Roger B. Ulrich,
Roman Woodworking
(Yale University Press, New Haven and London, 2007)
xiii, 376 pp.
古代ローマ建築での木材の使用は、断片的にはこれまで触れられてきましたが、煉瓦造と石造が主流であるため,どちらかというと脇に追いやられていた感がありました。Adamによるローマ建築の本でも、木造についてはほんの少しだけしか記述されていません。
木工が包括的に扱われたのはおそらく初めてで、書評でも記されている通り、古代ローマの木工に関する基本文献となるでしょう。
ローマ時代の鉋の写真を、この本で初めて見ました。家具や船についても対象に含めています。
日本建築における仕口や継手の複雑さは良く知られていますが、ほとんど同じことがおこなわれている点に驚きます。特に船の竜骨で使われたという継手(p. 68, Fig. 4.9)は素晴らしい。
木を建材として扱う場合に考慮されるのは,部材同士がずれないこと,できるだけお互いの接触面積を増やすこと,経年変化による変形に対処することなどですけれども、それらに応じたずれ止めや反り止めが工夫されています。
モノクロの図版が豊富に収録されている他、巻末の用語集が60ページ以上もあります。車輪を述べた章、また当時のイタリアにおける樹種の分布について書かれている章もあって面白い。
しかし,実際にポンペイやヘラクレネウム(エルコラーノ)に行かれた方はお分かりでしょうが、このふたつの町は火山の噴火による熱い火砕流で埋まったわけですから,木材が残っていると言っても、丸焦げの炭が見られるだけ。これらの炭の痕を丹念に調べ、架構や扉,窓の復原がおこなわれています。
10年以上の調査をもとに書かれたと序文では述べられています。10年ほどでこれを纏めることができたというのは、でも著者の能力の高さがそこに示されていると見るべき。
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