2009年4月23日木曜日

Isler 2001


アメリカに住む著者は1926年生まれで、30年以上、ピラミッドを含む古代エジプトの建造技術に関する研究を独自に進めてきました。その研究の集大成というべき本。彼が75歳の時の本となります。

Martin Isler, foreword by Dieter Arnold,
Sticks, Stones, and Shadows:
Building the Egyptian Pyramids

(University of Oklahoma Press, Norman, 2001)
xiv, 352 p.

古代エジプト建築の専門家でメトロポリタン美術館にいるD. アーノルドが短い序文を寄せています。「私の書いた"Building in Egypt"とは解釈が非常に異なるけれども、彼の見方については興味を共有する者同士の皆さんで分かち合いたい」、という鷹揚な書き方。けれども、

"Whereas my work focuses mainly on the archaeological evidence for pharaonic building methods, Martin's offers practical solutions for problems that cannot as yet be resolved by archaeological confirmation." (p. ix)

と、問題意識が違うことを明言しており、学術的には現在の技術方法をそのまま過去には適用することが許されないのだという点を柔らかく、しかしはっきりと示しています。著者の方が年上ですから敬意を払いつつも、問題の所在については指摘がなされている点が重要。

ピラミッドがどのようにして建てられたのかは、長年、建築に関わる者たちの間で討議されてきました。古代エジプト人たちは、ピラミッドの建造作業についての情報を、一切と言って良いほど残していません。ピラミッドの計画方法を示唆する資料は、リンド数学パピルスなど、きわめて僅かです。いくらかの文字資料や絵画資料が今日まで伝わっていれば少しは参考になったであろうと思われますけれども、これがまったくうかがわれません。
建造方法が秘密だったのだという意見もありますが、秘密にすべきはピラミッド内の部屋の配置、及び侵入者を防ぐための建築的な対策で、外形の計画方法を秘密にする理由はありませんでした。

かみそりの刃が一枚も入らないほど、ぴったりと石材が接合されているという点が驚きをもって強調されがちですけれど、本当の問題はどうすれば歪み無く高い構築物を建てることができるのかにかかっています。100メートル以上も高い地点に向かって、空中に浮かぶ指標がない状態で石を積み上げていくためには、地上で計測を繰り返し、確かめながら下から上へと作業を進める他はなく、精度の確保をどのような手順でおこなったのかが解明すべき点です。
石積みの方法に関してはまた別の問題となり、これについてはさまざまな手順が推定されている状態。

図版は非常に上手に描かれていて、手慣れた様子がうかがわれます。ピラミッドがどのように建てられたかを説明しようとした類書は多いのですが、基本的な諸問題について触れている書ですから、例えばアーノルドの本と併読すると興味深い。
オクラホマ大学出版局は、少数ですが面白い古代エジプト関連の本を出しています。

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