2011年9月24日土曜日

Hayes 1935


William Hayesの博士論文です。
新王国時代の第18王朝に属する王たちの石館に刻まれている碑文が、古王国時代のピラミッド・テキスト、中王国時代のコフィン・テキスト、またパピルスに記された「死者の書」などと密接な繋がりがあり、長い歴史を引き継いでいることを伝えています。

William Christopher Hayes,
Royal Sarcophagi of the XVIII Dynasty.
Princeton Monograph Series in Art and Archaeology: Quarto Series XIX
(Princeton University Press, Princeton, 1935)
xii, 211 p., XXV plates.

Contents:
Chapter I: Introduction (p. 1)
Chapter II: The Sarcophagi (p. 31)
Chapter III: The Decoration of the Sarcophagi (p. 61)
Chapter VI: The Royal Sarcophagi in Relation to the History of the XVIII Dynasty; General Conclusions (p. 138)

Appendix I: Catalogue of the Sarcophagi (p. 155)
Appendix II: The XVIII Dynasty Sarcophagus Texts: Parallels from the Pyramid Texts, from Middle Kingdom Coffin Inscriptions, and from the Book of the Dead (p. 172)

Selective Bibliography (p. 177)
Text Sheets (p. 183)
Index (p. 205)
Plates (I-XXV)

ドイツに留学中の安岡君に手配してもらい、コピーを入手することができました。
アメリカのメトロポリタン美術館に属していたことで知られるWilliam C. Hayesは、現場での作業を通じ、またA. Gardinerからヒエログリフの読み方を直接に教えてもらうなどして文字の読み方を習得した人です。Hayes 1937を参照。
彼の経歴を知る上では、Bierbrier 1995 (3rd ed.)が有用です。

この本の謝辞を読むと、古代エジプト建築についての書を刊行したボールドウィン・スミス(cf. Baldwin Smith 1938; Baldwin Smith 1950)の助力に言及しており、交流のあったことが確認されます。それぞれ、主著の執筆中であった時期ではなかったでしょうか。専門分野は異なりますが、有能なエジプト学者たちが触れ合っていた点がここでも確認され、面白い。

Raven 2005を読むと、第19王朝に属するRaiaの石棺であるにも関わらず、そこに記された文に関する研究に際しては、依然として未だHayesのこの本が有効であることが分かります。

"Most spells are taken from the well-known corpus dealt with by Hayes in his Royal Sarcophagi, although they have occasionally been shortened and simplified."
(Raven 2005, p. 63)

Hayesによる論考では、必ず一歩先に考察を進めるというやり方が顕著で、この本の場合では第18王朝のインスクリプションの祖型を探り、資料化している点が見るべきところ。これによって、書かれた内容の寿命が延長されるわけです。
Hayesの論文、

"A Selection of Tuthmoside Ostraca from Der el-Bahri",
Journal of Egyptian Archaeology (JEA) 46 (1960), pp. 29-52.

などでも同じで、題名は意図的に派手にしていませんが、各々のオストラカを読んだ上で、最後には時系列の順に並べ、建物が造られていく過程に触れるという立体的な考え方を示しています。これができるかどうかが分かれ目。

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