2009年4月26日日曜日

Arnold 1990


エジプトのピラミッドや神殿を建てるのに使われた石には時折、日付や人名がインクで記されていることがあり、これらを研究対象としてモノグラフが構成されるまでになったのはごく最近のことです。たいていこうした文字はひどく荒く書かれており、あまり字を書き慣れていない者が記録を残したのではないかと疑われます。経年によってインクが薄れていることが多く、読みにくい上に、読めたとしても大して重要なことに触れられていないため、本格的な考察は後回しにされてきたという経緯がありました。
この本は、主として中王国時代に属する建物の石材に見られる書きつけを集成したもの。建築学的な検討がなされており、建造順序の解明などに光を当てることができる点を示した著作で、その功績は讃えられるべきだと思われます。

Felix Arnold,
in collaboration with Dieter Arnold, I. E. S. Edwards, Juergen Osing.
Using notes by William C. Hayes.
The Control Notes and Team Marks.
The Metropolitan Museum of Art Egyptian Expedition, The South Cemeteries of Lisht, vol. II
(The Metropolitan Museum of Art, New York, 1990)
188 p., 14 pls.

この本の見返しには"Arnold, Felix. 1972-"と印刷されていて、このように著者の生年が明記される場合がしばしばあります。これをもとにして計算すると、著者が18歳の時の本と言うことになります。
読みづらいヒエラティックに関する報告書を、高校3年か大学1年という若さでメトロポリタン美術館から刊行したことを意味しますが、彼が古代エジプト建築研究の第一人者ディーター・アーノルドの息子だという事情が判っていれば、そうした出版が可能である点は首肯されます。母親もまた、エジプト学では土器研究で非常に有名な人。

錚々たるメンバーが協働に当たっており、遺漏がないように図られたと思われるのですが、残念なことに149ページのC11のインスクリプションの図は上下が逆です。
Goettinger Miszellen 122 (1991), pp. 7-14と129 (1992), pp. 27-31には、F. アーノルドによる関連論文が寄稿されています。

この本が出版されてから、例えばヴェルナーによるBaugraffitiなど、汚くて読みにくい書きつけにも注意が向けられるようになって、後続の報告書が出されることになりました。その点で、メトロポリタン美術館に収蔵されていたヘイズの筆写を用いながら本として纏めたことは慧眼です。
後年の

Nicole Alexanian,
Dahshur II: 
Das Grab des Prinzen Netjer-aperef. Die Mastaba II/1 in Dahshur.
Deutsches archaeologisches Institut Abteilung Kairo, Archaeologische Veroeffentlichungen (AVDAIK) 56
(Philipp von Zabern, Mainz am Rhein, 1999)
173 p., 20 Tafeln.

でも同様の試みがなされており、やはり影響が認められますが、ここでは石材のどこに文字が記されているかも図示され、より丁寧な報告の方法がうかがわれます。

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