Égypte, Afrique & Orient(
http://www.revue-egypte.net/)はフランスのアヴィニョンから年に4回刊行されている雑誌。毎号のテーマを決めて少数の書き手により紙面を埋める構成を取ることが多く、最近の特集の中では第64号(2011-2012年)の「古代エジプトの船と航海 Les bâteaux et la navigation en Égypte ancienne [I]」などが目を惹きます。海洋を通じた交易とこれに伴う船舶に関しては
Journal of Ancient Egyptian Interconnections (JAEI) 2:3 (August 2010)において、"Special Maritime Interconnections Issue"と題した特集が組まれました。また
British Museum Studies in Ancient Egypt and Sudan (BMSAES) 18 (August 2012)でも、"Mariners and Traders"、"Egypt's Trade with Punt"と題された特集号を刊行。古代エジプトの船については近年、新たな情報が増えつつあり、第1王朝のデン王時代の木造船の出土は2012年7月のニュースでも報じられたところ。
船に関しては、これまでの成果を簡便にまとめ、特に中王国時代の資料を充実させた最新刊である
Michael Allen Stephens,
A Categorisation and Examination of Egyptian Ships and Boats from the Rise of the Old to the End of the Middle Kingdoms.
BAR International Series 2358
(Archaeopress: Oxford, 2012)
vi, 220 p.
も出ている模様です。
Égypte, Afrique & Orientは一般向けとは言え、カラー写真も組み込まれ、また世に知られている学者たちが執筆しているので資料的な価値が高く、それ故にオクスフォードのグリフィス研究所ではポーター&モス(cf.
Porter and Moss, 8 vols.)を編纂するための予備作業として、この雑誌に掲載されている遺物の総リストを作成したりしているのでしょう(cf.
http://www.griffith.ox.ac.uk/gri/3Egypte_Afrique_&_Orient.pdf)。
ここでは
Égypte, Afrique & Orientの、古代エジプト家具の特集号を掲げます。
Égypte, Afrique & Orient 3 (septembre 1996)
Les meubles des Anciens égyptiens
Sommaire
Geoffrey Killen: "Le travail du bois et ses techniques dans l'Égypte ancienne",
traduit de l'anglais par Anne Berthoin-Mathieu (pp. 2-7).
Jean-Luc Bovot: "Les meubles égyptiens du musée du Louvre" (pp. 8-13).
Enrichetta Leospo: "Les meubles égyptiens. Les styles de l'Ancien au Nouvel Empire. Tendances et innovations",
traduit de l'italien par Jean Bruguier (pp. 14-19).
Christian E. Loeben: "La fonction funéraire des meubles égyptiens",
traduit de l'allemand par Nathalie Baum (pp. 20-27).
4人の執筆者のうち、フランス語で書いているのはたったひとりだけで、あとは英語、イタリア語、ドイツ語で書いてもらった原稿を仏訳して載せています。どの人もかなり有名。
Loebenの原稿をフランス語に訳した
Baumは、
Nathalie Baum,
Arbres et arbustes de l'Égypte ancienne:
La liste de la tombe thébaine d'Ineni (No 81).
Orientalia Lovaniensia Analecta (OLA) 31
(Leuven, 1988)
xx, 381 p.
を出しています。
最初の書き手については前にも何回か触れました(
Killen 1980;
Killen 2003;
Herrmann ed. 1996)。現在はラメセス期の家具に関してまとめをおこなっているようです。木工技術についての紹介。
2番目の人は古代エジプト美術の解説書を執筆している他、ルーヴル美術館のサイトでは作品の解説文も手がけている研究者。ルーヴル美術館に収蔵されている良質の家具を、たくさん取り上げている点が注目されます。
3番目のレオスポについては、
Leospo 2001などを参照。トリノ・エジプト博物館の遺物を交え、新王国時代の家具の様式を概観しています。家具の様式については
H.G. Fischer(cf.
Fischer 1996)が著した「4つの講義録」、
L'écriture et l'art de l'Égypte ancienne: Quatre leçons sur la paléographie et l'épigraphie pharaoniques (Paris, 1986)の中で重要なことが述べられており(Leçon IV: Les meubles égyptiens, pp. 169-240)、その線に沿って語られている論考。
レーベンはテーベ西岸の「王妃の谷」の研究等で知られていますが、この知見を生かし、「死者の書」でうかがわれる記述と副葬品としての家具との関連を最初に述べ、墓の中に副葬品として納められる家具の役割を語っています。ツタンカーメンの家具も取り上げられていて、面白い見方が展開されています。開け閉めで用いる部分のすり減っている度合いから、王宮内で使われていた家具であろうと判断するなど、観察が詳細で非常に鋭い。
この雑誌は古い号の入手が難しく、エジプト学の書だけを専門とする特異なフランスの古書店
Librairie Cybeleを通じても品切の状態がずっと続いています。
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