2009年10月12日月曜日

Kerisel 1987


もう最近亡くなってしまいましたが、非常に見識の広かった土木工学者による書。「基礎の過去と現在:建造者による見えない技芸」というその題名が、著者の意図を良くあらわしています。地域・時代を問わず、人間が造った建造物と、それを支えた地盤の研究に一生を捧げた人物です。Crozat 1997でこの人の著作が引用されている、そう書いたこともありました。

Jean Kerisel,
Down to Earth.
Foundations Past and Present:
The Invisible Art of the Builder
(A. A. Balkema, Rotterdam, 1991)
ix, 149 p.

何冊も本を書いていますけれども、この本が一番特色を打ち出しているかもしれません。
扱う対象は恐竜の足跡から始まって、メソポタミアのジッグラト、エジプトのピラミッド、ギリシア・ローマの遺構、古代の中国、インドネシアのボロブドゥール、ピサの斜塔から各種の橋梁やダム、パナマ運河、エッフェル塔などに至るまで、本当に多種多様です。
地球上に築かれた構築物であり、建造される前に基礎工事がなされたというこのただ一点だけの共通点で、これらは結ばれています。

安定しているように見える地面も、実を言えばそうではなく、地球は動いているものなのだというプレート・テクトニクスも紹介されています。もちろん、建物を支える地盤とはスケールの違う話であるのですが、例えば王家の谷の岩窟墓の崩壊過程を示しているように、地球のゆっくりとした動きから眺めるならば、いずれはどの構築物も消えて無くなるのだというような徹底的に醒めた視点がどこかに感じられ、それがたぶん、この本の特色になっています。

ピラミッドの勾配に関しても独自の見解を有していたように見受けられ、この点でも注目されます。きわめてユニークな人物による本で、死去が惜しまれます。

0 件のコメント:

コメントを投稿