2009年8月1日土曜日

Willems 2007


中部エジプトに位置するベルシャ(バルシャ)の発掘調査報告書の第1巻目。ディール(デル)はDeirではなくDayrなのかと訝る向きもあると思いますが、

"Arabic geographical names in this volume are abbreviated according to the system of the ’International Journal of Middle East Studies.’" (p. 1, note 1)

とあり、ケンブリッジから出ている雑誌のやり方に倣っていることが分かります。
観光旅行ではなかなか行く機会がない中部エジプトですが、ミニヤを拠点とするならばアマルナを初めとしてベニ・ハッサン(バニー・ハサン)、カウなど、見どころの多い場所。スペオス・アルテミドスもこの地域にあります。

Harco Willems,
with the collaboration of Lies op de Beeck, Troy Leiland Sagrillo, Stefanie Vereecken, and René van Walsem,
Dayr al-Barsha, Vol. I:
The Rock Tombs of Djehutinakht (No. 17K74/1), Khnumnakht (No. 17K74/2), and Iha (No. 17K74/3).
With an Essay on the History and Nature of Nomarchal Rule in the Early Middle Kingdom.
Orientalia Lovaniensia Analecta (OLA) 155
(Peeters and Departement Oosterse Studies, Leuven/Leuvain, 2007)
xxiv, 126 p., LXI pls.

Contents:
Preface, v
Bibliography and Abbreviations, xi

Chapter 1: Introduction, p. 1
Chapter 2: The Spatial Context of the Tombs, p. 11
Chapter 3: Previous Research, p. 19
Chapter 4: The Tomb of Djehutinakht (17K74/1), p. 23
Chapter 5: The Tomb of Khnumnakht (17K74/2), p. 59
Chapter 6: The Tomb of Iha (17K74/3), p. 61
Chapter 7: An Essay on the History and Nature of Nomarchal Rule in the Early Middle Kingdom, p. 83

Indices, p. 115

焦点はこの地域における中王国時代の様相。
参考文献は非常に多く挙げられており、この中にはつくば大学の川西隊によるアコリス報告書も含まれていますが、近年刊行されている年次報告に関しては取り上げられていません。
ここでは3つの岩窟墓を報告し、7章で比較的長く、ジェフティナクトの墓で見られる自叙伝の重要性が述べられるとともに、派生する問題を検討しています。

石切場の調査も同時に着手しており、こちらとしてはその成果に注目したいところ。ですがこの巻では単に、多数残存するデモティックのインスクリプションの存在を伝えるだけ(p. 5)で、詳しくは踏み込んでおらず、むしろドイツの専門雑誌、MDAIKで発表している調査報告の方が役立ちます。建築学的観点からは、天井に多く残る赤い線などを、どのように理解するのかの記述が待たれます。

非常に広い敷地の範囲を研究対象としており、かなりの年数にわたる調査を予定しているらしく思われますけれども、最初に敷地を訪れて興味を抱いたのが1984年と序文にありますから、すでに20年以上が経過。第2巻目以降は厚くなりそうです。
ここからは未盗掘の墓が見つかり、世界的なニュースとなりました。中王国時代の直前となる第一中間期末期に属するヘヌゥ(Henu)の墓(紀元前約2050年)。サイトが用意されています。

http://www.arts.kuleuven.be/bersha/

しかしこのサイトを通じての調査自体の報告は滞っており、2002~2004年の分しか掲載されていません。
本はカラー図版を多用した立派な造りで、今後の調査の進展が楽しみです。周到な準備を重ねて編まれたことが良く分かる報告書の一例。
OLAのシリーズは良く知られており、例えば最近の、ウィーンで活躍するマンフレッド・ビータックへの献呈論文集(OLA 149、全3巻、2006年)や、第9回国際エジプト学者会議録(OLA 150、全2巻、2007年)もここから出版されています。

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