51の断章から構成され、それらの全体を7つの章に分けていますが、こういう書き方は珍しいと言っていい。ひとつひとつの断章は短い記述からなっており、必ず断章の中には図版が含まれるように配慮されています。クフ王のピラミッドについての面白いトピックが50以上、集められているという印象です。
裏表紙にはW. K. シンプソン、B. J. ケンプ、そしてI. ショーによる好意的な書評の抜粋が掲載されており、この3人はいずれも非常に有名なエジプト学者。もっとも、ショーはケンプの弟子筋だから、その点は割り引かないといけないかもしれません。
でも、全般的には評価が高い書だと思います。
John Romer,
The Great Pyramid: Ancient Egypt Revisited
(Cambridge University Press, Cambridge, 2007)
xxii, 564 p.
話の中心は、このピラミッドがどう設計され、また建造されたかを綴った部分にあります。
大きな特徴は、20キュービット間隔の水平線と、底辺を6つに分割してできる垂直線とでできる格子を基本として、内部の部屋や通路の位置も、外側の勾配も決定されたとみなしている点で、これは要するに、今まではピラミッドの設計方法を語るに当たっては抜きにはできなかった「リンド数学パピルス」の「ピラミッドの問題」をすっぱりと切り捨てたことを意味します。
建築学的には、これが最も重大な点となるかと思われます。
「リンド数学パピルス」をどう考えるかは、悩ましい問いのひとつではありました。
書かれた時代はピラミッド時代よりも下りますから、同じ手法が古王国時代にも果たして適用されていたかは疑念が残るのではないか。これは文献学が主流のエジプト学にとって、当然討議がなされる問いかけです。従って、「リンド数学パピルスは考慮しなくてもいい」という立場を取る研究者がいても不思議ではありません。
「リンド数学パピルス」を手放すメリットがあって、それはこの本のように、少なくともクフ王のピラミッドまでは話が簡略化でき、整然と語ることができるという点です。
逆に考えるならば、この流れに属する説における致命的なデメリットは、クフ王以降のピラミッドに対して普遍性を持たないという点です。この説に拘泥する限り、「クフ王のピラミッド以降では計画方法が変わったんだ」と考えざるを得ません。
ここはピラミッド研究に関わる者の見解が大きく分かれるところで、非常に興味深い様相を呈しています。
建築に関わる人間は、「リンド数学パピルス」に書かれている勾配の素朴な決定方法を重視する傾向にあり、だから古代エジプト建築研究の第一人者、D. アーノルドは、古王国時代のピラミッドのセケド(リンド数学パピルスに登場する、勾配を決める方法)を求めたりしています。
ここ20年の間にピラミッド学はかなりの進展を見せました。残念なことに、日本にはあまりその情報が入ってきていないと感じます。
この本の日本語訳もまた望まれる所以です。
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