ただし、古代ローマにおける尺度で書かれているために換算が必要。またこの採寸の値がどこまで正確なのか、分かりません。しかしエジプトから何本も運ばれてきた奇妙な一本石のモニュメントに、相当の興味が持たれていたことは確かなようです。
ここで挙げるのはLoebシリーズによる英訳。10冊の訳本にまとめられています。内容が多岐にわたるため、訳者も大変だったでしょう。苦労が忍ばれます。
Gaius Plinius Secundus (Pliny the Elder),
Naturalis Historia.
Translated by D. E. Eichholz,
Pliny, Natural History, Vol. X: Libri XXXVI-XXXVII.
Loeb Classical Library 419
(Harvard University Press, Massachusetts, 1962)
xviii, 344 p.
邦訳:
中野定雄・中野里美・中野美代訳
「プリニウスの博物誌」全3巻
(雄山閣、1986年)、
第3巻、pp. 1451-1495.
大プリニウス(Pliny the Elder)と小プリニウス(Pliny the Younger: Gaius Plinius Caecillius Secundus)の2人がいるのは、大プリニウスの甥に当たる人が、非常に貴重なラテン語の手紙類を残しているため。
この本が日本語で読めるというのは嬉しい限りです。この訳書が出版された時には評判になりました。ただ原典のラテン語からではなく、Loebのシリーズによる英訳本文をさらに日本語訳したもので、Loebのシリーズに見られる注釈は省略されていますから注意。
Loebのシリーズによるプリニウスの「博物誌」全10巻の書誌を挙げておきますと、
Pliny the Elder,
Natural History, 10 vols.
(1938-1962)
Vol. I: Books 1-2.
Translated by H. Rackham.
Loeb Classical Library 330
(1938)
Vol. II: Books 3-8.
Translated by H. Rackham.
Loeb Classical Library 352
(1942)
Vol. III: Books 8-11.
Translated by H. Rackham.
Loeb Classical Library 353
(1940)
Vol. IV: Books 12-16.
Translated by H. Rackham.
Loeb Classical Library 370
(1945)
Vol. V: Books 17-19.
Translated by H. Rackham.
Loeb Classical Library 371
(1950)
Vol. VI: Books 20-23.
Translated by W. H. S. Jones.
Loeb Classical Library 392
(1951)
Vol. VII: Books 24-27.
Translated by W. H. S. Jones and A. C. Andrews.
Loeb Classical Library 393
(1956)
Vol. VIII: Books 28-32.
Translated by W. H. S. Jones.
Loeb Classical Library 418
(1963)
Vol. IX: Books 33-35.
Translated by H. Rackham.
Loeb Classical Library 394
(1952)
Vol. X: Books 36-37.
Translated by D. E. Eichholz.
Loeb Classical Library 419
(1962)
最初の5巻と第9巻を訳した1868年生まれのHarris Rackhamは、Loebのシリーズにおいてキケロの訳の他、アリストテレスの著作の訳なども手がけており、こっちの方が本業。古代ギリシア語とラテン語を自在に使いこなすことができた学者であったことが良く分かります。
おそらく全10巻の訳をひとりで完遂したかったと思われますが、1944年に亡くなり、それ故にさまざまに訳者が入れ替わっています。
オベリスクの形状を考える上で「博物誌」の36巻に出てくる記述、
idem digressis inde ubi fuit Mnevidis regia posuit alium, longitudine quidem CXX cubitorum, sed prodigiosa crassitudine, undenis per latera cubitis.
"Ramses also erected another at the exit from the precinct where the palace of Mnevis once stood, and this is 120 cubits high, but abnormally thick, each side measuring 11 cubits."
(XXXVI, XIV: Eichholz, ibid., pp. 50-51)
「ラムセスはまた、かつてムネウィスの宮殿があった構内の出口のところにいま一本立てたが、これは120キュービットの高さがあった。しかし異常に太いもので、各面とも11キュービットもあった。」
(「プリニウスの博物誌」、第3巻、p. 1466)
は重要。
なぜ「異常に太い」という言及がなされたのかが気になります。この時代、オベリスクの普通のかたちが認識されていたのかもしれません。この巻の訳者はわざわざこの部分に註を設け、
"The proportions are not abnormal. In general, the height of about ten times the maximum breadth, which is at the base."
(Eichholz, p. 50)
と述べています。「ちっとも異常ではないように思われるが」という対応。オベリスクの底辺の10倍が全高になるという見方がいつ生まれたのか、興味深いところです。
プリニウスはこのあとにピラミッドについても書いており、以下の文面はギリシアのヘロドトス、シケリアのディオドロス、ストラボンたちによるクフ王のピラミッドの寸法に関する最古の記述に次ぐもののひとつでしょうか。
すなわち、
amplissima septem iugera optinet soli. quattuor angulorum paribus intervallis DCCLXXXIII pedes singulorum laterum, altitudo a cacumine ad solum pedes DCCXXV colligit, ambitus cacuminis pedes XVIS.
"The largest pyramid covers an area of nearly 5 acres. Each of the four sides has an equal measurement from corner to corner of 783 feet; the height from ground-level to the pinnacle amounts to 725 feet, while the circumference of the pinnacle is 16 1/2 feet."
(XXXVI, XVII: Eichholz, pp. 62-63)
「最大のピラミッドは、7ユゲラの面積を塞いでいる。その四面の各々の隅から隅までの寸法は、等しく783フィート、地面から尖頂までの高さは725フィート、一方尖頂の周りは16フィート半である。」
(「プリニウスの博物誌」、第3巻、p. 1469)
と言っているのですが、ここで言う「フィート」は古代ローマの尺度であり、ピラミッドの一辺が"DCCLXXXIII pedes"と書いていますけれども、ローマ尺の1フィート(ペデス)を29.5センチメートル(0.295メートル)と考えるならば、換算値で231メートル弱となり、これはかなり良い数値であるように思われます。
紀元後1世紀の記述で、今から2000年ほど前の文。何を汲み取ることができるのか、それが試されています。
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