Description 1809-1818のところで述べたように、
C. R. レプシウス(1810-1884)による通称「デンクメーラー」はナポレオンの「エジプト誌」と並び、エジプト学の中では今でも重用される書で、大判の図版を用いた記念碑的な著作。ヒエログリフの記録なども見逃せません。でも改めて書誌を調べようとすると、けっこう事情が分からなくなります。
試しに
Porter and Moss (PM), 8 vols.のうち、まず第1巻第1分冊(第2版)に掲載されている文献リストを見ると、
L.
D. =
LEPSIUS (
RICHARD),
Denkmäler aus Aegypten und Aethiopien. 12 vols., 1849-59.
L.
D. Text = As above, Text. 5 vols., 1897-1913.
と示されており、図版編12巻+テキスト編5巻からなる点が知られ、全部で17巻であるように了解されます。 しかしその一方で、この
PMの第3巻第2分冊(第2版)を引くと、
L.
D. and Text =
LEPSIUS (
RICHARD),
Denkmäler aus Aegypten und Aethiopien. 12 vols. Berlin, 1849-59. Text, 5 vols. Leipzig, 1897-1913.
L.
D. Ergänz. =
LEPSIUS (
R.),
Denkmäler aus Aegypten und Aethiopien. Ergänzungsband. Leipzig, 1913.
と書かれていて、どうしたわけか、一冊増える計算に(!)。
確認のため、
LÄ (Lexikon der Ägyptologie) 1975-1992を調べるならば、
LD =
Karl Richard Lepsius,
Denkmäler aus Aegypten und Aethiopien, 12 Bde u. Erg.bd, Berlin 1849-58, Leipzig 1913.
LD Text =
Karl Richard Lepsius,
Denkmäler aus Aegypten und Aethiopien, Text. Hg. von Eduard Naville, 5 Bde, Leipzig 1897-1913.
と記されており、"u. Erg.bd"などという省略された記述を見落としがちになるのですが、図版編は結局、あわせて13巻になる様子。
実は一冊増えることになるこの図版編の本は、レプシウスの死後、彼の遺したノートをもとにまとめられたテキスト編(全5冊)の刊行とともに出版された大判の図版に起因しており、これを含めるか含めないかで全体の冊数が変わってきます。
「デンクメーラー」については、図版編とテキスト編との書誌を分けた方が良いかと思われます。
まずは図版編の、初版の書誌です。図版編は大きく6つに分割されました。
原書の表紙における主タイトルではドイツ語のウムラウト記号が用いられていないので、ここではこれを尊重して倣います。レプシウスの姓名の最初も"Karl"と表記される例がありますけれども、このページでは原書の表紙に従って"Carl"とします。"Architectur"という表記もそのまま。
Carl Richard Lepsius,
Denkmaeler aus Aegypten und Aethiopien (Tafelbände):
nach den Zeichnungen der von Seiner Majestät dem Koenige von Preussen Friedrich Wilhelm IV nach diesen Ländem gesendeten und in den Jahren 1842-1845 ausgeführten wissenschaftlichen Expedition.
6 Abteilungen in 12 Bände.
(Nicolaische Buchhandlung, Berlin, 1849-1859)
Band I: Abtheilung I.
Topographie und Architectur. Blatt I-LXVI.
Band II: Abtheilung I.
Topographie und Architectur. Blatt LXVII-CXLV.
Band III: Abtheilung II.
Denkmaeler des alten Reichs. Blatt I-LXXXI.
Band IV: Abtheilung II.
Denkmaeler des alten Reichs. Blatt LXXII-CLIII.
Band V: Abtheilung III.
Denkmaeler des neuen Reichs. Blatt I-XC.
Band VI: Abtheilung III.
Denkmaeler des neuen Reichs. Blatt XCI-CLXXII.
Band VII: Abtheilung III.
Denkmaeler des neuen Reichs. Blatt CLXXIII-CCXLII.
Band VIII: Abtheilung III.
Denkmaeler des neuen Reichs. Blatt CCXLIII-CCCIV.
Band IX: Abtheilung IV.
Denkmaeler aus der Zeit der griechischen und roemischen Herrschaft. Blatt I-XC.
Band X: Abtheilung V,
Aethiopische Denkmaeler. Blatt I-LXXV.
Band XI: Abtheilung VI.
Inschriften mit Ausschluss der hieroglyphischen. Blatt I-LXIX.
Band XII: Abtheilung VI.
Inschriften mit Ausschluss der hieroglyphischen. Blatt LXX-CXXVII.
この12冊の各巻が、何年に刊行されたのかが明瞭ではありません。
さて、レプシウスが亡くなった後、レプシウスの遺したフィールド・ノートに基づいてE. ナヴィーユが編集をおこない、テキスト編の5巻とともに図版編の1冊が刊行されました。
出版社はベルリンからライプチヒへと移ります。ナヴィーユを中心とし、L. ボルヒャルト、K. ゼーテたちが関わりましたが、巻によって変更が見られます。
これら5巻のテキスト編に関しては、発行年が明瞭。
Carl Richard Lepsius,
Denkmaeler aus Aegypten und Aethiopien, Text (Textbände):
nach den Zeichnungen der von Seiner Majestät dem Koenige von Preussen Friedrich Wilhelm IV nach diesen Ländem gesendeten und in den Jahren 1842-1845 ausgeführten wissenschaftlichen Expedition.
5 Bände.
(J. C. Hinrichs'sche Buchhandlung, Leipzig, 1897-1913)
Herausgegeben von
Eduard Naville,
unter mitwirkung von
Ludwig Borchardt.
Bearbeitet von
Kurt Sethe.
Band I:
Unteraegypten und Memphis
(1897)
238 p.
Herausgegeben von
Eduard Naville,
unter mitwirkung von
Ludwig Borchardt.
Bearbeitet von
Kurt Sethe.
Band II:
Mittelaegypten mit dem Faijum
(1904)
261 p.
Herausgegeben von
Eduard Naville,
unter mitwirkung von
Ludwig Borchardt.
Bearbeitet von
Kurt Sethe.
Band III:
Theben
(1900)
310 p.
Herausgegeben von
Eduard Naville.
Bearbeitet von
Kurt Sethe.
Band IV:
Oberaegypten
(1901)
176 p.
Herausgegeben von
Eduard Naville.
Bearbeitet von
Walter Wreszinski, mit einer konkordanz für alle Tafel und Textbände von
Hermann Grapow.
Band V:
Nubien, Hammamat, Sinai, Syrien und europäische Museen
(1913)
406 p.
この出版に関わった人物たちは錚々たる顔ぶれで、いずれもエジプト学では良く知られている学者ばかり。出版された順番も興味深く、古代エジプトの遺構のうちで、中エジプトを扱った第2巻の刊行は遅れています。
テキスト編の第5巻が刊行された時、一緒に出された大判の新たな図版編が以下の書。
Carl Richard Lepsius,
Denkmaeler aus Aegypten und Aethiopien.
Herausgegeben von
Eduard Naville,
unter mitwirkung von
Ludwig Borchardt.
Bearbeitet von
Kurt Sethe.
Ergänzungsband
(J. C. Hinrichs'sche Buchhandlung, Leipzig, 1913)
(iv), 63 Tafeln.
時代が経って1970年代に至ると、これらのリプリントがようやく出回るようになります。
まずはテキスト編の再版とともに、大きな図版編を原版のサイズでリプリントしたものが出版されました。カラー図版もそのまま再現していますので、利用価値は大です。参考までに本の高さも下記の書誌には記しました。
出版地は、さらに転じてオスナブリュック。13巻の図版編は合冊して7巻に仕立てており、ここには1913年に刊行されたErgänzungsbandも含まれています。7冊全部をあわせ、厚さは20センチ弱程度であったかと記憶します。 テキスト編は3巻に合本。
ですがこの版は、もう入手が困難かもしれません。
Carl Richard Lepsius,
Denkmaeler aus Aegypten und Aethiopien.
(Neudruck der Ausgabe 1849-1858. Biblio-Verlag, Osnabrück, 1970-1972)
Tafelband: 64 cm. Textband: 30 cm.
Tafelband I-II (1972)
Tafelband III-IV (1972)
Tafelband V-VI (1970)
Tafelband VII-VIII (1970)
Tafelband IX-X (1970)
Tafelband XI-XII (1970-72)
Ergänzungsband (1972)
Textband I-II (1970)
Textband III-IV (1970)
Textband V (1970)
この直後に、ジュネーヴからはモノクロの縮刷版が出版されました。
エジプト学の研究者の間では、オスナブリュックから再版されたものよりも、こちらの版の方が広く知られているかと思われます。まずは図版編の縮刷版が出版され、次いでテキスト編が上梓されました。図はすべてA4版に縮小されている版。
テキスト編は原本通りに全5巻で出版されましたが、図版編はオスナブリュックの版と同様、やはり合本されて7冊にまとめられています。
この版も入手は今、難しくなっているようです。
Carl Richard Lepsius,
Denkmaeler aus Aegypten und Aethiopien.
Collection publiée sous l'égide du Centre de Documentation du Monde Oriental
[Réduction photographique de l'édition originale]
(Éditions de Belles-lettres, Genève, 1972-73)
30 cm.
Abtheilung I. Vol. I et II (Pl. I-CXLV) (1972?)
Abtheilung II. Vol. III et IV (Pl. I-CLIII) (1972)
Abtheilung III. Vol. V et VI (Pl. I-CLXXII) (1972)
Abtheilung III. Vol. VII et VIII (Pl. CLXXIII-CCCIV) (1972)
Abtheilung IV. Vol. IX (Pl. I-XC) (1973)
Abtheilung V. Vol. X (Pl. I-LXXV) (1973)
Abtheilung VI. Vol. XI et XII (Pl. I-CXXVII) (1973)
Collection des Classique Égyptologiques
[Reprographie A4 de l'édition originale]
(Éditions de Belles-lettres, Genève, 1975)
30 cm.
Text, vol. I. x, 238 p.
Text, vol. II. (v), 261 p.
Text, vol. III. (iii), 310 p.
Text, vol. IV. (v), 176 p.
Text, vol. V. viii, 406 p.
インターネットにて「デンクメーラー」を見ることができると以前、書きましたけれど、そこでは解像度が落とされており、また表紙などもスキャンされていません。制限がやはりあるわけです。
C. R. Lepsius:
Denkmaeler aus Aegypten und Aethiopien:
http://edoc3.bibliothek.uni-halle.de/lepsius/start.html
こうした情報をどのように使うかが問われる点。
インターネット上ではごく最近、「デンクメーラー」のリプリントをまた見かけるようになりましたが、この偉大な書は古代エジプトにおける遺跡を十数巻にわたって紹介しているモニュメンタルな本ですので、図版編なのかテキスト編なのか、あるいはそのうちの何巻目を出版しているのか、ページ数や図版の枚数などがちゃんと揃っているのかなどを確認することが必要となってきます。
残念なことに、ネット上に公開されている文献資料をそのまま印刷に回して販売するという悪質な書籍の売り方をする者も出てきました。充分な注意が求められます。