2009年2月22日日曜日

Kemp and Weatherhead 2000


アマルナの壁画について,発掘調査隊長と彩色画復原の担当者が最新成果を述べた論文。テラ島(サントリーニ島)の壁画に関する国際シンポジウムにて発表されました。

Barry Kemp and Fran Weatherhead,
"Palace Decoration at Tell el-Amarna",
in S. Sherratt ed.,
The Wall Paintings of Thera:
Proceedings of the First International Symposium
.
Petros Nomikos Conference Centre, Thera, Hellas,
30 August - 4 September 1997, 2 vols.
Vol. I (Athens, 2000), pp. 491-523.

シンポジウムの報告書は全体が1000ページを超える分量で,これを2巻に分け、加えてカラー図版集が別の薄い冊子として付きます。函入りで,厚さが8cmもあります。

シンポジウム自体はエジプトとクノッソス、そしてテラにおける壁画の関連性を討論し、当時の地中海の交易状況、また文化が伝播する様子を明らかにしようという学際的な試みで、J. ショーN. マリナトスなど,ミノア文化研究の第一線で活躍する学者たちが多数参加。
エジプト学の側からは、もちろんM. ビータックもテル・エル=ダバァの彩画片を報告しています。

M. Bietak,
"Minoan Paintings in Avaris, Egypt",
ditto, pp. 33-42.

M. Bietak, N. Marinatos and C. Palyvou,
"The Maze Tableau from Tell el Dab'a",
ditto, pp. 77-90.

F. WeatherheadによるAmarna Palace Paintings (London, 2007)では,アマルナの住居から出土した彩画片についてはほとんど触れていませんでしたが、ここでは王宮との比較も少しだけ述べるなど、アマルナにおける彩画装飾の全貌を知るには欠かせない文献。
マルカタ王宮との相違点も述べられていて、見逃せません。アマルナの王都が廃棄された後に、かなりの人為的な破壊を被ったはずなのですが、数少ない資料を駆使しつつ、全体像を描き出そうとしています。古代エジプトにおける王宮の建築装飾を語る上で、必見の論考となります。

アマルナ王宮の中枢を占める遺構を立体的に描き出している図を新たに作成して挿入しており、これも見事です。分かりやすい工夫を常に心がけている人の発表で、建築の表現には見習うべき点が多々あります。ハッチングを重ね、陰影を巧みに施してモノクロによる立体感を高める方法がとられています。人物像を配してスケール感を出しているのもうまい。

発表の後にディスカッションもおこなわれており、ここで通称「グリーン・ルーム」の壁面に設けられている小さなアルコーヴをどう捉えるか、ケンプの見解が記されていますからとても重要。鳥が本当にここで飼われていたかという可能性について、まったくの否定はしていません。

この論文の和文抄訳を読みたいという向きには、「史標」にて以下の訳が発表されています。

佐藤桂,
「B. ケンプ/F. ウェザーヘッド『テル・エル=アマルナの王宮装飾』」、
史標47(2002)、pp. 5-20.

ただし適当に原文を端折っている部分が見られますので、原文に当たることを強くお勧めします。上述の通り、後続のディスカッションも重要なのですが、この和訳にはまったく含まれていません。

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