2011年9月12日月曜日

Zwerger (English ed.) 1997



古代ローマの木工に関する包括的な論考はUlrich 2007として纏められていますが、古代エジプトの木工についての集成となると、前にも記した通り、なかなか難しい。Sliwa 1975が刊行されていますけれども、これが出てからもう35年以上が経過しています。彼はパイオニアとして木工技術研究の最先端を開いたのですが、粗筋を書いたわけで、以後にたくさんの報告が細分化されたまま重ねられており、これらを再度纏める作業には大変な労力が必要とされる状況。
木工技術に関わるもののうち、近年で発表が目覚しいのは家具の分野と船舶の分野で、古代エジプトの継手と仕口に関する新しい知見が披瀝されています。しかし、この他にも木棺や木彫像、祭祀道具類、そして兵器の分野などが残されており、馬に引かせる戦闘用の馬車の図化はGuidotti (ed.) 2002などで看取されますが、あとはそれほど多くありません。
俗称「村長の像」と呼ばれている、古王国時代の神官カーアペル Ka-aper の木彫人物像で観察される仕口については、

M. Eldamaty and M. Trad (eds.), foreword by Z. Hawass,
Egyptian Museum Collections around the World:
Studies for the Centennial of the Egyptian Museum, Cairo

(Supreme Council of Antiquities, Cairo, 2002)

Vol. I: xiii, 1-701 p.
Vol. II: (iv), 703-1276 + Arabic section, (iv), 101 p.

における第2巻の最後の「アラビア語による論考」の77−87ページにD. Nadia laqamaによって記されており、とても貴重。この2巻本には家具研究で知られるGeoffrey Killenも論考を寄せている(Vol. I: pp. 645-656)他、Sakuji Yoshimura(Vol. II: pp. 1249-1257)、あるいはNozomu Kawai (Vol. I: pp. 637-644)といった日本の研究者たちの論文もうかがわれる点も申し添えておきます。
一方、木棺の組み立て方に関しては、

Andrzej Niwinski,
21st Dynasty Coffins from Thebes:
Chronological and Typological Studies
.
Theben, Band 5
(Philipp von Zabern, Mainz am Rhein, 1988)
xxiv, 209 p., colour plate, 24 plates.

の58ページにある図21が取りあえず参考になりますが、欲を言うならば本当はもう少し細かい情報が描かれたならさらに良かったとも思われます。あるいは、

Jan Assmann,
Mit Beiträgen von Machmud Abd el-Raziq, Petra Barthelmeß, Beatrix Geßler-Löhr, Eva Hofmann, Ulrich Hofmann, T. G. H. James, Lise Manniche, Daniel Polz, Karl-Joachim Seyfried.
Photographien von Eva Hofmann; Zeichnungen von Aleida Assmann, Dina Faltings, Andrea Gnirs, Friederike Kampp, Claudia Maderna.
Vermessungen und Pläne von Günther Heindl.
Das Grab des Amenemope, TT 41.
Theben 3.
2 Bände: Text und Tafeln
(Philipp von Zabern, Mainz am Rhein, 1991)

での、出土木棺の報告(Text, pp. 244-273)で見られる丁寧な線描による図版も印象的。
木を大切に用い、丁寧に矧ぎ合わせて立体物を造ろうと思った時の工夫の仕方には地域や時代を超えて共通性があると思われ、注目されるのはその時の知恵の出し方です。力学的に必要と思われる補強の仕方とそれをあらわにしない手法、傷みやすい小口を保護し、包み隠すような仕上げ方、経年変化による変形を考慮した防止策、木目の活かし方、こうした一連の思考の痕跡を、加工された木材に見ることができるというのが面白い点となります。

日本建築の伝統構法に見られる継手や仕口についての著作は、たとえばアメリカで日本の構法を勘案した加工方法に倣って作業を続けるグループによるページ、

Daiku Dojo:
http://www.daikudojo.org/Archive/gallery_books/

でリスト化されているように、英語で書かれているものはけっこう見受けられます。
しかし「精妙」と言われる日本の伝統構法を相対化し、欧州における木造の構法と比較することを狙ったものは案外と少なくなるかもしれません。

Klaus Zwerger, translated by Gerd H. Söffker,
Wood and Wood Joints:
Building Traditions of Europe and Japan

(Birkhäuser, Basel, 1997. Original title: "Das Holz und seine Verbindungen", 1997)
278 p.

Contents:
Introduction (p. 7)
The Material (p. 10)
Working with Wood (p. 42)
Types and Functions of Wood Joints (p. 85)
Wood Joints and their Evolution (p. 112)
Wood Joints as an Expression of Aesthetic Values (p. 247)

Bibliography (p. 266)
Acknowledgements (p. 271)
Index of Persons and Buildings (p. 272)
Index of Places (p. 273)
Subject Index (p. 274)

は、東大に留学していた研究者が纏めた一冊で、自身が撮影した写真が豊富。ただし、暗い感じに印刷されているものもあるため、見にくい写真も混ざっている点が残念。仕口や継手を示した立体図は非常に分かりやすい。図は全部で600点近くにものぼります。ドイツ語版の英訳が同時に出された模様。
この研究書には先例があって、

Wolfram Graubner,
Holzverbindungen:
Gegenübersttelungen japanischer und europäischer Lösungen

(Stuttgart, 1986)

の内容を、さらに精緻に突き詰めたものとなります。
ヨーロッパの木造構法について何冊も本を出している人は他にもおり、

Manfred Gerner,
Handwerkliche Holzverbindungen der Zimmerer
(Stuttgart, 1992)

も注目されるはず。ブータンの木造建築に関し、早くから注目した人でした。
こうして仔細に述べられている木造の継手や仕口は、東アジアや東南アジアにおける石造建築にも色濃く反映しており、興味が惹かれるところとなります。


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