2009年10月9日金曜日

Iversen 1968-1972


オベリスクがヨーロッパに多数渡った顛末を述べた2巻本。
縦長の変型版が採用されており、強い印象を与える刊行物です。1巻目と2巻目との間に4年間の開きがありますが、どうやらイスタンブールのオベリスクを調べていくうちに記述が増えて、当初の出版予定に大きな変更が強いられたらしい。第2巻目の序文には、「第3巻目でフランス、ドイツ、イタリア、アメリカのオベリスクを扱いたい」と記していますけれども、もはや続巻を望むのは無理なようです。

建築関連で、このように中途で刊行が挫折しているシリーズがいくつもあって、バダウィによる「古代エジプト建築史」の4冊目が結局は出なかったのを初めとして、ペンシルヴェニア大学隊によるマルカタ王宮の報告書シリーズ(2冊のみが既刊)、イタリア隊による全ピラミッド調査報告書のシリーズ(2〜8巻だけが既刊)など、基本的な部分で問題が多いこと、この上ありません。

Erik Iversen,
Obelisks in Exile, 2 vols.
(G.E.C. Gad Publishers, Copenhagen, 1968-1972)

Vol. I: The Obelisks of Rome (1968)
206 p.

Vol. II: The Obelisks of Istanbul and England (1972)
168 p.

イヴァーセンという研究者はとても面白い人で、壁画にうかがわれる下書きの格子線とキュービット尺との関連を述べた研究が一番知られているかと思います。 この考察に対しては数学者を夫に持っていたアメリカの学者ロビンスが反論を発表し、今ではこちらの方が支持されている傾向にありますが、反対意見も見られることは記憶にとどめておいていい。Robins 1994を参照。在野の研究者レゴンの意見も、読むべき価値があると思います。

イヴァーセンのやってきたことはバラバラではないかとも一見、感じられます。よく知られた"Canon and Proportions in Egyptian Art"の初版が発表されたのと同じ年の1955年に、赤や青、緑や黄色といった顔料がどのような名前を有し、記されているのかを考察しており、数例だけ残っている「色(顔料)のリスト」を調べ上げました。
古代エジプトにおいて、色というものがどのように考えられたのかを知りたい人にとっては、基本の文献。

Erik Iversen,
Some Ancient Egyptian Paints and Pigments:
A Lexicographical Study.

Det Kongelige Danske Videnskabernes Selskab;
Historisk-filologisske Meddelelser, bind 34, nr. 4
(Det Kongelige Danske Videnskabernes Selskab, Kobenhavn, 1955)
42 p.

エジプト学で見つかるさまざまな穴を、上手に探ることのできる人と言っていい。
1992年には献呈論文集も出されました。

Jürgen Osing and Erland Kolding Nielsen (eds.),
The Heritage of Ancient Egypt:
Studies in Honour of Erik Iversen.

CNI Publications 13
(The Carsten Niebuhr Institute (CNI) of Ancient Near Eastern Studies, University of Copenhagen / Museum Tusculanum Press, Copenhagen, 1992)
123 p.

編者はオージング・他で、他にアスマン、エデル、エドワーズ、ヘルク、ルクランといった大御所たちが目次に名を連ねています。

北欧の代表的な研究者のひとりとして数え上げることができ、フランス・ドイツ・イギリス・イタリアなどと比べれば傍流に属する環境の内にあって、エジプト学に対し、何ができるのかを絶えず考え続けた人だということが伝わってきます。
日本も何となくやって行けるのではないかと、勇気を与えてくれる学者。

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