古代ローマに関してはしかし、ワード・パーキンズが大理石の加工方法や運搬や交易など、話題を拡張して手本を見せ、以後は何人かが集中して研究をおこなっています。
Bessacのこの本は、古代から中世に渡って使われ続けたフランスの石切場の調査報告で、これだけ詳しいものも珍しい。
Korresによる古代ギリシアの石切場ペンテリコンの重要な報告書については、すでに触れました(Korres 1995)。それと並ぶ基本文献。
Jean-Claude Bessac,
avec la collaboration de M.-R. Aucher, A. Blanc, P. Blanc, J. Chevalier, R. Bonnaud, J. Desse, J.-L. Fiches, P. Rocheteau, L. Schneider et F. Souq,
La pierre en gaule narbonnaise et les carrieres du bois des Lens (Nimes):
histoire, archeologie, ethnographie et techniques.
JRA Supplementary Series 16
(Journal of Roman Archaeology (JRA), Ann Arbor, 1996)
334 p.
200枚近くに及ぶ図版によって、丁寧に石材の加工方法、切り出し順序、運搬、単位寸法などの考察が説明されています。フランスでは良質の石材が産出し、その利点は、この国のあちこちに建立された大聖堂で見ることができます。イギリスでは、こうはいきません。
普通なら見落としがちな、石を切り離すための楔の方向などから、石を採取した順番を想定するなど、参考となる考え方が示されており、貴重。
図版はすべてモノクロです。スケッチと呼ぶべき、比較的簡単な図が並んでいますが、石に残っている加工の痕跡を観察し、道具の刃先を復原しているところなどはさすがです。発掘調査によって得られた出土遺物の報告は、飛ばして読んで構わないかと思います。自分の知識で及ばないところは専門家を呼んで書かせ、補っており、無理をしていません。石材の加工風景が豊富に掲載されていますけれども、多くは著者が別の人に描かせたもの。それでいいと思います。
Bessac編と紹介されている場合もあるようですが、これは間違いなく、Bessacの本です。考え方が統一しています。
石切場という、良くわからない場所を見て何を明らかにすべきか。どういう情報がそこから引き出せるのか。そうした点が明示されている本で、これからの石切場調査における指針が示されている報告書。
文字資料が見つかる石切場では、文字の読解に引きずられる場合が多々あって、気持ちは分かりますけれども、本来の仕事、すなわち、不定形のかたちが散らばるだけの場所で、何をどう見るかが一番、重要となります。そこが面白いところ。
巻末の参考文献も充実しています。
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