柔らかい藁色のペーパーバックで、表紙では著者名が省かれており、それは序文にも記されていないから、この本を誰が執筆したのかは最後の奥付を見るまではっきりと分かりません。欧米の本と日本の書籍とでは、書誌の印刷されるページが異なるので、面倒なことを嫌う外国の学者によっては、戸惑う部分かもしれない。
にも関わらず、Thames & Hudson社の刊行書を念頭に置いたその攻撃的なタイトルの意味するところは明瞭で、言わば学界への殴り込みに相当します。
Kento Zenihiro,
The Complete Funerary Cones
(Privately published, Maruzen, Tokyo, 2009)
(iv), 307 p.
関連サイト:
http://www.funerarycones.com/
Contents:
Abbreviations (p. 1)
0. Introduction (p. 3)
1. Brief overview and reasons for the use of cones (p. 5)
2. Funerary cones (p. 10)
3. Comparison of titles based on dates (p. 27)
4. Conclusion (p. 36)
References (p. 37)
Appendices
1. A catalogue of all known cones (p. 48)
Index for Appendix 1 (p. 241)
2. All titles of the deceased who appears in the present work (p. 265)
Index for Appendix 2 (p. 284)
3. A table designating the date and the origin of each cone (p. 293)
4. Assignments by each scholar (p. 295)
Acknowledgements (p. 307)
若い日本人による、こういう大胆不敵な企ては当方の知る限り、これまでなかったと思われるので非常に痛快。
葬祭に関連したコーン(Funerary Cone)がほとんどテーベからしか発見されないという点は、López 1978-1984 (O. Turin)の本の紹介の欄で前に触れました。石灰岩片の上に書かれたヒエラティック・オストラカも同じ。テーベという土地の独自性を示すひとつの指標。
エジプト学においては出土場所も出土点数も限られる特異な遺物であり、編年もこれまであまり考察されなかった状況でしたが、近年、イギリスで纏められた博士論文、
M. Al-Thibi,
Aspects of Egyptian Funerary Cones
(Ph.D. thesis submitted to the University of Liverpool, 2005)
が出たそうで、これに対するひっくり返しが試みられています。
コーンは建築学的にも、軒飾りの一形態として考察されるべき遺物。
第51回日本オリエント学会大会(2009年、京都)での著者による発表で明らかなように、ここではリヴァプール大学の博士論文に対し、日本の修士論文によって「そりゃ違う」という間違いの指摘が本格的に開始されているわけで、これが面白くないはずはありません。リヴァプールの側では、いったい誰が博士論文を審査したのかも同時に問われることになります。
http://www.funerarycones.com/
Contents:
Abbreviations (p. 1)
0. Introduction (p. 3)
1. Brief overview and reasons for the use of cones (p. 5)
2. Funerary cones (p. 10)
3. Comparison of titles based on dates (p. 27)
4. Conclusion (p. 36)
References (p. 37)
Appendices
1. A catalogue of all known cones (p. 48)
Index for Appendix 1 (p. 241)
2. All titles of the deceased who appears in the present work (p. 265)
Index for Appendix 2 (p. 284)
3. A table designating the date and the origin of each cone (p. 293)
4. Assignments by each scholar (p. 295)
Acknowledgements (p. 307)
若い日本人による、こういう大胆不敵な企ては当方の知る限り、これまでなかったと思われるので非常に痛快。
葬祭に関連したコーン(Funerary Cone)がほとんどテーベからしか発見されないという点は、López 1978-1984 (O. Turin)の本の紹介の欄で前に触れました。石灰岩片の上に書かれたヒエラティック・オストラカも同じ。テーベという土地の独自性を示すひとつの指標。
エジプト学においては出土場所も出土点数も限られる特異な遺物であり、編年もこれまであまり考察されなかった状況でしたが、近年、イギリスで纏められた博士論文、
M. Al-Thibi,
Aspects of Egyptian Funerary Cones
(Ph.D. thesis submitted to the University of Liverpool, 2005)
が出たそうで、これに対するひっくり返しが試みられています。
コーンは建築学的にも、軒飾りの一形態として考察されるべき遺物。
第51回日本オリエント学会大会(2009年、京都)での著者による発表で明らかなように、ここではリヴァプール大学の博士論文に対し、日本の修士論文によって「そりゃ違う」という間違いの指摘が本格的に開始されているわけで、これが面白くないはずはありません。リヴァプールの側では、いったい誰が博士論文を審査したのかも同時に問われることになります。
英文によるサイトも併行して開設し、限定しながらも情報を公開しつつ、幅広く意見を求めている点も注目されます。本のタイトルを勘案した方法を採用しており、評価されるべき。
まずはできるだけ品格が上位のエジプト学の専門誌に概要を投稿して・・・などという、従来の因襲的で迂遠な回路を無視し、いきなり英語で単著の出版に及んでいる点が目覚ましい。これに続く人たちが次々と出てくればいいのですが。
カラーページも含んでおり、説明図に工夫がなされています。
スケール・バーをセンチ表示ではなく、古代エジプトのディジット単位だけにしている点は、ちょっと思い切った方法です。センチメートルの単位による実寸の併記がないのは、いささか気になるところ。
11ページには長さが"52.5 cm (= 1 cubit)"のコーンが存在すると書かれていて、ここに振られた註を見るとD. Arnoldからの引用であることが分かり、なるほどそうであるならば、未だエジプト学者たちの間では広く定着していると思われない、
1.875 cm×28 ディジット=7.5 cm(4ディジット)×7 パーム=1 王尺(キュービット)=52.5 cm
という、建築の専門家アーノルドによる遺構の報告書において必ず用いられている換算の値が、この著作では珍しく前提にされているのだな、おお建築関係者にとってはとても喜ばしいことだと感心するのですが、でも他方でその同じページの数行下には、これと矛盾して建築に関わる学徒の期待を完全に裏切る"1 digit=1.6 cm"、という表記が見られます(!)。同じ換算値は略号表における"d."の項の説明(p. 1)にもうかがわれ、縮尺が1:2と明記してある図中の各々のスケール・バーも、測ってみれば1ディジットが全部1.6 cmの長さを表示。
1.875 cm×28 ディジット=7.5 cm(4ディジット)×7 パーム=1 王尺(キュービット)=52.5 cm
という、建築の専門家アーノルドによる遺構の報告書において必ず用いられている換算の値が、この著作では珍しく前提にされているのだな、おお建築関係者にとってはとても喜ばしいことだと感心するのですが、でも他方でその同じページの数行下には、これと矛盾して建築に関わる学徒の期待を完全に裏切る"1 digit=1.6 cm"、という表記が見られます(!)。同じ換算値は略号表における"d."の項の説明(p. 1)にもうかがわれ、縮尺が1:2と明記してある図中の各々のスケール・バーも、測ってみれば1ディジットが全部1.6 cmの長さを表示。
因みに1.6 cmを28倍すると約45cmで、これは小キュービットの長さと同一となり、王尺として知られるキュービットの長さである52.5 cmには届きません。
1ディジット当たりの違いで見れば、ほんの僅かな数ミリです。
けれどもこれですと、基本となるキュービット尺の長さをこの研究者は一体どのように考えているかが反問されかねず、注意が必要。1.6 cmという値は1.9 cmの単純な誤植なのか、ミスにミスを重ねた計算間違いなのか、それとも小キュービットが適用されるのではという重要な考えを示唆しようとして、錯誤も交えながら言葉足らずに終わっている部分なのか。
それは出土しているコーンの直径がすべてほとんど一緒であるという事実と、どこでどう交差するのか。新王国時代の煉瓦の標準サイズ、特にその厚さと果たして深く関わる問題なのかどうか。
いろいろと混乱を招く箇所かと思われます。
新たに加えられた資料には、著者自身の名が付されています(pp. 233-240)。この著者の意気込みが感じられ、今後の研究の進展が大いに期待されます。
サイトを通じての申し込みによって、購入が可能。煉瓦などに押印されるスタンプに興味を抱いている人であるならば、手元に置く価値がある貴重な一冊で、お勧めです。煉瓦スタンプと思われる若干の例が、先行研究を尊重してそのまま掲載されていますし、もともと王名と私人名との双方に関するスタンプの集成はJ. Spencerによる煉瓦の本(Spencer 1979)などでしか見られず、稀です。