2009年7月23日木曜日

Spencer 1979


古代エジプトの煉瓦造建築に関して取り纏めた珍しい本。さまざまな技法が図示されています。スペンサーは中部エジプトにあるアシュムネインの神域の発掘調査を手がけていた人。この本もアシュムネイン調査と関連しており、言わば自分が使うためのカタログを出版したとみなせなくもない。

A. J. Spencer,
Brick Architecture in Ancient Egypt
(Aris & Phillips, Warminster, 1979)
v, 159 p., 56 plates

建築調査は石造のものが優先的に対象とされたというのは理由があって、要するに煉瓦造の建物は壊れ方が甚だしく、その記録方法がきわめて面倒であるために、手をつけるのが億劫であったということに尽きます。修復方法も、未だ確立しているとは言えません。難題が折り重なっている建材だと言うことができます。昔のように、取り除けてしまうと非常に楽なのですが、そうも行かない。

こういう種類の本が今まで出ていなかったというのが不思議です。
ただ、これはカタログなので、最初から最後まで通して読むようなものでは決してない。必要な時に、該当部分を引いて読むものです。巻末の組積方法の分類はきわめて見にくく、立体的に表現するなど、工夫があっても良かったと思われます。ブケウムの報告書における分類に倣ったのでしょうが、惜しまれるところ。
この本が出版されてから、ケンプが煉瓦の項目を執筆したり、補足の情報がいくつかあるけれども、まだ煉瓦については書かれるべきことが残されているような気がします。

煉瓦の組成分析については、あまり進んでいないように感じられます。ナイル川が運んできた黒土に、砂やスサを混ぜる他に、何を加えるのかということがはっきりしていません。灰を混ぜたとか、動物の糞を混ぜた、という説がどこまで本当なのかが良く分かっていないということです。
アマルナを訪れると、使われている煉瓦の砂質成分が多いことに驚かされます。煉瓦と言っても質が均一ではないから、丁寧な報告ではいくつかに分類されたりしますが、アマルナの煉瓦の特質といったものがもっと強調されても良い。

煉瓦の大きさに関しては、時代に応じた変化がグラフ化されているけれども、一般化できるようなものではなく、例えば煉瓦の長辺を測ると時代が分かるようにはなっていません。古代エジプトに規格が無かったのかという主題はしかし、キュービット尺があれだけ長い期間にわたって固定化されていたことを勘案するならば、奇妙な話です。タラッタートの大きさは、建造作業において便利ではなかったのかなど、話題は拡がります。

他の近隣地域の煉瓦についてはMooreyなどが書いていますが、これも年代が経っており、改訂を求める声は多いはず。技法に関する写真も増やした新たなものが望まれています。

日本における焼成煉瓦の包括的な研究というと、

水野信太郎
「日本煉瓦史の研究」
法政大学出版局、1999年

がまず挙げられるはず。これ以外はciniiで論文などを検索するのが早道となります。

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