質の高い研究をとても安く供給するシリーズ。A4版のペーパーバックで、モノクロ印刷が基本です。国際学会の報告、博士論文や調査報告などの刊行が主に進められています。
すでにこのシリーズで2500タイトル以上が出版されており、そのすべてを揃えている図書館を日本国内で探すのは難しい。考古学関連書籍の収集に力を入れている早稻田大学でも全部持っていません。国士舘大学のイラク古代文化研究所、あるいは中近東文化センターの図書館などと併せて文献探索をおこなう必要があります。すぐに売り切れるので、新刊案内が届いた際には早く注文しなければならない、ちょっと面倒なシリーズ。
なお考古学関係では、他にBiblical Archaeology Reviewというものもあって、こちらも略称は同じBARなので注意が必要。
Aikaterini Koltsida,
Social Aspects of Ancient Egyptian Domestic Architecture.
British Archaeological Reports (BAR), International Series 1608
(Archaeopress, Oxford, 2007)
xv, 171 p., 88 plates.
社会学的な見地からの研究というのは近年の流行りです。20世紀の少なくとも前半までは、わざわざ本の題名に「社会的」なんていう言葉をことさらにつけたかどうか、記憶があまり定かではありません。歴史学に新風を巻き起こしたフランスのアナール派、また人類学の新たな展開など、近接分野の変化の影響が見られるのでは。
Contents:
Chapter 1: Sources of Evidence
Chapter 2: The Front Room
Chapter 3: The Living Room
Chapter 4: The Bedroom
Chapter 5: The Kitchen
Chapter 6: The Evidence for a Second Storey
Chapter 7: Discussion and Conclusions
残存する住居遺構の入口から、前室、居間、寝室、台所とくまなく回っていく様子が目次からも良く分かります。新王国時代後期のアマルナとディール・アル=マディーナが主として扱われますが、エジプトで資料が豊富な住居遺構と言ったらこれぐらいしかないので、仕方ありません。
第6章では、2階建て以上の日乾煉瓦造住居が王朝時代の都市部にあったか、それとも平屋建てしかなかったかが問われています。B. ケンプが投げかけた有名な問いかけ。大まかにはケンプ、またその弟子のスペンスの考えを追認する結果となっていますが、建築学の見地からは、また別の解釈が提唱できる余地を含んでいるかと思われます。
註が全部で軽く1000を超えますけれども、これはしかし、考察に該当するアマルナの住居番号をすべて書き出そうと無理をしたりするからで、見る方は苦痛です。
古代エジプトの住居研究には、でも欠かせぬ一冊。
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