2009年2月17日火曜日

Dominicus 2004


スイス隊によるテーベのメルエンプタハ王の葬祭殿に関する建築調査報告書のうち、第2巻目。壁画レリーフ片の集成で、葬祭殿の部屋ごと、場所ごとに報告をおこなっています。扱っているのは2000点ほどの断片。石造神殿のレリーフ片で大型片が多いため、1/10や1/20という縮尺の図面を駆使している労作です。
140枚の図版のうち、線描画が90枚、モノクロ写真が45枚、またカラー写真が5枚という構成。この他に本文中には59点の説明図が入ります。

Brigitte Dominicus,
mit einem Beitrag von Horst Jaritz,
Die Dekoration und Ausstattung des Tempels.
Untersuchungen im Totentempel des Merenptah in Theben, Band II.
Beitraege zur Aegyptischen Bauforschung und Altertumskunde (BeitraegeBf), Band 15
(Schweizerisches Institut fuer Aegyptische Bauforschung und Altertumskunde Kairo, Philipp von Zabern, Mainz am Rhein, 2004)
173 p., 140 Tafeln.

メルエンプタハの葬祭殿は規模が比較的小さい一方で、新王国時代の典型的な形式を良くとどめている上に、アメンヘテプ3世の葬祭殿から石材を流用して建てたことで知られている遺構。このアメンヘテプ3世の葬祭殿というのがとんでもない幻の建物で、現在はほとんど跡形もなく消え失せていますが、古代エジプトでも最大規模を誇っていた宗教建築でした。もし現存するならば、規模としてはカルナックのアメン大神殿を上回ります。
今日、塔門の前にあった王の座像が残っており、メムノンの巨像として有名。ナイル川が増水した時には周囲が水浸しになるように意図的に計画された葬祭殿としても知られており、見渡す限りの水面に現れ出る「原初の丘」を現世に再現しようとした建物であったことが推定されます。

かつてのアメンヘテプ3世葬祭殿については、同じスイス隊が調査をおこなっており、報告書はすでに

Gerhard Haeny,
mit Beitraegen von Herbert Ricke und Labib Habachi,
Untersuchungen im Totentempel Amenophis' III.
Beitraege zur Aegyptischen Bauforschung und Altertumskunde (BeitraegeBf), Heft 11
(Franz Steiner, Wiesbaden, 1981)
xxv, 122 p., 42 Tafeln, 5 Falttafeln.

として刊行されています。メルエンプタハの葬祭殿の報告書の第1巻目も

Susanne Bickel,
mit Beitraegen von Horst Jaritz, Uwe Minuth, Raphael A. J. Wuest,
Tore und andere wiederverwendete Bauteile Amenophis' III.
Untersuchungen im Totentempel des Merenptah in Theben, Band III.
Beitraege zur Aegyptischen Bauforschung und Altertumskunde (BeitraegeBf), Band 16
(Schweizerisches Institut fuer Aegyptische Bauforschung und Altertumskunde Kairo, Franz Steiner, Stuttgart, 1997)
175 p., 95 Tafeln.

として既刊。Band IIIが先に出版されました。建築分析を記すBand Iの出版が遅れるのは良くある話。
神話の世界をこの世に実現させたアメンヘテプ3世の夢を追究する、長年にわたる試みの一環です。Astonによる土器に関する厚い報告Band IVも2008年に出ています。全7巻と予告されたこのシリーズも、若干構成が変えられた模様。
個人的にはここから出たヒエラティック・インスクリプションの内容が早く知りたいところです。

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