2012年7月17日火曜日

Iversen 1993 (First Published in 1961)


30年以上経ってから再版されたイヴァーセンの著作。イヴァーセンについてはIversen 1968-1972や、あるいはヨーロッパにおけるオベリスクの受容史を述べた分厚いCurran, Grafton, Long, and Weiss 2009、あるいはRobins 1994を参照のこと。

Erik Iversen,
The Myth of Egypt and its Hieroglyphs in European Tradition
(Princeton University Press: Princeton, 1993. First published in 1961, Gec Gad Publishers, Copenhagen)
178 p.

Contents:

Preface (1993) (p. 7)
Preface to the First Edition (p. 9)
I The System of Hieroglyphic Writing (p. 11)
II The Classical Tradition (p. 38)
III The Middle Ages and the Renaissance (p. 57)
IV The Seventeenth and Eighteenth Centuries (p. 88)
V The Decipherment (p. 124)

Notes (p. 147)
List of Illustrations (p. 169)
Index (p. 173)

本の裏には紹介文が面白く書かれており、

"This is the story of a creative misunderstanding: an erroneous interpretation of the traditions of ancient Egypt became a rich source of inspiration for Europeans from ancient times through the medieval and Renaissance periods to the Baroque era. The misguided notion that hieroglyphs were allegorical, and that they constituted a sacred writing of ideas, exerted a dynamic influence in almost all fields of intellectual and artistic endeavor, as did conceptions of Egypt as the venerable home of true wisdom and of occult and mystic knowledge."

と記してあって、"misunderstanding", "erroneous interpretation", "misguided notion"と続けざまにネガティブな言葉が並べられ、それらの試行錯誤がついにはヒエログリフの解読に繋がったという粗筋が明らかにされています。
自分の知っている見方を、異なった文化の人間に押し付けて解釈するのは良くあること。その過程が歴史の中で淘汰され、次第に両極端の見解が近づき、共通の理解へと収斂していくさまがテーマとなっています。エジプト学の歴史はナポレオンの「エジプト誌」によって始まるとは良く言われますが、それより以前の思考過程については、これから詳細が明らかにされていくのでは。

再版のための序文の中で、フランシス・イエイツ Frances Yates の著作に触れられている点は注目されます。
彼女の本は日本語訳もけっこう出ているから、ここでは述べません。しかしエジプト学者にとって重要なのは、文字の解読に関しては片づいたものの、ヘルメス学(主義)の源流を古代エジプト文明に遡らせるかどうかの判断であって、多くの者は慎重な態度を取っています。
「化学 chemistry」や、錬金術の「アルケミー alchemy」などの語については古代エジプト語の「ケメト "kmt"; kemet」に由来するということは率先して語りながら、直接的な関連についての論理的な防御がきわめて堅いのが特徴。Trigger 1993でも、「エジプト学者は古代エジプト文明を独自なものと思い込んでいる」という批判が見られました。

建築でいうと、ルービッツ R. A. Schwaller de Lubicz のような考え方に対し、どのような反駁が具体的にできるかということになります。黄金比(1:1.618...)や円周率(1:3.14...)が古代エジプト建築の計画方法において考慮されたという諸論は今日でも語られており、Kemp and Rose 1991のような回りくどい説明が必要になっている原因。論の差異と言うものが、明快に指摘されていません。Rossi 2004の欠点があるとするならば、そこにあるかとも思われます。
いくらかの年月が、まだかかるのかもしれません。

0 件のコメント:

コメントを投稿