2009年9月1日火曜日

Janssen 1961


オランダのライデン(レイデン)博物館とトリノ・エジプト博物館が所蔵するパピルスを述べた研究。「古代エジプトのふたつの航海日誌」という、魅惑的な題名です。J. J. ヤンセンの博士論文。
新王国時代後期のラメセス時代におけるヒエラティック(神官文字)の専門家で、特にディール・アル=マディーナに関しては世界中で最も知識の豊富な学者とみなされます。

Jac J. Janssen,
Two Ancient Egyptian Ship's Logs:
Papyrus Leiden I 350 verso and Papyrus Turin 2008+2016
.
Supplement to Oudheidkundige Mededelingen uit het Rijksmuseum van Oudheden te Leiden (OMRO) 42 (1961)
(E. J. Brill, Leiden, 1961)
viii, 114 p., IV plates.

学術雑誌OMROの付巻として刊行されました。
OMROと略記されるこの雑誌名は、「レイデン王立古代博物館考古学通信」といったような意味合いを持ちます。OMROは国内ですと、大阪の国立民族学博物館などがバックナンバーを持っているはず。Two Ancient Egyptian Ship's Logsは、都内ではたとえば早大図書館が所蔵しています。

題名に出てくる"verso"は専門用語で「裏側の面」。反対語は"recto"で、「表面」。パピルスやオストラコンの他、本のページや貨幣でも用いられる語です。これらの省略形もしばしば見受けられます。

100ページ足らずの本ながら、おこなわれていることは多岐にわたり、まず通常のエジプト語の辞書には出てこない言葉が頻出するので、その意味を類推しなければなりません。外来語である可能性もあるわけです。
パピルスに書かれている文字列を、どのように報告するかが良く分かる一冊。註のつけ方も、一般の論文と比べるならばかなり複雑です。
航海日誌にはラメセス2世の第4王子であるカエムワセトの名が出てきており、こうした点も面白い。非常に長生きをしたラメセス2世の注目すべき広範な諸建築活動を支えた張本人です。

ラメセス2世の息子たちに関しては、カエムワセト王子にテーマを絞った

Farouk Gomaà,
Chaemwese:
Sohn Ramses' II. und Hoherpriester von Memphis.

Ägyptologische Abhandlungen (ÄA), Band 27
(Otto Harrassowitz, Wiesbaden, 1973)
xii, 137 p., VIII Tafeln.

が知られています。いわゆる「修復ラベル」にも言及。カエムワセトが最古の考古学者と言われる所以です。
息子たちの墓の概要を伝える発掘調査報告書、

Kent R. Weeks,
KV 5:
A Preliminary Prort on the Excavation of the Tomb of the Sons of Rameses II in the Valley of the Kings

(American University in Cairo Press, Cairo, 2000)
vi, 201 p.

は、ラメセス2世の子供たちをひとところに纏めて埋葬するための迷路のような施設のまとめ。王家の谷において最大規模を誇る墓です。今なお、どこまで深く続いているのか、まったく分かっていません。地下水が湧き出ているため、最深部の調査は困難を極めているようです。
むちゃくちゃ数が多かったラメセス2世の子供たちの墓をいちいち独立させて造っていては大変だと、手を抜いて小部屋を無数に並べて済ませた形式。サッカーラのセラペウムとの平面形式の類似が建築学的には焦点。古王国時代にも、こういう墓の形式の先例はあったことが指摘されます。
ウェブサイトでは、

Theban Mapping Project: KV 5
http://www.thebanmappingproject.com/sites/browse_tomb_819.html

にて図とともに説明が見られます。
うじゃうじゃといるラメ2(ラメセス2世を、こう短く呼ぶことが多い。欧米では"R2"もしくは"RII"、つまり「アール・ツー」。同様にTIII=トト3、AIII=アメ3)の子供たち全部を扱う

Marjorie M. Fisher,
The Sons of Ramesses II, 2 vols.
Ägypten und Altes Testament (ÄAT), Band 53
(Harrassowitz Verlag, Wiesbaden, 2001)

Volume I: Text and Plates.
xxii, 287 p.
Volume II: Catalogue.
v, 232 p.

といったモノグラフも8年前に出版されました。
しかし、もし史料を全部見ようとするなら、KRIRITARITANCとともに雑誌の新しい号などを調べなければなりません。

古代エジプトにおける王族の家系一般の通覧なら、

Aidan Dodson and Dyan Hilton,
The Complete Royal Families of Ancient Egypt
(Thames and Hudson, London, 2004)
320 p.

が便利です。

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