Night and Light and the Half-light (Blacksburg, 1999)と題する80ページほどの詩集も晩年に出している才人です。
Henry George Fischer,
Varia Nova.
Egyptian Studies III
(The Metropolitan Museum of Art, New York, 1996)
xxxiii, 264 p.
「エジプト論考」の第1冊目は、ちょうどこの本より20年前に出されており、また2冊目は翌年にパート1が刊行されました。この2冊目はヒエログリフがどのような場合に向きが逆転するのかを記しており、非常に面白い研究で、続巻がとうとう出されなかったことが惜しまれます。
南から北へと流れるナイル川を唯一の川とみなしていたエジプト人が、外国へ遠征して北から南へと反対に流れる川に出会った時、船の文字を逆転させた表現をとるなど、興味深い話を展開させています。
Henry George Fischer,
Varia.
Egyptian Studies I
(The Metropolitan Museum of Art, New York, 1976)
xvi, 126 p.
Henry George Fischer,
The Orientation of Hieroglyphs, Part I: Reversals.
Egyptian Studies II
(The Metropolitan Museum of Art, New York, 1977)
xxiii, 147 p.
3冊目のこの書では、"Egyptian Doors, Inside and Out"(pp. 91-102)が印象的。古代エジプトの扉は外側から見るならば内開きで、表と裏があり、もちろん平滑な面が表面で、横桟を打ち付けてあるのが裏面です。内開きとなるのは防犯上、軸受けを隠す必要があるからで、従って扉を開かないようにするボルトは扉の裏面、すなわち横桟が打たれた面(室内側)に設けられます。
ところがナオスなどでは外側に扉の裏面を向ける表現が取られ、横桟とボルトが丸見えです。外から内に入って行く場所で、内から外へ出て行く時に見かける扉の様子が提示されるわけです。神殿の最奥部に置かれるナオスの扉の表現で、表と裏を逆転させるのはどうしてなのか。
"In turning the doors so conspicuously inside out the Egyptians evidently wished to emphasize a reversed point of view: these doors were not primarily a means of access to the naos, but rather a means of access from the naos to the temple or chapel within which it was placed." (p. 97)
およそ常識からは大きく逸脱した、仰天するようなことが平気で言われています。エジプトの神殿のナオスでは「内側は外側よりも大きい」ということが、はっきりと指摘されているからです。あるいは、エジプトの神殿では「部分と全体が一致する」という思想が展開されていると言うべきでしょうか。
こういうことを語るエジプト学者は他にいません。これを理解するかどうかがエジプトの建築表現を解く鍵であって、きわめて重要な考え方が披瀝されています。
"A Chair of the Early New Kingdom"(pp. 141-176)も貴重な論考。椅子に関する丁寧な思考過程が見られます。
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