Killenはリヴァプール大学で博士号を2012年に取得しました。
意外なことに、タイトルには「家具 Furniture」が含まれず、もっと広い用語の「木工 Woodworking」が使われています。
博士号もエジプト学ではなく、歴史学の分野で博士号を取得したようです。
謝辞の最初には、イアン・ショーの名が掲げられています。
Geoffrey Patrick Killen
Ramesside Woodworking, 2 vols.
Liverpool University, Dissertation, 2012
検索するならば、博士論文の2巻本は入手が可能です。
この博士論文を踏まえた刊行物が、今回紹介する以下の本です。
Geoffrey Killen
Ancient Egyptian Furniture, Vol. III. Ramesside Furniture
Oxford, Oxbow, 2017
xvi, 158 p.
Contents
List of Figures vii
List of Plates ix
Acknowledgements xiii
Abbreviations and Sigla xv
Chapter 1. Deir el-Medhina: A Community of Entrepreneurs? p.1
Chapter 2. An Analysis of Ramesside Furniture Used in Gurob and Memphis p.31
Chapter 3. Remesside Furniture Forms p.43
Chapter 4. Royal and Temple Furniture p.87
Notes p. 99
Appendix A: Remesisde Furniture Types p.103
Appendix B: Furniture Types Illustrated in Ramesside Theba Tombs p.115
Appendix C: Furniture Types Illustrated in Ramesside Memphite Tombs p.137
Appendix D: Distribution of Stool Types by Gender as Illustrated in Private Ramesside Theban Tombs p.141
Appendix E: Distribution List of Replica Wooden Products Manufactured by the Author and Preserved in Museums and Private Collections p.143
Catalogue of Museum Collections p.143
Bibliography p.155
"Abbreviations and Sigla" という章立ては珍しいのですが ,これは♂や♀の記号が文中で用いられているからでしょう。
この方は、古代エジプトの家具に関しては今の時代、第一人者です。
すでにÉgypte, Afrique & Orient 3 (septembre 1996); Killen 1980; Killen 2003などで紹介をしてきました。
この本は、2012年の博士論文の2冊の内容をかなり圧縮して出版されたらしく思われます。
うーん、博士論文と見比べると、もう少し何とかならなかったのかという思いが去来します。
H. G. Fischerの論考に関しては、文献リストの中でLexikon der Ägyptologyの”Stuhl”の項目しか挙げていません。果たしてこれで良いのか? なお、Eaton-Kraussの論考については、3つだけ掲げています。
Killenの博士論文のテーマが「ラメセス期の木工」ですから、仕方がないところもあります。FischerもEaton-Kraussの両名とも、もっぱら第18王朝の家具に言及していますので。
でも時代が違うからと言って、これまで貴重な意見を述べてきた2人の研究者を蔑ろにして良いのか、という感想が残るわけです。
Killenは古代エジプトの家具に関してたくさん本を出しているのですが、特に中王国時代の椅子の解釈や文献引用の方法に関する大きな誤謬が言語学者のFischerなどによって指摘され、エジプト学の中では何となく信用されなくなっている雰囲気です。だからそれを勘案して修正を施した、これから皆が使える家具に関する本の出版を期待していたのですが、残念です。
世界の美術館・博物館に収蔵されているリストは、既刊のリストで漏れていたものだけを掲載しています。巻末で、8ページにわたってカラー写真を掲載。
何はともあれ、古代エジプト家具を知りたい人にとっては必読書となります。
既刊の第1巻・第2巻とは異なり、ハードカバーの装丁です。
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