2009年6月5日金曜日

Kramer 2009


古代エジプトの新王国時代末期、アクエンアテンによるアマルナ時代だけに用いられた定形の小型石材を「タラタート」と呼び、3000年続いたエジプトの石造文化の中では異色。この大きさの石が出土したら、時代が分かると言うことになります。石の寸法を測ったら時代が分かるなどという研究は、世界でほとんどおこなわれていないはず。
クメール建築の分野で、ちらと見た覚えがありますけれども、建築学の専門家による考察ではありません。

このタラタートに関する文献を網羅しようとした論文で、早稲田大学の河合望先生からの御教示。こうした論考の背景には岩石学からの新たな知見が増えたこと、石切場の調査が近年、増加していることなどが挙げられます。
鍵となる本があって、すでに紹介しているVergnieuxらによる書籍がこの方面の研究をうまく促しています。

Arris H. Kramer,
"Talatat Shipping from Gebel el-Silsileh to Karnak:
A Literature Survey",
in Bibliotheca Orientalis (BiOr) LXVI, No. 1-2 (2009),
cols. 7-20.

「ビブリオテカ・オリエンタリス」は、BiOrと略記される中近東関連の研究紹介雑誌で、オランダから出版。年に3回発行で、書籍に関する雑誌。

年に1回刊行されるのは年刊誌(annual journal)。年に2回出るのは年2回刊誌(semiannual journal)。2ヶ月に一度の割合で、一年に6冊出る形態は隔月刊誌(bimonthly journal)。3ヶ月に一度の割合で、年に4回刊行されるのは季刊誌(quarterly journal)。

BiOrはいずれでもなく、年3回刊誌(quadrimonthly journal)で、かつてのDiscussions in Egyptology (DE)やVaria Aegyptiaca (VA)などもそうでした。
Quadrimonthlyというのは聞き慣れない語ですが、quadr-というのは建築で時折、目にする単語。Quadrangleやquadriface、またquadrupleなど。「4」を意味します。

この雑誌では、組版が二段組となっていて、1ページの中に縦にふたつ、文章のコラムが立ち、それぞれに別のナンバーが振られます。1ページ内にふたつの番号が振られるという方法。引用箇所の指定の際には、「××ページ、左」というような書き方よりも簡単な指示ができるわけで、エジプト学における最強の百科事典、Lexikon der Ägyptologieと同じやり方。

建築でタラタートが問題となるのはまずその大きさで、52×26×20-24センチメートルという定形のうち、高さがどうしてこの値となるのかが良く分からない。1キュービットは52.5センチですから、長さはこの尺度を意識したに違いなく、また幅もこれの半分です。タラタートの積み方はレンガで言うイギリス積みで、組積の際には縦目地が揃うことは避けられますから、レンガの場合と同じく、1/4枚分の幅だけずらされることになります。
高さが幅よりも若干短い根拠、また長さと幅に比べて誤差が大きい理由は不明ですが、石材の層理を考えてのことであったのかもしれません。寸法が同じだと、横に並べて置くべきものを縦に倒して設置する可能性があるからで、石目を意識した結果かも。
Kramerは註7で、1×1/2×1/2キュービット、と書いていますけれども、高さを幅とは数値を揃えない明瞭な意図があったのかもしれない。

ベルギー隊の報告に基づき、

"Quarry marks on the ceilings of some of the stone quarries at this site indicate the size of the blocks to be extracted." (col. 13)

と書いてありますが、ひょっとして彼らは石の切り出しの際のセパレーション・トレンチのこと、また天井面に沿って水平に掘り進めるトンネルのことを忘れているのではないかと思います。必要な石材の大きさが、石切場の天井面に残されることはほとんどないということに気づいていないのではないかという心配があり、ベルギー隊の調査の進捗が注目されます。

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