2009年10月5日月曜日

Smith 1998 (3rd ed.)


50年以上も前の出版ながら、古代エジプトの美術と建築を語る上では今なお基本の書籍。W. K. シンプソンによって改訂がなされました。
最新の版ではカラー写真も掲載されると同時に判型もA4版へと大きく変更され、見やすくなっています。ペーパーバックが出ていますので、美術と建築の双方を手早く知りたいという方には、まずこの本がお勧め。定評あるペリカン・ヒストリー・オブ・アートのシリーズの中の一冊。最初の監修者は、高名な建築史家ペヴスナーです。
同シリーズのMcKenzie 2007は、この欄で一番最初に取り上げました。

William Stevenson Smith,
revised with additions by W. K. Simpson,
The Art and Architecture of Ancient Egypt.
Yale University Press Pelican History of Art (Founding editor: Nikolaus Pevsner)
(Yale University Press, New Haven and London, 1998, 3rd ed. First published in 1958 by Penguin Books)
xii, 296 p.

エジプト美術については以前にGay Robins, The Art of Ancient Egypt (London, 1997)を挙げましたが、建築を彼女は扱っていません。「美術と建築」のふたつを本格的に扱おうとした本は、実は数が少ないという事情があります。当方が知る限り、おそらくは最後の試み。

エジプト学に関わっている建築の専門家は、美術の領域にまで立ち入る余力をもはや持っていません。美術史家による鑑別の眼力が一方で、なかなか他の分野の研究者によって支持されないという問題に関しては、例えばBerman (ed.) 1990で触れました。すでに学問の細分化が極端にまで進んでいます。
美術と建築の分野で対話が困難な状況ですから、考古と科学分析との橋渡しは、さらに難渋を極めます。今日、他分野の読者へ向けての論理力がますます必要になっている所以です。

スミスは美術史家で、博士論文はエジプトの彫刻を扱っており、執筆したのは第二次世界大戦の直前でした。ジョージ・ライスナーの精緻な考古発掘の仕事を助け、第二次世界大戦中に亡くなったライスナーに代わって、彼のギザ発掘調査を推し進めました。
ライスナーが従来の発掘方法をどのように変えたのかは、今さらここで紹介することもないでしょう。美術史家がその発掘調査を引き継ぐのですから、かなりの負担であったことは容易に推察されます。

スミスがどれだけの論文を専門雑誌に書いているか、調べようと思ったら、ほとんど徒労に終わるのでは。この人の功績は、数少ない著作で見るしかない。
スミスの代表作を挙げろと言うことでしたら、まずは彼の専門に関わる内容の

William Stevenson Smith,
A History of Egyptian Sculpture and Painting in the Old Kingdom
(published on behalf of the Museum of Fine Arts, Boston, by the Oxford University Press, Oxford, 1946)
xv, 422 p., 60 pls., 2 color pls.

が注目され、戦争直後に出されている点に注意。
エジプトの彫刻に関してはVandier 1952-1978という包括的な労作のうちの注目すべき第3巻があり、これはスミスによる本書と同じ年に出た厚い解説書。図版編も合わせるならば900ページに及ぼうとする大著です。彼はどのような思いでこれを見たでしょうか。
ライスナーの遺した仕事を纏める作業は、

George Andrew Reisner,
completed and revised by W. S. Smith,
A History of the Giza Necropolis II:
The Tomb of Hetep-heres the Mother of Cheops.
A Study of Egyptian Civilization in the Old Kingdom
(Harvard University Press, Cambridge, Massachusetts, 1955)
xxv, 107 p., 148 figs, 55 pls.

として出版されており、クフ王の母親であるヘテプヘレスの墓の報告書を編纂するという重大な責務を果たしました。エジプト学にとって、この墓がどれだけの意味を有するのかを充分わきまえた仕事。この墓からは古王国時代のきわめて重要な家具が出土しており、復原がカイロ美術館に展示されています。組み立て式の天蓋は特に貴重。有名なこのA History of the Giza Necropolisは、John William Pye Booksから20世紀の終わりに再版も出ています。
古代エジプトの美術と建築の総論を書くという、驚くべき仕事(本書)の後には、

William Stevenson Smith,
Interconnections in the Ancient Near East:
A Study of the Relationships between the Arts of Egypt, the Aegean, and Western Asia

(Yale University Press, New Haven and London, 1965)
xxxii, 202 p., 221 figs.

を出しています。エジプト学の側から、これだけ明瞭に近隣諸国との美術史学的な関連を探ることを題名に打ち出している論考も珍しい。
出版は彼の死の数年前の、意欲作です。当時のエジプト学に欠けている視点を補おうとした書。

ここで取り上げるThe Art and Architecture of Ancient Egyptは、古代エジプトにおける王宮建築の研究を飛躍的に前進させたという点で画期的です。調査がなされながらも、本報告書が出ていなかったディール・アル・バラスやマルカタ王宮の調査資料を丹念に調べて概要を伝えており、専門外の仕事であったにも関わらず、その後のアマルナ王宮へ向けての建築の流れをうまく描いています。
ここにはたぶん、当時、エジプト建築史の本を刊行していたA. バダウィの著作、Badawy 1954-1968への不満もあったのではと憶測がなされます。ここでも、「どのような情報が不足しているのか」についての配慮がなされており、とても有能な人であったことが良く分かります。60歳ほどで亡くなったのが本当に惜しまれます。
ボストン美術館の古代エジプト部門を牽引してきた人間の系譜、すなわちG. ライスナー、W. S. スミス、W. K. シンプソン、E. ブロヴァルスキー、R. フリード、P. D. マニュエリアンたちのさまざまな著作を踏まえながら、各々が果たしている役割に考えを巡らせると感慨深い。
ボストン博物館によるギザに関する史料集成のページ、

http://www.gizapyramids.org/code/emuseum.asp?newpage=authors_list

からは、スミスの著作の多くのダウンロードが可能。

0 件のコメント:

コメントを投稿