2009年1月21日水曜日

O'Connor and Cline 1998


エジプトが一番栄えた時代を生きた王のひとりがアメンヘテプ3世で、この王を単独で扱ったモノグラフ。
このように王をひとりだけ取り上げて本によく纏められるのは、一般向けでは他にトゥトアンクアメン(ツタンカーメン)やアクエンアテン(アケナテンもしくはイクナトン)、またラメセス2世などが多いように思われますが、メルエンプタハやセティ1世、トトメス4世などについてもモノグラフはあって、これらはもっぱら博士論文として書かれたものがほとんどを占めます。
有名なクフ王だけを扱った展覧会などありそうなものですが、この王に関連する適当な展示遺物というのが少なく、企画として難しいのだと思われます。ピラミッドや聖船を持ってくるわけにはいかない。

アメンヘテプ3世については大規模な展覧会が1990年代の初頭にアメリカとフランスで開催され、これに付随して出版物が盛んに刊行されました。その延長線上に並ぶ重要な一冊。1990年代は、アメンヘテプ3世に関連する研究書がたくさん出版された時期として記憶されると思います。

David O'Connor and Eric H. Cline (eds.),
Amenhotep III: Perspectives on His Reign
(The University of Michigan Press, Ann Arbor, 1998)
xvi, 393 p., 4 maps, 8 figs.

似たようなテーマを扱った古いものとしては、小さなペーパーバックの

Elizabeth Riefstahl,
Thebes: In the Time of Amunhotep III.
The Centers of Civilization Series
(University of Okulahoma Press, Norman, 1964)
xi, 212 p.

が知られており、この他にも

Hans Goedicke,
Problems concerning Amenophis III
(Halgo, Baltimore, 1992)
v, 108 p., 10 figs.

などが挙げられるかもしれません。
アメリカとパリでの大規模な展覧会では立派なカタログがそれぞれ出ていますが、両者の本で微妙な違いが見られる点は興味深い。その他にもこの展示会にあわせて催された研究会の報告書、"Art of Amenhotep III"も読み応えがあり、見逃せません。

アメンヘテプ3世による建築に関わる論考としては、D. オコーナーとR. ジョンソンによる文が面白い対比を見せています。
マルカタ王宮について、オコーナーは「一度で設計された」(p. 161)と書いていますが、ジョンソンは「何度かの建造過程を伴って」(p. 75)と記しています。この本に論考を寄せている学者はいずれも知られた人たちばかりですけれども、一冊の同じ本の中なのにも関わらず、このように言っていることですれ違っている部分がうかがわれるのは重要。要するに、遺構の基本的なことで未だ良く分かっていない部分がいくつも存在するということです。

この王が造営した遺構群の調査を一番多く進めているのは他でもない日本隊で、大きな課題がそこにあると言ってもいい。
巻末のbibliographyは60ページ近くに及び、この時代を知るためには必携の書。

0 件のコメント:

コメントを投稿