2009年2月19日木曜日

MMJ 42 (2007)


ニューヨークのメトロポリタン美術館が刊行している学術雑誌(ISSN 0077-8958)で、年一回発行。美術館の会員向けに年4回、配布されるThe Metropolitan Museum of Art Bulletin(ISSN 0026-1521)とは異なります。
この美術館も多くの部門を擁しており、ここに属するスタッフたちの研究成果などが掲載されるため、内容はきわめて多様です。

Metropolitan Museum Journal (MMJ), Vol. 42
(The Metropolitan Museum of Art, New York, 2007)
184 p.

11本の論考を掲載し、主題の時代順に並べています。
一番最後に載っているのが、ハリー・バートンの写真家としての仕事を紹介している論文。デル・エル=バハリ(ディール・アル=バフリー)における発掘調査の様子を伝える写真が、同じくこの美術館に専属する写真家である筆者によって分析されています。

Bruce Schwarz,
"Harry Burton's Photographs of the Metropolitan's Excavations at Deir el-Bahri",
pp. 173-183.

バートンはツタンカーメンの王墓の発掘風景や遺物の写真を撮影したことで有名。発見によってとたんに忙しくなったハワード・カーターは急遽、助言に従ってアメリカ隊に救援を依頼し、撮影に関してはバートンが出向くことになりました。
ツタンカーメンの墓から発見された遺物の数々や発掘の模様を撮影した膨大な量の写真は、現在はイギリスのグリフィス研究所に収蔵されており、ネットにて通覧できる他、研究用や出版用に写真を有料で取り寄せることもできます。一日では全部を見ることができない量で、他にはハワード・カーターの残した野帳のコピーも公開されていて有用。J. マレク(cf. Málek 1986、またPorter & Moss)による壮大で重要なプロジェクト。

Griffith Institute, 
Tutankhamun: Anatomy of an Excavation
http://www.griffith.ox.ac.uk/tutankhamundiscovery.html

一見、さりげなく写されたかのように見えるバートン自身の作業風景も、計算尽くで撮影されたに違いないと述べられています。

"The cliffs at the upper left give the scene its grandeur. Hatshepsut's temple is visible in the background, but hardly the main interest, while the foreground is out of focus and unimportant. Except for the sphinx at the right, the horizontal row of statuary fragments is undistinguished. This image was made first thing in the morning, when the site was quiet and the air free from dust. In this harsh light, only the white shirts of the two figures glow." (p. 182)

プロの写真家が写真をどのように見ているかがここには書いてあって面白い。一枚の写真の中に写されているさまざまな対象物に序列をつけていくさまが看取され、「真っ白なシャツが輝く人物像」という言い方で視線を引き寄せる対象を指摘しています。

同じように、絵画をどのように見るかを示す論文が以下の論文。ターナーとカナレットとを対照的に扱った論考で、ヴェネツィアの風景を複数描いているふたりの画家の絵を対比させ、描写されている内容が異なっている点を論じています。

Katharine Baetjer,
"'Canaletti Painting': On Turner, Canaletto, and Venice",
pp. 163-172.

ターナーはヴェネツィアの人々にも旅行者たちにも関心がなかったし、建物の細部についてもどうでも良かった、という下りは興味を惹きます。「カナレットは水平に拡がるヴェネツィアの街を描くが、一方でターナーのそれは垂直にある」というような言い方をしており、対極的な扱いが見どころ。

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