2009年3月31日火曜日

Weatherhead and Kemp 2007


アマルナの彩色された祠堂を扱う書。煉瓦造の建築復原をおこなう考察の中で、これほど詳しく記述したものを見たことがありません。非常な労作ですが、しかし一方で読者層はきわめて限られるために、どうやら徹底して安く出版することを考慮したらしく推測されます。

Fran Weatherhead and Barry J. Kemp,
The Main Chapel at the Amarna Workmen's Village and its wall painting.
EES Excavation Memoir 85
(Egypt Exploration Society, London, 2007)
iv, 420 p., colour plates (4 p.)

Egypt Exploration Society Excavation Memoir (EESEM)のシリーズですけれども、ペーパーバックです。EESEMのシリーズで他にこういうものがあったかどうか、あまり思い出すことができません。珍しいと思います。活字の大きさを落としており、かなり詰め込んでいる印象を受けます。
註は本文中で上付き数字ではなく、カッコ内に示されます。註に特別な組み方をしません。参考文献リストは2ページだけです。ケンプが関わった刊行物としては稀。
またテキストのページと図版のページ、表のページは綺麗に分けられており、入り混じるということがありません。複雑なページ構成を避けたようです。

図版を多く所収していますが、図版リストを掲載していません。ほとんどがモノクロによる図示で、カラー図版は巻末の4ページだけとなります。図版番号は章の番号と対応しており、このためカラー図版は3.1から始められますけれども、1.1があるわけではない。
モノクロのスクリーン・トーンの貼り分けで色彩を区別しており、図版の作成に多くの時間を要したと思われますが、オリジナルは大きな図であるらしく、ところどころでトーンの継ぎ目が白い線としてあらわれたり、あるいは製版の過程でモアレが生じてしまっていたりします。惜しいところですが、けれども本質的な問題ではない。

扱うのは床面積が300平方メートルに満たない祠堂で、発掘前、発掘後の平面図のみならず、壁体が倒壊した方向、各部屋に埋まった建築関連の遺物の図示、各彩色壁面のモティーフなどが復原図とともに掲げられています。入念な考察がなされており、層位を示す断面図も豊富。
もっとも感心したのは、彩画片の接合状況を図示した点です。どの断片とどの断片とが実際に接合できたのか。これをモティーフ全体を復原してあらわす図の中に書き入れています。つまり、全部のピースが揃っていないジグソーパズルを解くわけですから空白部分があるわけで、このためにモティーフはいくらか伸縮が自在となります。しかし決して離して考えてはいけないピース同士があり、これらを具体的に図示したのは画期的です。

一番重要と考えられるサンクチュアリの前面については、2種類の復原図が見開きで対照できるように提示されています(pp. 220-221, Figs. 3.16, 3.17)。ブーケのパネルの当初位置が不明であることが原因。鍵となるべきコーナー片などが見つからなかったようです。
この判断も非常に面白い。自分だったらどのように判断するか、楽しめます。

最後の復原パネルの制作を扱った項も参考になります。パネルの重量を低減させるために工夫が見られ、またやり直しができるようにも考えられています。
本の裏には著者紹介が掲載されており、

"Fran currently lives in Norfolk, paints for a living, and is making a study of the local fishing industry."

とありました。この文が何を意味するのか、感慨を覚えるところがあります。

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