2009年5月31日日曜日

Herrmann (ed.) 1996


古代の家具を調べようとするならば、本書は要諦。
20人以上ほどの専門家が集った国際会議の記録で、エジプト・西アジアにおける家具研究がものすごい勢いで並び、類書がまったくありません。
考古学を一般向けに紹介するMinerva誌であったか、この会議の模様が短く報告されているはずです。研究者同士がすぐに打ち解けて、活発な研究発表がおこなわれたらしい。この世界に携わる人はごく少数ですから、当然のこと。

世界中に散らばっていて、それまで長年、孤立しながら研究を続けていた者たちが、ほとんど初めて大規模に集まった会議で、おそらくは恋人とようやく遭遇したような、熱い雰囲気であったと想像されます。
西アジア・エジプトにおける古代家具の研究は、世界でこれぐらいしか人数がいないと言うことです。この事情は、今でも大きく変わっていないと思われます。
400ページを超える、20世紀の末に出版された記念すべき書。古代の木工の詳細に関する貴重な情報が掲載されています。

Georgina Herrmann ed.,
Assistant editor: Neville Parker,
The Furniture of Western Asia : Ancient and Traditional.
Papers of the Conference held at the Institute of Archaeology, University College London, June 28 to 30, 1993
(Philipp von Zavern, Mainz am Rhein, 1996)
xxviii, 301 p., farbigem Frontispiz, 92 Tafeln.

Table of Contents:
Introduction,
by Georgina Herrmann (xix)

Timber trees of Western Asia,
by F. Nigel Hepper (p. 1)

Ancient Egyptian carpentry, its tools and techniques,
by Geoffrey Killen (p. 13)

Architecture and Furniture,
by Michael Roaf (p. 21)

Domestic furniture in Iraq, ancient and traditional,
by Lamia al Gailani Werr (p. 29)

The earliest evidence from Mesopotamia,
by Harriet Crawford (p. 33)

Middle Bronze Age furniture from Jericho and Baghouz,
by Peter J. Parr (p. 41)

Furniture in the West Semitic Texts,
by T. C. Mitchell (p. 49)

Le Mobilier d'Ougarit (d'aprés les travaux récents),
by Annie Caubet et Marguerite Yon (p. 61)

Cypriote furniture and its representations from the Chalcolithic to the Cypro-Archaic,
by Maro Theodossiadou (p. 73)

Furniture in the Aegean Bronze Age,
by O. H. Krzyszkowska (p. 85)

Mycenaean Footstools,
by Yannis Sakellarakis (p. 105)

Hittite and Neo-Hittite furniture,
by Dorit Symington (p. 111)

The influence of Egypt on Western Asiatic furniture, and evidence from Phoenicia,
by Eric Gubel (p. 139)

Ivory furniture pieces from Nimrud: North Syrian evidence for regional traditions of furniture manufacture,
by Georgina Herrmann (p. 153)

Assyrian furniture: The archaeological evidence,
by John Curtis (p. 167)

Urartian furniture,
by Ursula Seidl (p. 181)

Pyrygian furniture from Gordion,
by Elizabeth Simpson (p. 187)

Furniture in Elam,
by Ann C. Gunter (p. 211)

Neubabylonische Möbel und das Sitzen auf dem Bett,
by Peter Calmeyer (p. 219)

Achaimenidische Möbel und "kussu sa sarrute",
by Peter Calmeyer (p. 223)

Parthian and Sasanian furniture,
by Vesta Sarkhosh Curtis (p. 233)

Furniture in Islam,
by J. M. Rogers (p. 245)

Concluding remarks,
by Roger Moorey (p. 253)

The Authors (p. 259)
Bibliography (p. 265)

長々と目次を掲げたのは、内容を逐一示すためです。題名において一部、特殊記号を省略。
網羅されている時代と地域に、特に御注目ください。
ただ圧倒されるばかりです。15年以上経っていますが、これに比肩すべき会合は一切開催されていないはず。

会議の最後にまとめとしての"Concluding remarks"をしゃべる役目となったMooreyは、惜しくも亡くなりましたが、適任。語りの冒頭では当該分野の先蹤者としてH. BakerO. Wanscherの2名の家具職人を挙げ、讃えています。
このMooreyという人は、古代西アジア研究の分野できわめて高名な人。

P. R. S. Moorey,
Ancient Mesopotamian Materials and Industries:
The Archaeological Evidence

(Clarendon Press, Oxford, 1994)
xxiii, 414 p.

を書いた研究者で、この本も類書が見当たりません。古代技術の解明に努力した、恐るべき博学の人でした。

しっかりとした造本で、265-301ページに纏められた長大な参考文献リストはきわめて重要。これだけ古代の家具に関する著作を集めたリストは、現在でも稀有です。

2009年5月30日土曜日

Baker 1966


古代家具に関する教科書で、基本中の基本。出版以来、40年以上経ちますが、類書がありません。偉大な書です。
こうした本に対し、ラテン語で"opus magnum"という書き方がされる場合があり、傑出した本に贈られる言葉。字義は「偉大な達成」というほどの意味。

Hollis S. Baker,
with an introduction by Sir Gordon Russell,
Furniture in the Ancient World:
Origins and Evolution 3100-475 B.C.

(The Connoisseur, London, 1966)
351 p.

Contents:
Part I: Egypt (p. 17)
Part II: The Near East (p. 157)
Part III: The Aegean (p. 233)
Appendix (p. 291)
(以下略)

著者は家具職人で、作ることを熟知しているからこその記述があって、そこが見どころです。
これだけの情報を、良くもまあ集めたと感心します。
写真図版が多数。ほとんどがモノクロですが、カラー写真も数ページ、含まれています。

この本、人に貸したら戻ってこないと言うことが何回かあって、3回ぐらい買い直しているのですが、家具に興味のある人にとっては必携。日本でも家具史の本は何冊も出ていますけれども、この本の受け売りである場合が大半です。

付章では仕口の図解があり、これも非常に重要。
"Measured Drawings"も巻末に収められており、Killenがこの点に関しては近年、精力的に情報を改訂しています。

Bakerの会社は未だ存続しており、

http://baker.kohlerinteriors.com/baker/1_0_0_baker_home.jsp


を見るならば、古代エジプトの家具を復原して販売していることが分かります。
"stool"を検索してみてください。

2009年5月29日金曜日

Caputo 1959


リビアの世界遺産であるサブラタの劇場に関する報告書。「サブラタの劇場とアフリカの劇場建築」という題の本。
G. カプートの著作の中でもっとも参照されているもののうちの一冊ながら、実のところはなかなか見ることが困難な本でしたけれども、古代ローマ時代の劇場建築を網羅したSear 2006が刊行され、事情が変わりました。
少々長くなりますが、参考までに目次の抜粋を掲載。

Giacomo Caputo,
Il teatro di Sabratha e l'architettura teatrale africana.
Monografie di Archeologia Libica, Vol. VI
(L'ERMA di Bretschneider, Roma, 1959)
90 p., 93 tavole.

Indice generale della materia:
Premessa (p. 5)
Avvertenza (p. 6)

Parte Prima: Il teatro di Sabratha
Ubicazione e struttura (p. 9)
La facciata (p. 11)
La cavea (p. 13)
I rilievi del pulpito (p. 15)
L'iposcenio (p. 23)
La scena (p. 26)
Il triportico dietro la scena ed i saloni (p. 28)
Il complesso architettonico (p. 29)
Aggiunta epigrafica (p. 32)
L'opera di restauro (p. 33)
L'ultima fase dell'opera (p. 36)
Documentazione e saggi grafici (p. 38)
Il problema statico (p. 39)
Appendice (p. 43)

Parte Seconda: L'architettura teatrale africana
Il teatro antico e l'Africa (p. 49)
I teatri romani in Marocco, Algeria, Tunisia, Tripolitania (p. 50)
Morfologia fondamentale (p. 56)
Intermezzo (p. 61)
Le peculiarità dei teatri della Cirenaica (p. 65)

Note (p. 71)
Indice descrittivo delle tavole e figure (p. 83)
Indice descrittivo delle tavole e dei graffici (p. 87)
Tavole (p. 91)

全体は2つに分けられます。
第1部はサブラタの劇場を扱っており、第2部においては北アフリカにおける類例を挙げ、比較を試みていますが、記述は比較的簡素。
同じ著者によるレプティス・マグナの劇場については、予告よりもかなり遅れ、

Giacomo Caputo,
Il teatro augusteo di Leptis Magna: Scavo e restauro (1937-1951).
Monografie di Archeologia Libica III
(L'ERMA di Bretschneider, Roma, 1987)
148 p., 188 tavole, XXXIX tavole

として出版されています。チュニジアのモザイクなどについても、彼は報告書を刊行。
Monografie di Archeologia Libicaは、リビアの古代建築を知る上で欠かせないシリーズ。今も刊行され続けています。

2009年5月28日木曜日

Österreichischen Archäologischen Institut Wien (ÖAIW) 1953 (2. unveränderte Auflage)


エフェソスの図書館に関する大判の報告書。基礎資料となります。ウィーン調査隊による一連のエフェソスの報告書を日本で見るには多少の努力を必要とするかも。

東京近辺であったら、中近東の建築報告書については武蔵野の中近東文化センタ−や町田の国士舘大学イラク古代文化研究所などが、豊富な蔵書を誇ります。
日本や海外の、どこの図書館がどういう書籍を持っているかを知ることは、研究を進める上での第一歩。 こういうことは、いろいろ検索を続けていくうちに自然と身につきます。
全部を持っている図書館は、世界のどこにも存在しません。名だたる大英博物館の図書館も、収蔵図書は偏っています。
逆に言えば、日本語の本だけを見ている人は何年経っても駄目。

Österreichischen Archäologischen Institut Wien
(veröffentlicht vom),
Forschungen in Ephesos, Band V, Heft 1: Die Bibliothek
(Österreichischen Archäologischen Institut Wien, Wien, 1953. 2. unveränderte Auflage.
1. Auflage: 1945)
vi, 84 p., 2 Tafeln, mit 118 Abbildungen im Text

Übersicht des Inhalts:
I: Das Gebäude (1-42)
II. Der Sarkophag des Celsus (43-46)
III. Die Skulpturen (47-60)
IV. Die Inschriften (61-80)
V. Bibliothek und Heroon (81-84)

初版と何も変えていない再版、と書いてあるんですが、初版を見比べる機会がないのでこの再版を扱います。
梁の組み方など、細かいところまで報告をおこなっており、注目されます。
当方は戸口の石の組み方を知るために、この本を調べた次第。
ドイツ系の調査隊による建築報告書は記述が綿密で、圧倒されます。大判の報告書の良さが存分に示されている書。

アメリカの古書店Ars Libriから連絡があり、久しぶりに建築の本をカタログに纏めたからどう? と誘いがあったのですが、ものすごい内容です。

http://www.arslibri.com/


バールベックの報告書3巻本が揃いで8750ドル。スイス隊による古代エジプト建築の調査報告書、BeiträgeBfの12巻までのシリーズが2000ドル。豪華本として知られているタイトゥス・シリーズの古代エジプトの貴族墓報告書の5巻本が6500ドル。
いずれもこの十数年、市場に出回っていない本ばかりです。日本にあまり入っていない。持ってるだろうなと思われる人の顔は具体的に出てくるのです。心は立ち騒ぐものの、ま、購入は到底無理。

日本で海外の建物を調べることの意味を、こういう時にいつも思い知らされます。自分は今、何をやっているのかと言うことですね。
古書店が送ってくる本のカタログから、自分の今の立場を改めて考え直すということが促されたりもするわけです。ここで落ち込むか、それともポジティブに考えるか。

強いものをあおって、ちょっと飲み直しながら再び考えたいところ。

2009年5月27日水曜日

Cerny 1973


チェルニーの主著。
デル・エル=メディーナ(Deir el-Medina: もしくはディール・アル=マディーナ)が、王家の谷で働いていた者たちの村であるということをいち早く類推した研究者でした。新王国時代のヒエラティックを精力的に読んだ人の本です。カイロ博物館収蔵の土器片・石灰岩片に記された文字資料(「オストラコン」;複数形は「オストラカ」)やデル・エル=メディーナから出土した文字資料、あるいはテーベの懸崖に残る読みにくい多数の落書きなどを、何冊もの報告書にまとめた偉人。ツタンカーメンの墓から見つかったヒエラティックを解読した報告書も書いています。
この人の教えを受けたのがJ. J. Janssenで、彼はその後、オランダのレイデンにデル・エル=メディーナに関する一大研究拠点を作り上げました。

デル・エル=メディーナ研究の難しいところは、刊行された資料を用いるだけでは埒があかないことです。未刊行資料にも目を通さないと話が進みません。
10数年ほど前にクメール研究に携わるようになった時、連想したのは、デル・エル=メディーナ研究と似た状況だなということでした。クメール研究においても、パリに本拠を置くEFEO(フランス極東学院)所蔵の未刊行資料に当たらないと、非常な不自由を感じることになります。資料が一握りの人間たちだけに知られている状態にあるという好例。

Jaroslav Cerny,
A Community of Workmen at Thebes in the Ramesside Period.
Bibliotheque d'Etude (BdE) 50; IF 453
(Institut Francais d'Archeologie Orientale, Le Caire, 1973)
iv, 383 p.

レプリントも出版されました。
王家の谷が当時、何と呼ばれていたか(「セト・マァト」、『真実の場所』というほどの意味)の説明に始まり、労働者集団の名、階層と各肩書き、班構成の考察、掘削された石の量の単位、その他、岩窟墓の造営に関する基本的な問題がここでは展開されています。デル・エル=メディーナ研究における必携の書。
これには続巻というべきものがあって、彼の遺した断片的な情報が薄い本となって纏められています。

Jaroslav Cerny,
The Valley of the Kings (Fragments d'un manuscrit inarcheve).
Bibliotheque d'Etude (BdE) 61; IF 455
(Institut Francais d'Archeologie Orientale, Le Caire, 1973)
vi, 55 p.

また、上記2冊の本に書かれている内容の要約に類する文章が、The Cambridge Ancient History (CAH)のどこかの巻に短く掲載されているはずですので、興味のある方は最初、これに目を通すと良いかもしれない。

チェルニーはまた、グロールと共著で新エジプト語の文法書を書いており、まず中エジプト語の学習を終えた者はこれに進むことになります。

Jaroslav Cerny and Sarah Israelit Groll
assisted by Christopher Eyre,
A Late Egyptian Grammar.
Studia Pohl: Series Maior, Dissertations Scientificae de Rebus Orientis Antiqui 4.
(Biblical Institute Press, Rome, 1984, 3rd updated ed.
First published in 1973)
lxxxiv, 620 p.

アシストしている人間がクリストファー・エアである点に注意。Powell編の本で新王国時代の労働について書いている研究者です。
この書、本文をなす620ページの文法解説の前に、84ページにもわたる前置きが付きます。ちょっとない。
グロールも2007年末、81歳で亡くなってしまいました。

2009年5月4日月曜日

Samson (ed.) 1990


「住居」という、誰にでも馴染みのある対象を考古学的に扱った小さな本で、見逃せない書籍。

"All the main schools of social theory are covered, including feminism, marxism, structuralism and structuration theory. The ideas developed by Henry Glassie, Bill Hillier and Julienne Hanson are also explored."

とカバーには書かれていて、なかなか意欲的な内容であることがうかがわれます。
ここでの"schools"とは「学校」ではなく、「流派・学派」のこと。フェミニズムやマルクス主義、構造主義的考察などによる解釈が広く扱われることになります。

Ross Samson ed.,
The Social Archaeology of Houses
(Edinburgh University Press, Edinburgh, 1990)
v, 282 p.

Contents:
1. Introduction, by Ross Samson (p. 1)
2. The Living House: Signifying Continuity, by Douglass W. Bailey (p. 19)
3. Social Inequality on Bulgarian Tells and the Varna Problem, by John Chapman (p. 49)
4. Comment on Chapman: Some Cautionary Notes on the Application of Spatial Measures to Prehistoric Settlements, by Frank E. Brown (p. 93)
5. The Late Neolithic House in Orkney, by Colin Richards (p. 111)
6. Domestic Organisation and Gender Relations in Iron Age and Romano-British Households, by Richard Hingley (p. 125)
7. Romano-British Villas and the Social Construction of Space, by Eleanor Scott (p. 149)
8. Comment on Eleanor Scott's 'Romano-British Villas and the Social Construcion of Space', by Ross Samson (p. 173)
9. The Feudal Construction of Space: Power and Domination in the Nucleated Village, by Tom Saunders (p. 181)
10. The Rise and Fall of Tower-Houses in Post-Reformation Scotland, by Ross Samson (p. 197)
11. The Englishman's Home and its Study, by Matthew Johnson (p. 245)
12. Analysing Small Building Plans: A Morphological Approach, by Frank E. Brown (p. 259)
Index (p. 277)

編者のサムソンが序章の他に2つも書いており、またF. E. ブラウンもふたつの章を担当しています。こういう点をどう解釈するかは、勘案のしどころ。

ヒリアーの理論をもとにした第3章に対するブラウンによる論評、第4章が面白い。ブラウンはここで、当然とも言える反論を用意していて、ヒリアーの理論では部屋というものを、大きさを完全に無視している点などを図も交えて誇張して挙げ、注意を喚起しています。
この説明の仕方はきわめて興味深く、「部屋の繋がり方だけを言うのであれば、それはロンドンにおける近世の長屋であっても同じじゃないか」と言っています。その類例の提示のやり方が愉快です。建築を良く分かっている研究者による、説得力ある書き方。
この部分が他の者によって引用される理由がここにあります。

ですが、これがヒリアーの論に対する本当の批評になっているかどうか。またブラウンの論文の引用者が、本当にその意味を理解しているのかどうか。
ヒリアーの展開した論の射程は思いの他、広がりを持っており、これによってさまざまなことが明るみにされる可能性があるように思われ、単に考古学の現場へ当て嵌めることができないという理由だけで捨て去るには忍びない感じがします。
矛盾を孕んでいるところこそが、深く考えるべき場所のように思われます。

忌野清志郎の訃報に接しました。
「体が弱くて不健康ができるか」との笑える書き込みのある、彼の顔が大写しにされた30年ほど前の昔の大きなポスターを吉祥寺のパルコで見たことを改めて思い出しました。

人間が「不良として生きる」ということを、生涯を通じてまっとうした注目すべき偉人。惜しまれます。
心から冥福を祈ります。

2009年5月3日日曜日

Demaree and Egberts 1992


世界最初のストライキがおこなわれたと言われるデル・エル・メディーナ(ディール・アル=マディーナ:専門書においては"DeM"と略されることが多々あります)の研究書。
これは王家の谷を造営した職人たちが住んでいた村で、200年ばかり存続しました。
この村の研究を進めていることで有名なのがレイデン大学。ここに「非西欧研究センター、Centre of Non-Western Studies: CNWS」というのがあって、エジプト学も東南アジア研究もおこなっています。

R. J. Demaree and A. Egberts,
Village Voices:
Proceedings of the Symposium "Texts from Deir el-Medina and Their Interpretation", Leiden, May 31 - June 1, 1991.
CNWS Publications no. 13
(Centre of Non-Western Studies, Leiden University, Leiden, 1992)
(ix), 147 p.

DeMの研究書は何冊も出ていますけれども、非常にコアな研究グループですから、全貌を知るまでには時間がかかります。重要史料であるオストラカが全部出版されていないというのが難点のひとつ。1/3が出版済み、残りの1/3についてはチェルニーのノートに記されていて、あとの1/3が公開待ち、というような情勢でしたが、このところ史料の出版が続いており、改善されつつあります。CNWS Publicationsのシリーズはきわめて有用。
編者のDemareeは大英博物館蔵のオストラカの本を近年、出版しました。でも判型が小さく、情報の重複を避けているために他の本をいちいち参照しなければいけないところが残念。

Robert J. Demarée,
Ramesside Ostraca
(The British Museum, London, 2002)
48 p., 224 plates.

この村には、字が汚いことで知られる書記がいます。性格も相当悪かったようですが、3000年以上も前なのに、悪筆で歴史に名を残していることでは有数の人。
あるオストラカでは、この人の名前がほんの一部しか残されていないのにも関わらず、読解では職名まで復元されており、この狭い学問領域における研究層の厚さが示唆されます。
住人についてはとことん細かく調べられていて、Who's Who at Deir el-Medina (1999)などという本まで出ています。家系図も作成されており、3000年以上も前の当時の住人にとって、それが喜ばしいことなのかどうかは不明。

Demareeはこの本で王墓の寸法に言及しているオストラカを集めており、注目されます。村の人のうち、一体どれだけの者が字を読み書きできたかを問うJanssenの論考も読むべき論文。
Bierbrier、Gasse、Haring、McDowellも寄稿しており、この人たちはメディーナ研究の中枢にいる学者たちです。Haringはこのところ、活躍が目立っています。

20ページ以上も続く巻末の

"A Systematic Bibliography on Deir el-Medina"

は、まことに瞠目すべきリスト。この改訂版は出ていますし、最新情報の公開方法は今日、すでにウェブサイトへと移っています。
この出版物は薄手の本ながら、未だ重要さを失っていません。

2009年5月2日土曜日

Hoffmann et al. (Hrsg.) 1991


建築の考古学的考察をまとめた本。「古代の建築技術」という原題です。国際会議の報告書で、古代ギリシア・ローマの建築遺構が主として対象にされていますが、P. グロスマンが古代エジプトのローマ期における日乾煉瓦造壁体への木材の積み入れについても論文を寄せています。

Adolf Hoffmann, Ernst-Ludwig Schwandner, Wolfram Hoepfner, und Gunnar Brands
(Herausgegeben von),
Bauteknik der Antike
Internationales Kolloquium in Berlin vom 15.-17. Februar 1990 veranstaltet vom Architekturreferat des DAI (Deutsches Archaeologisches Institut) in Zusammenarbeit mit dem Seminar fuer Klassische Archaeologie der Freien Universitaet Berlin.
Diskussionen zur Archaeologischen Bauforschung, Band 5
(Philipp von Zabern, Mainz am Rhein, 1991)
x, 265 p.

その道のエキスパートばかりが集まっている会合なので、きわめて専門的な事項の報告が多く、知らないことばかりです。
古代ローマ建築におけるガラス窓や、古代ギリシア神殿の天井の木材の用法、コルドバのモスクにおけるアーチの詳細、鉄によるギリシア神殿の補強方法の話、瓦屋根の詳しい復元、古代におけるノコギリで大石を切る方法、他にはマヤの「宝庫」に関する考察など、多岐にわたっている論文集。

E. Hansenによるギリシア神殿基壇の石材の設置方法に関する論文は重要で、しばしば引用されています。
これはしかし、9ページのうち、文章はたったの2ページ弱。あとは全部、基壇の細かな造り方の手順を示した図版で占められるという、ちょっと変わった論文。

Diskussionen zur Archaeologischen Bauforschungのシリーズはこの後も刊行されており、重要です。