2009年10月8日木曜日

Stadelmann 1991 (2., überarb. und erw. Aufl.)


ピラミッドの通史についてエジプト学者が本腰を入れて書いた専門的な刊行物。現在、関連する研究論文においては、もっとも引用される回数が多い本かと思われます。
初版は1985年で、第2版が出回っています。

Rainer Stadelmann,
Die ägyptischen Pyramiden vom Ziegelbau zum Weltwunder.
Kulturgeschichte der antiken Welt, Band 30
(Philipp von Zabern, Mainz am Rhein, 1991.
2., überarbeitete und erweiterte Auflage)
313 p.

ピラミッドに関して、おそらく一般の人が読む機会が多いのは、

Mark Lehner,
The Complete Pyramids
(Thames and Hudson, London, 1997)
256 p.

で、これは下記のように和訳も出ており、

マーク・レーナー著、内田杉彦訳、
「図説 ピラミッド大百科」
(東洋書林、2000年)
256 p.

広く馴染みがあるだろうと推測されますが、著者のレーナーは格別、ピラミッドの歴史全体についてこれまで注目される論文を書いている研究者であるわけでもなく、彼が発表している論考の内容はだいたい、自身が関わっているギザにおける調査区域の成果の記述から一歩も出るものではありません。
ピラミッドの通史については画期的な内容を含んでいないことを勘案すべき。建築学的観点からは、これは言わば、カタログに該当します。

Mark Lehner,
"The Tomb Survey",
in Geoffrey T. Martin,
The Royal Tomb at el-'Amarna II.
Archaeological Survey of Egypt (ASE) 35
(EES, London, 1989)
pp. 5-9.

では、アマルナに残るアクエンアテンの墓の断面において、黄金比に従った計画が推測されると記しており、その見方をC. ロッシ(Rossi 2004)によって根本的に手厳しく批判されています。あんまり建築学的な素養がない人だと言うことが、これだけでうかがわれます。

ピラミッド全体を見渡そうとした本で、専門家が書いたものとしてはまず、大御所のJean Philippe Lauerの執筆した書が掲げられますけれども、ロエールの著作に関しては、現在ではかなりの訂正が必要。
ネチェリケト王によるサッカーラの最初のピラミッド(階段ピラミッド)の調査と復原に長く携わった建築家でしたが、彼の論考が今後、どのように評価されるかは注目すべきです。

年代順としては、次いでエドワーズの本、

I. E. S. Edwards,
The Pyramids of Egypt
(Viking Penguin Inc., New York, 1986, revised edition. First published in 1947)
xxii, 328 p.

が挙げられるかと思います。この本は多くの読者を獲得しました。和訳もやはり刊行されています。
近年に刊行されたヴェルナーによるピラミッドの本も和訳されていて、これはいろいろな逸話も交えており、面白い本です。チェコスロヴァキアの研究者で、もちろんエジプト学におけるチェコの立場を高めようと目論まれた書。

Miroslav Verner,
Deutsch von Kathrin Liedtke,
Die Pyramiden
(Rowohlt Verlag, Reinbek bei Hamburg, 1998. Die tschechische Originalausgabe erschien 1997 unter dem Titel bei Academia Prag)
540 p.

Kurt MendelssohnによるThe Riddle of Pyramids (London, 1974)を含め、日本語でこれらの主要な書が逐一翻訳されている点は、活用されるべき。

シュタデルマンによるこの本の評価は、これからです。
中王国時代の、テーベにおけるメンチュヘテプの神殿の新たな復原は、かなりの程度、喧伝されました。ウィンロックによるピラミッドを載せた復原案がこれまで知られていましたが、文献学上の記述を重視したこの案に対し、建築家ディーター・アーノルドがこれに異を唱え、史料として残る建物の記述の方法にはピラミッドのかたちの文字を決定詞として記す例が他にあることを示し、構造的な見地からも、上部にはピラミッドがなかったはずだと判断しています。
これを受け、シュタデルマンは「原初の丘」を思わせる盛り土と、その上に生えた木々の姿を見せる復原案を発表。復原を巡る可能性の掛け金が外されたのであれば、それをもっとも遠くにまで引き延ばした場合にはどうなるのかという提案です。
こういうところにシュタデルマンの本領があらわれるように思われます。

古代エジプトの王宮についても数多く発言しており、思い切ったことも書く人です。
ピラミッドを調べようと志したら、必ず突き当たる重要な本。

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