2009年10月5日月曜日

Hayes 1937


断片的に出土した彩色陶板を報告し、復原考察をおこなったもの。ラメセス2世の宮殿があった場所から見つかった絵付きの飾り板を、そのモティーフや形状によってタイプ別に分け、次いでどこで使われていたかを探っています。
きわめて少ない情報から建築を想像して組み立てていくパズルをやっており、絵画史料を駆使して復原を進めている典型的な論考。わずか数十ページからなる薄い冊子で、最終ページには500部発行ということが明記してあります。報告書の発行部数としてはこの数字が最小限度であるはずで、カラー図版もなく、安く作られたと思われる報告書。
この頃は、第二次世界大戦が始まろうとしている不穏な時代でもありました。
カンティールを含め、第2中間期〜新王国時代における下エジプトの都市に関する総合的な研究は、この後にマンフレッド・ビータックによる大規模な発掘調査へと引き継がれます。
キーワードはアヴァリスやテル・エル・ダバァ。

William C. Hayes,
Glazed Tiles from a Palace of Ramesses II at Kantir.
The Metropolitan Museum of Art Papers, No. 3
(The Metropolitan Museum of Art, New York, 1937)
46 p., 13 plates

著者はニューヨークのメトロポリタン美術館に勤め、収蔵品に関する公開に貢献しました。実地の訓練で古代エジプト語を覚えた人です。ヒエラティックの読み手としても知られ、建築に関わる重要な考察も残しました。JNESに4回に渡って連載したマルカタ王宮出土の文字資料の報告は絶対に欠かすことのできないものだし、またハトシェプスト女王に仕えて寵愛された建築家センムトの墓出土の、石灰岩片のヒエラティック・インスクリプションの読解がなされた

William C. Hayes,
Ostraka and Name Stones from the Tomb of Sen-mut (No. 71) at Thebes.
Publication of the Metropolitan Museum of Art, Egyptian Expedition Vol. XV
(The Metropolitan Museum of Art, New York, 1942)
viii, 57 p., 33 plates

は、「ネビィ」という尺度を考える上で必ず触れられる研究。トトメス時代のオストラカをいくつも読んで建築工事の進展の様子を述べた面白い論文をJEAに書いたりもしています。
代表的な著作はしかし、おそらくは

William C. Hayes,
The Scepter of Egypt:
A Background for the Study of the Egyptian Antiquities in The Metropolitan Museum of Art,

2 vols.
(The Metropolitan Museum of Art, New York, 1953)
xviii, 421 p. + xv, 526 p.

で、メトロポリタン美術館に収蔵されている遺物を紹介することを目的とした通史。載せる図版が先に決まっていて書かれた2巻本で、良くできています。これを見ればこの美術館に収められている名品がひと通り解説されるという、うまい仕組みになっており、重版が出されている理由も分かります。

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