2009年6月6日土曜日

McNicoll 1997


プラトンの晩年の書「法律」の引用から始められるこの本の第1章は「防御の重要性」。ヘレニズム時代の要塞建築を扱ったもので、分類としては古代ギリシアの軍事建築ということになりますが、古典古代の軍事建築研究というのはけっこうあって、古代エジプト建築の場合と対照的です。

42歳で亡くなった著者の博士論文で、1971年に執筆されたものに、他の人が加筆をおこなっています。
序文を寄せているのは古代ギリシア建築の碩学J. J. クールトン。彼はオクスフォードのこのモノグラフのシリーズの編集者のひとりでもあり、この本の出版の意義を分かりやすく述べています。

Anthony W. McNicoll,
with revisions and an additional chapter by N. P. Milner,
Hellenistic Fortifications from the Aegean to the Euphrates.
Oxford Monographs on Classical Archaeology
(Clarendon Press, Oxford, 1997)
xxv, 230 p.

城塞ですから厚い壁を巡らせ、要所に四角い塔を建てるというのが共通した外観です。開口部をほとんど設けない造りですから、石材の積み方などが見どころのひとつ。
石の積み方を種類別に分けることを精緻におこなった研究書が

Robert Lorentz Scranton,
Greek Walls
(Cambridge, Mass., 1941)
xvi, 194 p.

で、ここには「壁体リスト」なるものも収められています。
Mass.というのはマサチューセッツのことで、このようにイギリスとアメリカに同じ地名があって紛らわしい場合には、どちらの地名かを明記することが推奨されます。ドイツにおけるFrankfurt am Mainといった表記と同じ。
Scrantonの本もまた博士論文で、この本を参考にしつつ、石組みの分類方法はさらに詳しくなっており、説明のための写真も豊富。

クールトンは「ここ25年間で要塞研究の様相は目まぐるしく変わった」と序文では記していて、そこで代表的なものとして挙げられているのが

F. E. Winter,
Greek Fortifications
(London, 1971)

A. W. Lawrence,
Greek Aims in Fortification
(Oxford, 1979)

J.-P. Adam
L'architecture militaire grecque
(Paris, 1982)

の3冊です。いずれも知られた専門家。
最近では、

Isabelle Pimouguet-Pédarros,
Archéologie de la défense: 
histoire des fortifications antiques de Carie, époques classique et hellénistique
(Presses Universitaires de Franche-Comté, Besançon, 2000)
508 p.

も出ている模様。
M.-Ch. Hellmannによって現在刊行中のシリーズにはすでに触れましたが、L'architecture grecque, vol. 3でも要塞が扱われることが予告されており、おそらくはもうすぐ刊行されるかと思われます。
古代ギリシアの建築研究が神殿だけではないことを伝える書籍の群。

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