2014年5月10日土曜日

De Bruyne 1982


オランダの美術館が企画した展覧会「古代エジプト家具芸術のかたちと幾何学」のカタログ。
M. Eaton-Kraussは古代エジプト家具の専門家でもあり、彼女の執筆によるJEAに掲載された家具に関する論文の註によってこの本の存在を知りましたが、ようやく入手することができました。ツタンカーメン研究でも広く知られているEaton-Kraussの家具に関する論考については、Eaton-Krauss and Graefe 1985や、Eaton-Krauss 2008を参照。

De Bruyneによるこのカタログは、ほぼ真四角の本で、図版はすべてモノクロです。
地方の美術館・博物館で企画された展覧会のカタログは、日本で入手しようと思うと困難が待ち受けています。Vogelsang-EastwoodによるTutankhamun's Wardrobeなども、日本に何冊入っているのか、良く分かりません。
エジプト学に関する海外書籍の入手方法を、かつては偉そうにサイトを作って書いたこともありましたけれども、インターネットの急速な発展に伴い、すぐに古びてしまいました。

オランダの展覧会は、非常に意欲的なものであったことが以下の目次の構成からも了解されます。

Pieter De Bruyne
Vorm en Geometrie in de Oud-Egyptische meubelkunst
Gent, Gent-Museum, 1982.
108 p., 26 plates, 60 figures.

Woord vooraf: 
De Egyptische "Canon" (p. 4)
Erkentelijkheid (p. 5)

0  Inleiding (p. 6)
1  De ontledingen (p. 8)
2  Konstruktieprincipes (p. 10)
3  Vorm en symbool (p. 13)
4  Vorm en ethiek (p. 13)
5  Middelen (p. 14)
6  De analysen (p. 15)
7  KIST. esdoorn, wit geschilderd met opschriften (p. 15)
8  Laag krukje, geschilderd hout (p. 20)
9  Zitting van laag krukje, geschilderd hout (p. 26)
10  Tafel hout (p. 29)
11  Kistje, geschilderd hout (p. 36)
12  STOEL, palmhout en Acacia (p. 40)
13  STOEL, Hout met inlegwerk in ivoor (p. 44)
14  PIEDESTAL, hout, geschilderd (p. 50)
15  Vergelijking met aanpalende kulturen (p. 60)
16  Het meubel en de canon (p. 66)
17  Voorlopige besluiten (p. 70)
18  TOILETKISTJE van KEMEN, cederhout, ebbenhout en ivoor en zilver beslag (p. 70)
19  De diagonalen en de maatvoering (p. 75)
20  Het meetkundig schema en de praktijk (p. 75)
21  Het egyptische meubel, situering en betekenis (p. 79)
22  Nawoord (p. 82)

Voetnota's (p. 83)

English summary (p. 85)

内容はきわめて刺激的です。分析図は多く掲載されており、また幾何学形態の模型を同時に提示しているのも面白い。家具で見られる各種の勾配がどのように定められたのかを追究している図に、もっとも惹かれます。
巻末に英文の要約が掲載されており、オランダ語で書かれている内容の概要を把握することが可能。ただ部分的に意味が不明な記述もうかがわれ、

"Illustration 3 shows, in comparison with the aforementioned royal cubit, the six-part cubit, in which 1 palm=0.0875 m; this revised unit measure was introduced at the beginning of the 16th century."
(p. 92)

と明らかにおかしい時代となっているので原文を確かめると、"begin van de XXVIo dynasty" (p. 14) と書かれており、この記述であるならば納得するわけです。

現代においては良く知られている幾何学的な分割方法が、どこまで古代エジプト人に知られていたのか、これがカギとなるわけですが、個人的には後半の論理の展開には無理があるように感じています。しかし、冒頭において"Grenzen van het onderzoek (Limits of the study)" (p. 7) の項目を設けている点は注目されるべきで、この慎重な態度にまずは注目したいと思います。参考文献のページは、さほど充実していません。プラトンの「対話篇」が引用されているのが興味深く思えます。
古代エジプト家具の設計過程を考える上で、重要な書となります。著者は1931年生まれ。


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