2010年9月8日水曜日

Malacrino 2010 (English ed.)


ほとんど全ページにカラー図版が用いられており、大変見やすく、限られた分量の中で古代ギリシアと古代ローマにおける建造技術をうまく纏めています。石造建築に限らず、土を用いた構法についても触れている点は重要。土木に関連した遺構についても、いくらかページを割いています。
西洋の古典古代建築に興味を持っている方が最初に購入する入門書としては、お勧めの一冊かもしれない。5000円ほどでしたから、決して高くはありません。内容は充実しています。

Carmelo G. Malacrino,
translation in English by Jay Hyams,
Constructing the Ancient World:
Architectural Techniques of the Greeks and Romans

(First published in Italy in 2009 by Arsenale-Editrice, Verona, "Ingegneria dei Greci e dei Romani".
English ed., The J. Paul Getty Museum, Los Angeles, 2010)
216 p.

Contents:

Introduction (p. 4)
Natural Building Materials: Stone and Marble (p. 7)
Clay and Terracotta (p. 41)
Lime, Mortar, and Plaster (p. 61)
Construction Techniques in the Greek World (p. 77)
Construction Techniques in the Roman World (p. 111)
Engineering and Techniques at the Work Site (p. 139)
Ancient Hydraulics: Between Technology and Engineering (p. 155)
Heating Systems and Baths (p. 175)
Roads, Bridges, and Tunnels (p. 187)

Glossary (p. 208)
Bibliography (p. 210)
Index (p. 213)

ただ専門家が重宝するかというと問題があって、この本に掲載されている図版では原典の引用がことごとく省かれています。イタリア語で書かれたという原著にはそれらが記載されているのかどうか、未見ですので詳細が分からないのですが、先行研究の図版をもとにして新たに描き直したらしきものが多々うかがわれ、OrlandosKorresAdamなどの著書をもとにしているなということが、一見して明瞭な描画が含まれます。
当方も経験があるけれど、図を描き直したら著作権に気を遣う必要はない、というのは大きな間違いで、原典はやはり明記すべきと思われます。こうした点の配慮は欲しかったところ。高名なゲッティから出ている本ですので、信用する人は多いはず。

紙幅がないことを勘案するならば、参考文献のリストはよく纏まっているように思われます。
ただKorresの名前が見当たらないようですが、同じゲッティから出ている本だし、まあいいや、ということなのかもしれません。Coultonについては著書が取り上げられず、論文がたった1本だけしか載っていなくて可哀想。Hellmann 2002, 2006は記載。Rockwell 1993も載っています。
リストにはWilson Jones 2000が体裁上、加えられているけれども、今回取り上げたこの本には古代の設計方法については一切述べておらず、それ故にCoultonの代表作も落ちているのかも。構法、つまり建物の造り方に限定して書かれているとみなすべきです。

ならば、建造前の、いろいろと問題が沸き上がって矛盾が錯綜し、それをどう整理するのかという、建築で一番面白くてわくわくする設計・計画に関するところが抜け落ちているのではないのか、という反問も当然ながら予想されるように感じるのですが。
こういうことを熱望するのはしかし、少数意見となり、残念な点です。

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