キルヒャーは古代ローマ時代以降、エジプト研究に関していち早く本を刊行している人ですけれども、ヒエログリフの解読について、今から考えるならばデタラメとしか言いようがない考察を残したせいで評価が貶められています。当時、最高の知識人と考えられていたキルヒャーによる誤った解釈のために、古代エジプト研究の進展が大幅に遅れたと非難している者もいるほど。
キルヒャーがラテン語で記した著作は他言語にあまり翻訳されておらず、彼による思考過程全体の理解が阻まれているのは残念。
ここで取り上げる本の中でもギリシア語、コプト語、ヘブライ語やアラビア語などの引用が混じっていますから、全部を読もうと思ったら相当の覚悟が必要です。
キルヒャーはしかし、たぶんオベリスクがどのように設計されたかという問題に真向から挑んだ最初の人で、建築学の領域からは重要な足跡を記していると判断されます。
ピラミッドに関する設計方法については何冊も本が出ているのに、オベリスクの寸法計画に関しては本格的な論考が何ひとつ出版されていないのは不思議だと思われるかもしれません。
けれどもここには理由があり、研究の前提となるオベリスクの正確な実測値がまず分からないという点がまずひとつ。さらに、実測値が知られていると言われているものもよく調べてみるならば、もともと正方形が意図されたと思われるオベリスクのシャフトの底面やピラミディオンの底辺がけっこう歪んでいる場合が多く、誤差が大きいということが分かったため、詳細な研究が控えられているといった事情が挙げられます。
いったん立てられたオベリスクを実測するのは大変です。アレキサンドリアに立つ「ポンペイの柱」も、実測に際してはアルピニストに頼る他ありませんでした。
けれどもここには理由があり、研究の前提となるオベリスクの正確な実測値がまず分からないという点がまずひとつ。さらに、実測値が知られていると言われているものもよく調べてみるならば、もともと正方形が意図されたと思われるオベリスクのシャフトの底面やピラミディオンの底辺がけっこう歪んでいる場合が多く、誤差が大きいということが分かったため、詳細な研究が控えられているといった事情が挙げられます。
いったん立てられたオベリスクを実測するのは大変です。アレキサンドリアに立つ「ポンペイの柱」も、実測に際してはアルピニストに頼る他ありませんでした。
今では3Dスキャナを用いた最新の計測方法があるという人がいるかもしれない。しかし、実測値をどう解釈するのかという基本的な問題は、依然として残されると思います。
ひとつの石から削り出されることが尊重されたオベリスクの切り出しの工程では、多大な困難に直面することが度々でした。岩盤は決して均質でないため、大きな塊を切り出そうとした場合、岩盤に観察される層の良し悪しを見極めたり、割れ目などを勘案しながら計画を進めざるを得ず、時には初期に決定された長さを縮めるといったような大きな計画変更をおこないながら掘り出されたとみなされています(Engelbach 1922; Engelbach 1923)。
オベリスクの計画寸法についての研究はそれ故、切り出しの工程を十分考慮しつつ、なおかつ実測値の誤差をどう考えるのかを範疇に含めなければなりません。立体物としてのオベリスクの形状の把握、また完数による設計計画を望んだらしい古代エジプト人たちの方法をどのように勘案すべきなのか、こうした諸点が突破口となるでしょう。
ピラミッドの計画寸法を探ることよりも、古代エジプトにおける設計方法がオベリスクに関する研究を通じて明らかになるのではという予測が指摘されます。
書籍のデジタル化によってインターネットで原書が見られることは非常に有難い。ここ数年の劇的な変化だと思います。かつては海外の図書館へ見に行く他、方法がありませんでしたから。
こうした古書の公開によって、たぶん古代エジプト建築研究はこれから少しずつ進むのでは。
Athanasius Kircher,
Obeliscus Phamphilius,
書籍のデジタル化によってインターネットで原書が見られることは非常に有難い。ここ数年の劇的な変化だと思います。かつては海外の図書館へ見に行く他、方法がありませんでしたから。
こうした古書の公開によって、たぶん古代エジプト建築研究はこれから少しずつ進むのでは。
Athanasius Kircher,
Obeliscus Phamphilius,
hoc est, interpretatio noua & hucusque intentata obelisci hieroglyphici quem non ita pridem ex Veteri Hippodromo Antonini Caracallae Caesaris, in Agonale Forum transtulit, integritati restituit, & in Urbis Aeternae ornamentum erexit Innocentius X, Pont. Max. in quo post varia Aegypticae, Chaldaicae, Hebraicae, Graecanicae antiquitatis, doctorinaeque quà Sacrae, quà Profanae monumenta, Veterum tandem Theologia, hieroglyphicis inuoluta symbolis, detecta e tenebris in lucem asseritur
(Roma 1650)
参考:Werke von Athanasius Kircher im Internet - Unversität Luzern
http://www.unilu.ch/deu/werke-von-athanasius-kircher-im-internet_269856.html
キルヒャーはオベリスクの碑文について1666年にも本を出しているから紛らわしい。
キルヒャーによる原文をラテン語で読もうと志す方のために、上記のサイトを挙げておきます。ネットからダウンロードできるキルヒャーの本のリストが示されていて便利。
1650年代には、エジプトに関する重要な著作を他にも刊行しており、また当時の知識を集大成することができる立場にあったため、中国についての最先端の研究も試みています。どこまでも多才の人ということになります。
(Roma 1650)
参考:Werke von Athanasius Kircher im Internet - Unversität Luzern
http://www.unilu.ch/deu/werke-von-athanasius-kircher-im-internet_269856.html
キルヒャーはオベリスクの碑文について1666年にも本を出しているから紛らわしい。
キルヒャーによる原文をラテン語で読もうと志す方のために、上記のサイトを挙げておきます。ネットからダウンロードできるキルヒャーの本のリストが示されていて便利。
1650年代には、エジプトに関する重要な著作を他にも刊行しており、また当時の知識を集大成することができる立場にあったため、中国についての最先端の研究も試みています。どこまでも多才の人ということになります。
1650年に出されたこの著作では、第1巻第6章の第2節(pp. 52-3)にうかがわれる"De proportione Obeliscorum"(「オベリスクのプロポーションについて」)が肝要。オベリスクのシャフトと、その上に乗るピラミディオンとの設計方法が別々に考えられている点が注目され、シャフト底辺の10倍がシャフトの高さとみなされているのが特徴です。同時に、シャフトの底辺がピラミディオンの断面における斜辺に当てられているのでは、という指摘も見逃せません。
でも、ここには主要寸法に当時の尺度における完数が用いられたのではという考えが完全に欠落しています。当時の尺度に基づいた完数による計画が指摘され始めたのは、18世紀なのではないでしょうか。
でも、ここには主要寸法に当時の尺度における完数が用いられたのではという考えが完全に欠落しています。当時の尺度に基づいた完数による計画が指摘され始めたのは、18世紀なのではないでしょうか。
大科学者であったアイザック・ニュートンが、ここでも大事な役割を演じています(cf. Newton 1737)。おそらくニュートンはエジプトのギザに立つピラミッドを初めて詳細に実測した報告書、Greaves 1646を読んで大きな示唆を受けており、Greavesが引用したアラビア語文献での記述、「クフ王のピラミッドの一辺の長さは、古代のキュービットで100王尺」という文面を見てヒントを得たらしく思われます。
Greavesは古典語が読めた他、アラビア語も理解した天文学者。政変によってオクスフォード大学から追放されるなど、ひどい目に会っていますが、古代尺の追究に全力を注いだ人でもありました。その情熱の結果は、もはや学問の領域を超えています。
キルヒャーの本では、次の節に記されている4つの「オベリスクの問題」も検討されるべき(pp. 53-7)。
底辺の10倍がオベリスクの高さに近似するという指摘は19世紀以降、何人もの研究者が指摘しています。でも基準となるはずのシャフトの底辺にかなりの誤差があるということなので、この10倍の値が果たしてシャフトの高さなのか、あるいはピラミディオンを含めた全高となるのかが正確に決定できません。それで「底辺の9~11倍」という曖昧な表現がしばしば取られるわけです。
キルヒャーの本では、次の節に記されている4つの「オベリスクの問題」も検討されるべき(pp. 53-7)。
底辺の10倍がオベリスクの高さに近似するという指摘は19世紀以降、何人もの研究者が指摘しています。でも基準となるはずのシャフトの底辺にかなりの誤差があるということなので、この10倍の値が果たしてシャフトの高さなのか、あるいはピラミディオンを含めた全高となるのかが正確に決定できません。それで「底辺の9~11倍」という曖昧な表現がしばしば取られるわけです。
ですが、この時に課題となるのは頂上のピラミディオンの形状で、ピラミディオンの底辺と高さとが同じであったり、または高さの方が大きかったり、底辺の方が大きかったりとバラバラであることは気になるところ。このかたちの違いは大いに注目すべきで、設計意図を解きほぐす糸口になるかもしれません。
設計はおそらくシャフトの底辺を基準としておこなわれたはず。ですが、もしそうであるならば頂上のピラミディオンの形状を統御することは、微妙な傾斜がシャフトに与えられたりするので、大変難しかったのではないでしょうか。
キルヒャーによるオベリスクの論考は、結局は西洋古典建築のオーダーの基本的な問題に結びつくように考えられ、そこがきわめて面白い点です。
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