの地図を描いたパピルス、王家の谷の王墓平面図を示したパピルスなどがまず思い浮かびますが、これらをカラー写真で掲載。とても便利です。
写真が小さいのは残念ですけれども、綺麗に印刷されており、特にワーディ・ハンママートの地図はありがたい(p. 102)。ラメセス4世の王墓の平面図のカラー写真(p. 104)も貴重。探そうと思うと結構、面倒でした。
ここら辺の話は、JEA 4, Parts II-III (1917)や、Leospo 2001、またLópez 1978-1984 (O. Turin)などの項でも触れています。

永井正勝先生がすでにこの展覧会における見どころを、内覧会に出席された後にブログで紹介。

http://mntcabe.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/index.html#entry-59226268

非常に些末的な話で恐縮ですが、個人的には、女性や子供の守護神として知られているカバの化身であるタウェレト(タウレト:他にもタ・ウレト、タ・ウェレトなど。あるいはトゥエリス、トエリス)女神像の紹介が興味深かった(p. 82)。
この女神が何色に塗られていたのか、もし調べようと思ったら、時間がかかります。アンクの文字の上に片手を置いたタウェレト女神の姿が、確かパピルスのひとつにうかがわれたと思いますが、その他の例となると色が塗られていない場合が多く、困惑していたところです。
赤地に白の斑点というのは面白い。ひょっとして、カバの汗が赤いということと関係あるんでしょうか。

2009年9月26日土曜日

Greenlaw 1976 (reprint 1995)


紅海に面したスーダンの交易港スアキン(サワーキン)における、珊瑚ブロック造のイスラーム建築を扱った報告書。KPI社から出版される20年ほど前の1976年に、私家本という形式ですでに発表されていたとの注記が見られます。長い年月をかけて粘り強く建築調査が進められた成果の結実。
サンゴ造建築に関する、非常に有名な先駆けの書。しかしGarlakeの著作などへの言及はありません。

Jean-Pierre Greenlaw,
foreword by Mansour Khalid,
The Coral Buildings of Suakin:
Islamic Architecture, Planning, Design and Domestic Arrangements in a Red Sea Port

(Kegan Paul International, London and New York, 1995.
First published privately in 1976)
132 p.

Contents:
Preface, p. 6
Chapter One: The Town of Suakin, p. 8
Chapter Two: The Story of Suakin, p. 13
Chapter Three: Domestic Life in Suakin, p. 17
Chapter Four: Roshans; Casement Windows, p. 21
Chapter Five: Earlier and Larger Turkish Houses, p. 22
Chapter Six: Smaller Turkish Houses, p. 38
Chapter Seven: Zawias and Mosques, p. 62
Chapter Eight: Egyptian Style Buildings, p. 72
Chapter Nine: Military Buildings, p. 85
Chapter Ten: Building Methods, p. 87
Chapter Eleven: Woodwork, p. 103
Postscript, p. 132

建物の剛性を高めるために、壁体へ木材を積み入れて補強するというのが一番の特徴。壁体の厚さも地上階から上へ行くに従って順次、減じられます。高層の建物も実現されているというのが見どころ。
サンゴは切石を用いており、かなり質の高いものが使用されたことがうかがわれます。

近海の海にてなされたサンゴの調達は、石材と比べてどのような利点があったのかが面白い。石や木と同様に、割れやすい方向性を有する素材であったはずで、しかも内部に多数の細かな空孔を含んだ建材だから、断熱性も有利で、重量も比較的軽かったと思われます。
一方、もろいのが欠点で、たぶん細かな彫刻には向きませんでした。

日本でも、南島には同じ建築方法が見られます。まだ比較考察がなされていない分野。
キルワなどの西アフリカから、紅海を経てインド半島沿岸、そして日本に至る、活発な海上交通を前提として作られた建物群と言うことができます。しかし作り方は一様ではなく、地方色が豊か。
木材を組積造に補強として積み入れる方法はミノア時代から確認されているわけで、こうした世界を通覧する楽しみが今後、開けていくかもしれません。
「石切場」としての珊瑚礁にもこれから注目がなされるかと思われますが、これは水中考古学の領域でもあります。

2009年9月25日金曜日

Siliotti 2000


エジプトのシナイについての、縦長の薄いガイドブック。たった48ページしかないのですが、かなり意欲的にさまざまな内容を盛り込んでおり、これまでたくさんの入門書を手がけてきたA. シリオッティの力量のほどが良く了解される構成となっています。
全ページがカラー。
30エジプトポンドですから、600円ほど。

Alberto Siliotti (text and photographs),
Stephania Cossu (drawings), Richard Pierce (English translation), Yvonne Marzoni (general editing),
Sinai: Egypt Pocket Guide
(American University in Cairo Press, Cairo/Elias Modern Publishing House, Cairo/Geodia, Verona, 2000)
48 p.

表紙の裏を折り込みとし、ここにシナイ半島の地図を掲載。裏表紙ではラース(ラス)・モハメッドの鳥瞰図を示しています。
最初にシナイ半島の概要に触れており、プレート・テクトニクスの観点からシナイ半島や紅海はどのような動きを見せているのかがまず説明されます。シナイ半島全体の断面図を挙げているのも、うまい方法。地質と気候について次に見開きで紹介し、その後には動植物に関する多彩な言及。渡り鳥の足取りを示した図の挿入も上手。

"Natural Environments"と題した14ページからは、珊瑚礁とそこに生息する生物たちの紹介で、魚介類とサンゴが扱われます。マングローブについてもまた見開きで説明をおこなっており、こういうところは神経が行き届いた感じがあって、見事。
さらに砂漠、オアシスについて述べた後に、新石器時代の石造建造物である「ナワミース」を取り上げ、その後は古代エジプトの王朝時代におけるシナイを概観。名だたる遺跡セラビト・カディムの平面図はここで示されます。

28ページの題名は"From the Nabataeans to the Ottomans"で、おそろしく時代をすっ飛ばした内容ですが、「科学的調査」、「現代歴史」がこの後に続き、遊牧民の紹介、またいくつかの見どころの解説が後半の内容となっています。
トゥール、ラス・モハメッド、シャルム・シェイク、ダハブ、ヌワイバ(ヌウェイバ)、ターバといった紅海沿岸の、珊瑚礁を巡るリゾート地、また聖カトリーヌ修道院などが扱われており、盛り沢山。

シナイは交易で栄えた地で、また複数の宗教が交錯する地域でもあります。山脈が中央に高く聳え立ち、ワーディ(涸れ沢)が鋭く切れ込んで、この下の水脈を頼りに陸内の交易が進められた一方、沿岸を伝った船によるアジアとヨーロッパとの交通路が結ばれました。
かなりの昔から、人々が山奥まで分け入って鉱物を採掘した場所としても有名。日本人には単に、荒れ果てた土地と見やすい場所の複雑な様相の場面が、多くの図版を重ねつつ提示されており、小さな本ながら扱う情報量はかなり高く、170点以上の写真や地図、挿絵が含まれていると書かれてあります。

多角的な視点からシナイ半島を追った佳作。これだけページ数が限定されている中で、シナイ半島の魅力というものを、さまざまな学問の成果をあれこれと援用しながら提示しています。個人的な好みから言えば、5ページの図版は他のページのものと調子を揃えた方が良いような気もしますが、それは些末的な指摘に過ぎません。
むしろ、次から次へと繰り出される、乱暴と言えるほどまでに刻まれた多種多様な知識の断片が光を放つように感じられ、逆にこの小さな冊子の魅力となっています。

2009年9月24日木曜日

Warner 2005


カイロの古い街並みで見られるイスラームの歴史的建造物の平面を逐一、大きな地図上に示した労作です。副題では"A Map"となっているけれども、掲載されているのは大版の折り込み地図が31枚。分割されて所収がおこなわれています。
ゲジラ島とローダ島の東方に位置するナイル川岸辺の当該地域の地図の縮尺は1/1250。小さな住宅についても、かろうじて平面が分かる大きさです。
大判の本で、すべて手書きの大図面が何と言っても素晴らしい。
ARCE Conservation Seriesの第1冊目。

Nicholas Warner,
The Monuments of Historic Cairo:
A Map and Descriptive Catalogue.

American Research Center in Egypt (ARCE) Conservation Series 1.
American Research Center in Egypt (ARCE) Edition
(American University in Cairo (AUC) Press, Cairo, 2005)
xvi, 250 p., 31 maps.

Contents:
Foreword by J. L. Bacharach and R. K. Vincent, Jr. (vii)
Acknowledgments (ix)
Preface (xii)
Introduction: Cartography, Architecture, and Urbanism in Cairo, AD 1500-2000 (p. 1)
Note on Sources, Cartography, and Architectural Drawings (p. 82)
Descriptive Catalogue (p. 87)
Glossary (p. 192)
Abbreviations (p. 194)
References (p. 195)
Index of Buildings by Number (p. 202)
Index of Buildings by Name (p. 220)
Index of Buildings by Date (p. 243)
Maps (251)

著者のWarnerは、ARCE Conservation Series 2に当たるクセイルの砦のプロジェクト(Le Quesne 2007)にも参加している建築研究者。
序文では、

"The twentieth-century English poet W.H. Auden wrote that 'poetry makes nothing happen: it survives in the valley of its saying.' Like poetry, 'The Monuments of Historic Cairo' is in a sense nothing more than a record, documenting a moment of a city.(中略)The poetry of these maps lies in making Cairo's memory survive, and it is their 'saying' that constitutes Nicholas Warner's achievement."

と、詩人オーデンの句を引きながら、この本の価値が強調されています。
252ページ目の"Map Key"を見るならば、かつてあったけれども、もうなくなってしまったイスラーム建築の位置なども示されていることが了解され、建物の上階から飛び出ている部分の輪郭を点線で示すなど、細かく丁寧に描き分けた工夫の跡も良く分かります。
文章による建物の簡潔な説明も充実しています。シタデルやアイユーブ朝の城壁、またイブン・トゥールーン・モスクに関する記述などが最も長く、それぞれ1ページほどの分量。
索引では建物番号、建造物名、建造年代から調べることができます。

この本はAmerican University in Cairo Pressから出版されているので、タハリール広場の脇の大学キャンパス近くまで行った折に購入する方法もありますけれども、カイロの書店案内というものが日本語で出ており、サイトでも情報が公開されていますので、どこで売っていそうだという目安がつき、カイロで長居をする時にはこれが非常に便利です。

日本学術振興会カイロ研究連絡センター、
平井文子、原山隆広、橋爪烈、勝沼聡、竹村和朗、亀谷学

カイロ書店案内 2004
日本学術振興会カイロ研究連絡センター、カイロ、2004年
(iii)+ii, 123 p., 28 maps.
http://asj.ioc.u-tokyo.ac.jp/html/guide/cairo/c_s_f.html

Les Livres de Franceの閉店状態をサイト版では伝えるなど、改訂がなされていますが、一方で旧ナイル・ヒルトン・ホテルのショッピング・モールの地下にあったL’Orientale (旧L’Orientaliste)の動向については最新情報が反映されておらず、残念。
もちろんこれは贅沢を言っているわけで、歩いて本屋さんをくまなく調べるという、この貴重な情報誌を作成する上でおそらく大変であったろう労力に改めて敬意を表します。
ありがたく使わせていただいている次第。特に調査に関わる者にとっては、冊子体の方にエジプトの地図屋さん(p. 102, L-7: ドッキ、ミサーハ広場周辺)が明記されている点が重宝しており、何回も助けてもらっています。

2009年9月23日水曜日

Le Quesne 2007


エジプトの港市クセイルの城塞に関して述べた本。イスラーム時代に属するエジプトの、紅海沿岸の遺跡を詳しく扱った本として注目されます。
16世紀のオスマン朝に建造された砦ですが、何故、紅海沿岸にこのようなものが建てられたかと言えば、海を渡っての交易の拠点となっていたからです。ヨーロッパとアジアとを結ぶ交通路の途上の、紅海における要所でした。
クセイルはまた、古代エジプトにおける砂漠の道、ワーディ・ハンママートの紅海側の終端でもありました。ワーディ・ハンママートはナイル川と紅海とを東西に繋ぐ道で、面白いことに古代に記された地図が残っています。
クセイルはメッカへの巡礼の際にも、重要な役割を果たした土地。

Charles Le Quesne,
with contributions by Martin Hense, Salima Ikram, Ruth Pelling, Ashraf al-Senussi, Willeke Wendrich,
Illustrations by Tim Morgan and Julian Whitewright,
photography by Tim Loveless,

Quseir:
An Ottoman and Napoleonic Fortress on the Red Sea Coast of Egypt.
American Research Center in Egypt (ARCE) Conservation Series 2
(American University in Cairo Press, Cairo, 2007)
xxv, 362 p.

Contents:
1. Introduction and Background (p. 1)
2. Historical Background (p. 25)
3. Foundation and Early Occupation (1571-Late Seventeenth Century) (p. 45)
4. Late Ottoman Occupation (Eighteenth Century) (p. 87)
5. Napoleonic Occupation (1799-1800) (p. 97)
6. The Nineteenth and Twentieth Centuries (p. 147)
7. Finds and Specialist Reports (p. 169)
8. Final Discussion and Conclusions (p. 299)
Appendix: Description of the Town of Quseir and Its Vicinity (p. 319)

参考:360度パノラマ
http://www.360cities.net/image/quseir-fort-16th-c
http://www.360cities.net/image/fort-of-sultan-selim-quseir

サンゴも建材として用いていますが、これはトゥールのキーラーニー地区、あるいはラーヤ遺跡と同じです。紅海沿岸ではスーダンのサワーキン(スワキン)や、サウジアラビアのジェッダ、またヤンブーなどでサンゴ造建築は知られているものの、エジプト建築史では非常に稀で、特筆されます。サンゴを用い、紅海沿岸に砦を造った例としては、ラーヤの方が古く、規模もこちらの方が大きい。
この城塞が何故、正方形でなくて菱形になっているのか、ちょっと興味が惹かれるところです。地形の制約があったし、建物の正面をメッカに向けたかったと著者は述べていますが、他にも理由があったかもしれない。

この方面の研究者たちであるフランスのJ.-M. Mouton、あるいはアメリカのD. S. Whitcombたちの名と並んで、トゥールとラーヤを長年発掘してきた川床睦夫先生による各報告書も、本書のあちこちで引用されていますけれども、ただ執筆者は全部を見てはいない様子。

Mutsuo Kawatoko,
"Multi-disciplinary approaches to the Islamic period in Egypt and the Red Sea Coast",
Antiquity 79 (2005), pp. 844-857.

は、巻末の参考文献リストから抜け落ちています。
図版を多く含んだ本で、数ページはカラーで印刷されています。層位図等も掲載しており、第1期から第7期にわたる変遷を描こうとしていますが、もう少し分かりやすい図示が試みられても良かったかも。

クセイル遺跡の観光センターを立案するために調査がなされたという経緯が述べられていて、建築的な側面についてはMichael Mallinsonの名が挙げられています。この人はケンプのアマルナ調査にも参加している建築家。エジプト学に関わっているS. IkramやW. Wendrichも、それぞれの専門分野からの報告文を載せています。古代石切場の調査を進めているPeacockへの謝辞も見られ、エジプト調査の運営が厳しくなっている中で、協力関係を結んでいることが良く了解されます。

"Curtain wall"という用語を城塞の壁に対して使っていますが、窓の設けられていない、稜堡の重厚で高い壁を言い指したもの。今日の建築の世界で「カーテン・ウォール」というのは、高層ビルなどでただ吊り下げられるだけの、建物全体を支える構造的な意味あいにおいては何ら寄与しない壁のことを言うのであって、解釈が大きく異なり、違和感がありますけれども、ここでは軍事建築の専用用語としての「カーテン・ウォール」。ですから建築構造力学から見られる意味がまったく逆転します。
註を記したp. 327, note 4の、"This work was carried out carried out by Mallinson Architects,"というケアレスミスなどもいくつかあって、惜しまれるところ。
ARCEから出ているこのConservation Seriesはしかし、エジプトの遺跡に関する修復作業を一般読者に広めようとしている点で貴重です。

2009年9月21日月曜日

Trigger 1993


エジプトやメソポタミアの他、マヤやインカ、アステカなども含めた7つの初期文明を比較考察した本があります。高名な人類学者ブルース・トリッガーによる著作。幸いなことに、和訳も出ています。

Bruce G. Trigger,
Early Civilizations:
Ancient Egypt in Context

(American University in Cairo Press, Cairo, 1993)

邦訳:
ブルース・G・トリッガー著、川西宏幸
初期文明の比較考古学
同成社、2001年

訳書では、この本のモティーフが詳しく記されているので大変参考になります。ここから読み始めても良い。トリッガーによる著作の和訳の状況についても記されているので有用。
訳者は長年、中部エジプトのアコリスにおける発掘調査を続行されている、つくば大学の教授です。比較考古学に関わる著作もある先生。知識の横断と言うことを重視され、また実践なさっておられる方。

各文明に関して数十冊の文献を読みこなす中で、情報の多寡によって何がどこまで分かっているのかを推し量るという下りは面白い。エジプト学については、政治学に関する問題意識の欠如を掲げており、またエジプト学者が古代エジプト文明を、独自なものと考えるあまりに他との比較を怠ってきた点が厳しく指弾されています。
こういう点は、J. マレクも指摘していたところ。
クメール文明は、その研究の深度の至らなさによって対象から外されているという記述も楽しかった。

カナダのこの人類学者の功績については、日本ではウィキペディアでもまだ紹介されていない様子。どれだけ偉いのかを知るために、英語によるウィキペディアを、まずちらっと見ることも必要です。
人間とはいったい何ものなのかという非常に大きな問題を若い頃から自分の課題として据えて、研究を重ねてきた碩学。エジプトやスーダンに関する著作がまず知られています。

研究の途上にあることは、執筆者が一番良く知っていて、ただその「熱ある方位」を指し示すことに傾注がおこなわれています。揚げ足取りはいくらでもできる代わり、対案となる説を出すことはきわめて困難。百年単位でものごとを考えている人間だけが書くことのできる著作。

巻末の、短いコメントつきの文献紹介も興味深い。エジプト学の関係者は、ここの部分だけでも見ると良いかも。

2009年9月3日木曜日

HiP (Häuser in Pompeji) 1984-


ポンペイの家々を一軒ずつ紹介するという、ドイツ考古学研究所(DAI)によるとてつもない企画のシリーズ本。高さが50cmもある大判の書籍で、光沢のある赤い布張りの立派な装丁です。古代ローマの住居建築を探る上では必読書。参考文献リストでは基本書として頻繁に挙げられます。

第1巻のみ、建築界では良く知られているヴァスムート社から出版されましたが、2巻目以後はミュンヘンが出版地です。25年を費やして、現在までようやく12冊が出ました。
住居のひと部屋ずつ、丁寧に記録がおこなわれており、建築調査に関わる者の手本となる内容。組積など構法上の留意点の他、計画寸法に関する考察もなされていて、注目されるところ。図版多数。最新刊の第12巻に至っては、何と図版が800点以上。壁画や床のモザイク画については、もちろん多数のカラー写真で撮影されています。
近年刊行されるものは厚くなる傾向にあって、その分、非常に高価。個人ではなかなか購入できません。一度は見ておく価値がある、本格的な建築報告書。
10〜12巻については未見のため、書誌はいくらか曖昧です。


Volker Michael Strocka (Herausgegeben von),
Häuser in Pompeji.
Deutsches Archäologisches Institut (DAI)
(Band 1: Verlag Ernst Wasmuth, Tübingen, 1984/Band 2-: Hirmer Verlag, München, 1988-)
http://www.dainst.org/index_37f33b66bb1f14a132480017f0000011_de.html


Volker Michael Strocka,
Photographien von Peter Grunwald, Wandgraphiken von Pavlos Pagagialias,
Band 1: Casa del Principe di Napoli (VI 15, 7.8).
(Verlag Ernst Wasmuth, Tübingen, 1984)
53 p., 168 Abbildungsverzeichnis.

Wolfgang Ehrhardt,
Photographien von Peter Grunwald und Wilhelm Gut, Wandgraphiken von Wulfhild Aulmann,
Band 2: Casa dell'Orso (VII 2, 44-46).
(Hirmer Verlag, München, 1988)
84 p., 254 Abbildungsverzeichnis.

Dorothea Michel,
Photographien von Peter Grunwald und Wilhelm Gut. Graphische Dokumentation von Michael Sohn,
Band 3: Casa dei Cei (I 6, 15).
(Hirmer Verlag, München, 1990)
95 p., 299 Abbildungsverzeichnis.

Volker Michael Strocka,
mit einem Beitrag von C. L. J. Peterse. Photographien von Peter Grunwald. Graphische Dokumentation von Pavlos Pagagialias,
Band 4: Casa del Labirinto (VI 11, 8-10).
(Hirmer Verlag, München, 1991)
143 p., 482 Abbildungsverzeichnis.

Florian Seiler,
Photographien von Peter Grunwald und Wilhelm Gut. Wandgraphiken von Heide Diederichs und Judith Sellers,
Band 5: Casa degli Amorini dorati (VI 16, 7.38).
(Hirmer Verlag, München, 1992)
149 p., 631 Abbildungsverzeichnis.

Klaus Stemmer,
Photographien von Peter Grunwald und Johannes Kramer. Graphische Dokumentation von Pavlos Pagagialias, Michael Sohn und Wulfhild Aulmann,
Band 6: Casa dell'Ara massima (VI 16, 15-17).
(Hirmer Verlag, München, 1992)
67 p., 258 Abbildungsverzeichnis.

Margareta Gierow,
Photographien von Peter Grunwald, Jill Crossley und Johannes Kramer, Wandgraphiken von Wulfhild Aulmann,
Band 7: Casa del Granduca (VII 4, 56) und Casa dei Capitelli figurati (VII 4, 57).
(Hirmer Verlag, München, 1994)
84 p., 221 Abbildungsverzeichnis.

Thomas Fröhlich,
Photographien von Peter Grunwald, Wandgraphiken von Wulfhild Aulmann und Regina Brendel,
Band 8: Casa della Fontana piccola (VI 8, 23.24).
(Hirmer Verlag, München, 1996)
123 p., 477 Abbildungsverzeichnis.

Wolfgang Ehrhardt,
Photographien von Peter Grunwald, Wilhelm Gut, Johannes Kramer, Graphiken von Wulfhild Aulmann,
Band 9: Casa di Paquius Proculus (I 7, 1.20).
(Hirmer Verlag, München, 1998)
172 p., 487 Abbildungsverzeichnis.

Margareta Staub Gierow,
Photographien von Peter Grunwald, Wandgraphiken von Wulfhild Aulmann,
Band 10: Casa della Parete nera. Casa della Forme di creta (VII 4, 58-60/VII 4, 61-63).
(Hirmer Verlag, München, 2000)
116 p., 356 Abbildungsverzeichnis.

Penelope M. Allison und Frank B. Sear,
Plaster analyses by Peter Grave and Reinhard Meyer-Graft, Photographien von Jill Crossley, Wilhelm Gut und Johannes Kramer. Wandgraphiken von Judith Sellers. Architekturzeichnungen von Zig Kapelis,
Band 11: Casa della Caccia antica (VII 4, 48).
(Hirmer Verlag, München, 2002)
104 p., 271 Abbildungsverzeichnis.

Wolfgang Ehrhardt,
Photographien von Peter Grunwald und Johannes Kramer. Wandgraphiken von Wulfhild Aulmann, Lisa Bauer, Michael Sohn. Architekturzeichnungen von Athanassios Tsingas,
Band 12: Casa delle Nozze d'argento (V 2, 1).
(Hirmer Verlag, München, 2005)
284 p., 823 Abbildungsverzeichnis.

住居名に続くカッコ内の記号は、住居番号を示します。
日本国内で、どの大学図書館がどの巻を収蔵しているかは、前にも記したように、

NACSIS Webcat: 総合目録データベースWWW検索サービス
http://webcat.nii.ac.jp/

のページで"Häuser in Pompeji"を検索すると、簡単に調べることができ、便利。

Manuelian (ed.) 1996 (Fs. W. K. Simpson)


エジプト学者W. K. シンプソンへの献呈論文集。70人弱の研究者たちが論考を寄せています。執筆陣の豪華さと圧倒的な量がすばらしい。10年に一度出るか出ないかという充実した内容。アメリカのボストン美術館の力量が存分に発揮されています。
造本はManuelianの手によるもので、編集もおこなっているこの人はエジプト学の出版物におけるDTPを進めていることで知られている研究者。博士論文はアメンヘテプ2世でした。
文中へのヒエログリフやコプト文字の挿入、レリーフの写真のレイアウトとそのモティーフの線描画起こし、壁画の配置に合わせた複雑な表の作成など、エジプト学の発表形式で良く見受けられるさまざまな面倒の対処について深く理解している人ですから、たいへん見やすく、上品に仕上げられた本となっています。

Peter Der Manuelian (editor),
Rita E. Freed (project supervisor),
Studies in Honor of William Kelly Simpson, 2 vols.
(Department of Ancient Egyptian, Nubian, and Near Eastern Art, Museum of Fine Arts, Boston, 1996)

Volume I: xxxi, 1-428 p.
Volume II: x, 429-877 p.

最初のページにはヒエログリフでw k sの3つの文字、そしてさらにankh wedja senebの3つの文字による省略形が綴ってありますが、これはシンプソンの名前のイニシャルの後に、「御健康で長生きされ、ますます御活躍のほどを」といった意味の言葉を付したもの。王名の後などに良く用いられる決まり文句のひとつで、英語では簡単にL. P. H. と訳されたりします。ankh wedja senebの3つの文字による省略形に倣って、それぞれの訳語の"Life, Prosperity, Health"を略したもの。
ヒエラティックなどでは、ただ単に3本の斜線でおざなりに記されたりもする部分。「とこしえに御壮健でありますよう」という意味の言葉を3本線の殴り書きで済ませるわけで、良く考えると、とっても失礼。

個人的に興味深く思われるものを挙げるならば、

Dieter Arnold,
"Hypostyle Halls of the Old and Middle Kingdom?",
pp. 39-54.
多柱室というと、カルナック大神殿の奥にあるトトメス3世祝祭殿が嚆矢だと良く言われたりしますが、これに疑問を投げかける内容。復原図を交えて説明がなされています。

Edward Brovarski,
"An Inventory List from "Covington's Tomb" and Nomenclature for Furniture in the Old Kingdom",
pp. 117-155.
壁画に見られるリストから、古王国時代の家具を問う論文。古王国時代にだけ流行した2本足の寝台については、図版を多く提示しています。

Zahi Hawass,
"The Discovery of the Satellite Pyramid of Khufu (GI-d)",
pp. 379-398.
クフ王のピラミッドの脇から新たに見つかった小さな衛星ピラミッドの痕跡の報告と考察を、ザヒ・ハワースが書いています。

Rainer Stadelmann,
"Origins and Development of the Funerary Complex of Djoser",
pp. 787-800.
H. リッケの考え方を展開させ、ジョセル王の階段ピラミッドの初源の姿を探る論考。ピラミッド学の権威R. シュタデルマンの自由な思考方法の一端が分かって面白い。

巻末には執筆者の住所録が載っていますが、今となってはすでに何人かが物故者となっています。J.-Ph. ロエールはその中のひとり。

2009年9月2日水曜日

Phillips 2002


古代エジプトの柱の類例を多数集めたもの。L. BorchardtやG. Foucartが100年ほど前に似たことをやっていますが、ここではもっと徹底的に収集がなされています。
図版が中心と言っていい本ですので、見やすい特徴を持っています。

J. Peter Phillips,
The Columns of Egypt
(Peartree Publishing, Manchester, 2002)
x, 358 p.

大まかには時代順に並べられており、多くは写真を用いて紹介されています。一方で図面が少ないことは、非常に惜しまれる点。
エジプト建築における柱のデザインの豊穣さが良く了解される本と言っていい。ですが、エジプト学の専門家ではないために、系統立って纏められているという印象は薄く、他の本との併読が必要かと思われます。

古代エジプトの柱についての建築学的研究は、欧米ではほとんど進められていないといっても過言ではありません。Petrieが大昔に、「寸法計画がまちまちであるように思われる」と表明した以降、進展していない状況にあります。カルナック大神殿の柱に関する組織的な分析が最近おこなわれ、注目されましたが、この遺跡は新王国時代以降が中心ですので、それより遡る時代に関しては触れていません。
本当はギリシア・ローマ時代のオーダーとの関連が探られてもいいはずなのですけれども。柱の太さに対する高さ、また柱のテーパーとセケドとの関係など、Petrieに倣い、さらに対象を拡張して広範に諸資料が集められるべきだと思います。

著者に関しては、"Senior position in Information Technology at the University of Manchester"を早期に退職して、この柱の研究に打ち込んだと書いてあります。IT出身の方ですね。少々、変わった人。
なお、序文をR. Janssenが書いています。

2009年9月1日火曜日

Janssen 1961


オランダのライデン(レイデン)博物館とトリノ・エジプト博物館が所蔵するパピルスを述べた研究。「古代エジプトのふたつの航海日誌」という、魅惑的な題名です。J. J. ヤンセンの博士論文。
新王国時代後期のラメセス時代におけるヒエラティック(神官文字)の専門家で、特にディール・アル=マディーナに関しては世界中で最も知識の豊富な学者とみなされます。

Jac J. Janssen,
Two Ancient Egyptian Ship's Logs:
Papyrus Leiden I 350 verso and Papyrus Turin 2008+2016
.
Supplement to Oudheidkundige Mededelingen uit het Rijksmuseum van Oudheden te Leiden (OMRO) 42 (1961)
(E. J. Brill, Leiden, 1961)
viii, 114 p., IV plates.

学術雑誌OMROの付巻として刊行されました。
OMROと略記されるこの雑誌名は、「レイデン王立古代博物館考古学通信」といったような意味合いを持ちます。OMROは国内ですと、大阪の国立民族学博物館などがバックナンバーを持っているはず。Two Ancient Egyptian Ship's Logsは、都内ではたとえば早大図書館が所蔵しています。

題名に出てくる"verso"は専門用語で「裏側の面」。反対語は"recto"で、「表面」。パピルスやオストラコンの他、本のページや貨幣でも用いられる語です。これらの省略形もしばしば見受けられます。

100ページ足らずの本ながら、おこなわれていることは多岐にわたり、まず通常のエジプト語の辞書には出てこない言葉が頻出するので、その意味を類推しなければなりません。外来語である可能性もあるわけです。
パピルスに書かれている文字列を、どのように報告するかが良く分かる一冊。註のつけ方も、一般の論文と比べるならばかなり複雑です。
航海日誌にはラメセス2世の第4王子であるカエムワセトの名が出てきており、こうした点も面白い。非常に長生きをしたラメセス2世の注目すべき広範な諸建築活動を支えた張本人です。

ラメセス2世の息子たちに関しては、カエムワセト王子にテーマを絞った

Farouk Gomaà,
Chaemwese:
Sohn Ramses' II. und Hoherpriester von Memphis.

Ägyptologische Abhandlungen (ÄA), Band 27
(Otto Harrassowitz, Wiesbaden, 1973)
xii, 137 p., VIII Tafeln.

が知られています。いわゆる「修復ラベル」にも言及。カエムワセトが最古の考古学者と言われる所以です。
息子たちの墓の概要を伝える発掘調査報告書、

Kent R. Weeks,
KV 5:
A Preliminary Prort on the Excavation of the Tomb of the Sons of Rameses II in the Valley of the Kings

(American University in Cairo Press, Cairo, 2000)
vi, 201 p.

は、ラメセス2世の子供たちをひとところに纏めて埋葬するための迷路のような施設のまとめ。王家の谷において最大規模を誇る墓です。今なお、どこまで深く続いているのか、まったく分かっていません。地下水が湧き出ているため、最深部の調査は困難を極めているようです。
むちゃくちゃ数が多かったラメセス2世の子供たちの墓をいちいち独立させて造っていては大変だと、手を抜いて小部屋を無数に並べて済ませた形式。サッカーラのセラペウムとの平面形式の類似が建築学的には焦点。古王国時代にも、こういう墓の形式の先例はあったことが指摘されます。
ウェブサイトでは、

Theban Mapping Project: KV 5
http://www.thebanmappingproject.com/sites/browse_tomb_819.html

にて図とともに説明が見られます。
うじゃうじゃといるラメ2(ラメセス2世を、こう短く呼ぶことが多い。欧米では"R2"もしくは"RII"、つまり「アール・ツー」。同様にTIII=トト3、AIII=アメ3)の子供たち全部を扱う

Marjorie M. Fisher,
The Sons of Ramesses II, 2 vols.
Ägypten und Altes Testament (ÄAT), Band 53
(Harrassowitz Verlag, Wiesbaden, 2001)

Volume I: Text and Plates.
xxii, 287 p.
Volume II: Catalogue.
v, 232 p.

といったモノグラフも8年前に出版されました。
しかし、もし史料を全部見ようとするなら、KRIRITARITANCとともに雑誌の新しい号などを調べなければなりません。

古代エジプトにおける王族の家系一般の通覧なら、

Aidan Dodson and Dyan Hilton,
The Complete Royal Families of Ancient Egypt
(Thames and Hudson, London, 2004)
320 p.

が便利です。