ラベル 古代ローマ の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 古代ローマ の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2012年6月18日月曜日

Yegül 1995


古代ローマの公共浴場については、20世紀末期に出版された包括的な専門の研究書が注目されます。
公共浴場を示すテルマエ thermae は古代ギリシャ語の「テルモス(温かい)」が語源で温浴場の意味。体温計を意味する英語のサーモメーター thermometer や温度を調節する器械であるサーモスタット thermostat などの他、日本の医療会社の名前「テルモ」のもととなっているようです。
テルマエ・ロマエ Thermae Romaeというように、thermaeは複数形をとるのが通例。この場合、女性名詞の地名Romaの地格が続き、それはこの語の単数属格と同じです。

共同浴場 thermae はひとつの大きな建物内に複数の男女別、またカルダリウム caldarium(高温浴場)、テピダリウム tepidarium(温浴場)、フリギダリウム frigidarium (冷浴場)を備え、温度が異なる3つの浴場を備えたという点が面白いところ。
frigidariumというラテン語の綴りから「冷蔵庫 refrigerator」の英語の綴りを直ちに思い出された方は鋭いと思います。日本語で「冷たい」という意味の語根を共通して持っています。

「公共浴場」という名称から思い起こされる範疇を超えて、ここには走り回るための陸上競技走路が設けられることもありました。フィットネス・ジムと、その後の疲れの癒しのため利用するスパが合体された豪華な施設、あるいは温泉健康ランドの原型が、はるか昔からあったというわけです。
Delaine 1997では、大規模なカラカラ浴場の建造過程と、これを建てるために必要な資材と労力を積算するという試みがおこなわれており、とても注目される著作。
なお、共同浴場の具体的な平面の設計方法についてはWilson Jones 2000にて分かりやすく図解されています。

しかし下記の労作も重要で、500ページを費やし、古代における共同浴場の全般を記しています。こういう本は長い間、待たれていました。

Fikret Yegül
Baths and Bathing in Classical Antiquity
(Architectural History Foundation and the Massachusetts Institute of Technology, New York, 1992)
ix, 501p.

個別の遺構の報告ということであるならば、近年の例として

Andrew Farrington
The Roman Baths of Lycia: An Architectural Study.
British Institute of Archaeology at Ankara, Monograph 20
(British Institute of Archaeology at Ankara, London, 1995)
xxv, 176p., 202 plates.

が挙げられると思います。

2011年9月8日木曜日

Pliny the Elder (Gaius Plinius Secundus), Naturalis Historia, Liber XXXVI


プリニウスの「博物誌」は当時の百科事典という位置づけで、全部で37巻からなる記述のうち、第36巻では多様な石に関する知見が述べられ、古代エジプトのオベリスクについても具体的な寸法を交えながら触れられています。
ただし、古代ローマにおける尺度で書かれているために換算が必要。またこの採寸の値がどこまで正確なのか、分かりません。しかしエジプトから何本も運ばれてきた奇妙な一本石のモニュメントに、相当の興味が持たれていたことは確かなようです。
ここで挙げるのはLoebシリーズによる英訳。10冊の訳本にまとめられています。内容が多岐にわたるため、訳者も大変だったでしょう。苦労が忍ばれます。

Gaius Plinius Secundus (Pliny the Elder),
Naturalis Historia.
Translated by D. E. Eichholz,
Pliny, Natural History, Vol. X: Libri XXXVI-XXXVII.
Loeb Classical Library 419
(Harvard University Press, Massachusetts, 1962)
xviii, 344 p.

邦訳:
中野定雄・中野里美・中野美代
「プリニウスの博物誌」全3巻
(雄山閣、1986年)、
第3巻、pp. 1451-1495.

大プリニウス(Pliny the Elder)と小プリニウス(Pliny the Younger: Gaius Plinius Caecillius Secundus)の2人がいるのは、大プリニウスの甥に当たる人が、非常に貴重なラテン語の手紙類を残しているため。

この本が日本語で読めるというのは嬉しい限りです。この訳書が出版された時には評判になりました。ただ原典のラテン語からではなく、Loebのシリーズによる英訳本文をさらに日本語訳したもので、Loebのシリーズに見られる注釈は省略されていますから注意。
Loebのシリーズによるプリニウスの「博物誌」全10巻の書誌を挙げておきますと、

Pliny the Elder,
Natural History, 10 vols.
(1938-1962)

Vol. I: Books 1-2.
Translated by H. Rackham.
Loeb Classical Library 330
(1938)

Vol. II: Books 3-8.
Translated by H. Rackham.
Loeb Classical Library 352
(1942)

Vol. III: Books 8-11.
Translated by H. Rackham.
Loeb Classical Library 353
(1940)

Vol. IV: Books 12-16.
Translated by H. Rackham.
Loeb Classical Library 370
(1945)

Vol. V: Books 17-19.
Translated by H. Rackham.
Loeb Classical Library 371
(1950)

Vol. VI: Books 20-23.
Translated by W. H. S. Jones.
Loeb Classical Library 392
(1951)

Vol. VII: Books 24-27.
Translated by W. H. S. Jones and A. C. Andrews.
Loeb Classical Library 393
(1956)

Vol. VIII: Books 28-32.
Translated by W. H. S. Jones.
Loeb Classical Library 418
(1963)

Vol. IX: Books 33-35.
Translated by H. Rackham.
Loeb Classical Library 394
(1952)

Vol. X: Books 36-37.
Translated by D. E. Eichholz.
Loeb Classical Library 419
(1962)

最初の5巻と第9巻を訳した1868年生まれのHarris Rackhamは、Loebのシリーズにおいてキケロの訳の他、アリストテレスの著作の訳なども手がけており、こっちの方が本業。古代ギリシア語とラテン語を自在に使いこなすことができた学者であったことが良く分かります。
おそらく全10巻の訳をひとりで完遂したかったと思われますが、1944年に亡くなり、それ故にさまざまに訳者が入れ替わっています。

オベリスクの形状を考える上で「博物誌」の36巻に出てくる記述、

idem digressis inde ubi fuit Mnevidis regia posuit alium, longitudine quidem CXX cubitorum, sed prodigiosa crassitudine, undenis per latera cubitis.

"Ramses also erected another at the exit from the precinct where the palace of Mnevis once stood, and this is 120 cubits high, but abnormally thick, each side measuring 11 cubits."
(XXXVI, XIV: Eichholz, ibid., pp. 50-51)

「ラムセスはまた、かつてムネウィスの宮殿があった構内の出口のところにいま一本立てたが、これは120キュービットの高さがあった。しかし異常に太いもので、各面とも11キュービットもあった。」
(「プリニウスの博物誌」、第3巻、p. 1466)

は重要。
なぜ「異常に太い」という言及がなされたのかが気になります。この時代、オベリスクの普通のかたちが認識されていたのかもしれません。この巻の訳者はわざわざこの部分に註を設け、

"The proportions are not abnormal. In general, the height of about ten times the maximum breadth, which is at the base."
(Eichholz, p. 50)

と述べています。「ちっとも異常ではないように思われるが」という対応。オベリスクの底辺の10倍が全高になるという見方がいつ生まれたのか、興味深いところです。

プリニウスはこのあとにピラミッドについても書いており、以下の文面はギリシアのヘロドトス、シケリアのディオドロス、ストラボンたちによるクフ王のピラミッドの寸法に関する最古の記述に次ぐもののひとつでしょうか。
すなわち、

amplissima septem iugera optinet soli. quattuor angulorum paribus intervallis DCCLXXXIII pedes singulorum laterum, altitudo a cacumine ad solum pedes DCCXXV colligit, ambitus cacuminis pedes XVIS.

"The largest pyramid covers an area of nearly 5 acres. Each of the four sides has an equal measurement from corner to corner of 783 feet; the height from ground-level to the pinnacle amounts to 725 feet, while the circumference of the pinnacle is 16 1/2 feet."
(XXXVI, XVII: Eichholz, pp. 62-63)

「最大のピラミッドは、7ユゲラの面積を塞いでいる。その四面の各々の隅から隅までの寸法は、等しく783フィート、地面から尖頂までの高さは725フィート、一方尖頂の周りは16フィート半である。」
(「プリニウスの博物誌」、第3巻、p. 1469)

と言っているのですが、ここで言う「フィート」は古代ローマの尺度であり、ピラミッドの一辺が"DCCLXXXIII pedes"と書いていますけれども、ローマ尺の1フィート(ペデス)を29.5センチメートル(0.295メートル)と考えるならば、換算値で231メートル弱となり、これはかなり良い数値であるように思われます。
紀元後1世紀の記述で、今から2000年ほど前の文。何を汲み取ることができるのか、それが試されています。

2010年9月8日水曜日

Malacrino 2010 (English ed.)


ほとんど全ページにカラー図版が用いられており、大変見やすく、限られた分量の中で古代ギリシアと古代ローマにおける建造技術をうまく纏めています。石造建築に限らず、土を用いた構法についても触れている点は重要。土木に関連した遺構についても、いくらかページを割いています。
西洋の古典古代建築に興味を持っている方が最初に購入する入門書としては、お勧めの一冊かもしれない。5000円ほどでしたから、決して高くはありません。内容は充実しています。

Carmelo G. Malacrino,
translation in English by Jay Hyams,
Constructing the Ancient World:
Architectural Techniques of the Greeks and Romans

(First published in Italy in 2009 by Arsenale-Editrice, Verona, "Ingegneria dei Greci e dei Romani".
English ed., The J. Paul Getty Museum, Los Angeles, 2010)
216 p.

Contents:

Introduction (p. 4)
Natural Building Materials: Stone and Marble (p. 7)
Clay and Terracotta (p. 41)
Lime, Mortar, and Plaster (p. 61)
Construction Techniques in the Greek World (p. 77)
Construction Techniques in the Roman World (p. 111)
Engineering and Techniques at the Work Site (p. 139)
Ancient Hydraulics: Between Technology and Engineering (p. 155)
Heating Systems and Baths (p. 175)
Roads, Bridges, and Tunnels (p. 187)

Glossary (p. 208)
Bibliography (p. 210)
Index (p. 213)

ただ専門家が重宝するかというと問題があって、この本に掲載されている図版では原典の引用がことごとく省かれています。イタリア語で書かれたという原著にはそれらが記載されているのかどうか、未見ですので詳細が分からないのですが、先行研究の図版をもとにして新たに描き直したらしきものが多々うかがわれ、OrlandosKorresAdamなどの著書をもとにしているなということが、一見して明瞭な描画が含まれます。
当方も経験があるけれど、図を描き直したら著作権に気を遣う必要はない、というのは大きな間違いで、原典はやはり明記すべきと思われます。こうした点の配慮は欲しかったところ。高名なゲッティから出ている本ですので、信用する人は多いはず。

紙幅がないことを勘案するならば、参考文献のリストはよく纏まっているように思われます。
ただKorresの名前が見当たらないようですが、同じゲッティから出ている本だし、まあいいや、ということなのかもしれません。Coultonについては著書が取り上げられず、論文がたった1本だけしか載っていなくて可哀想。Hellmann 2002, 2006は記載。Rockwell 1993も載っています。
リストにはWilson Jones 2000が体裁上、加えられているけれども、今回取り上げたこの本には古代の設計方法については一切述べておらず、それ故にCoultonの代表作も落ちているのかも。構法、つまり建物の造り方に限定して書かれているとみなすべきです。

ならば、建造前の、いろいろと問題が沸き上がって矛盾が錯綜し、それをどう整理するのかという、建築で一番面白くてわくわくする設計・計画に関するところが抜け落ちているのではないのか、という反問も当然ながら予想されるように感じるのですが。
こういうことを熱望するのはしかし、少数意見となり、残念な点です。

2010年7月4日日曜日

Herz and Waelkens (eds.) 1988


古代における大理石の用法を扱った国際学術会議の報告書。古代ローマの石切場、また石の輸出入に関する研究はワード・パーキンスによって本格的に開始されましたが、その遺志を継承しての国際会議。ワード・パーキンスについては、Dodge and Ward-Perkins (eds.) 1992などを参照。
岩石学、経済学、技術史学、考古学、建築学など、多岐にわたる学際的な内容です。

Norman Herz and Marc Waelkens (eds.),
Classical Marble:
Geochemistry, Technology, Trade.

Proceedings of the NATO Advanced Research Workshop on Marble in Ancient Greece and Rome:
Geology, Quarries, Commerce, Artifacts.
Il Ciocco, Lucca, Italy, May 9-13, 1988.
NATO Advanced Science Institutes (ASI), Series E
(Applied Science), Vol. 153
(Kluwer Academic Publishers, Dordrecht, 1988)
xvi, 482 p.

大理石は古代ローマや古代ギリシアにおいて好んで使われた石材で、これを専門的に研究する特殊な学会もあります。

ASMOSIA
(Association for the Study of Marble and Other Stones used In Antiquity)

というのがそれで、同じ石材を前にしながらも、立場が違うとこんなにも見るところが異なるのだという点が面白い。論考の多くは古代社会の経済に関わる研究と、採掘技法や労働組織についての注視、また科学分析を通じての時代・地域の同定、そういうことになります。
これらの論考をまとめて見据えようという難しいことをやっているのが共同編集者のHerzとWaelkensで、ふたりともこの分野では第一人者です。

このような本を手にすると、大理石という石の魅力が未だ強く放たれているという事実を思い知らされます。透過性があり、柔らかく、艶やかさを有するという独特の素材。
透き通る人間の肌と似た質感がある唯一の石と言ってよく、石膏製の模像と実物の大理石像との違いは大きい。

エジプト学が、ここにどういうかたちで関係するかはしかし、微妙です。もっと相互の論議がなされてもいい。

2010年1月18日月曜日

Croom 2007


古代ローマにおける家具の研究書。ポンペイやエルコラーノ(ヘラクレネウム)などの遺跡から見つかっている家具についてはMols 1999のところで触れましたが、ローマの家具全体を概観した本と言うことになると、類書がないように思われます。
著者はイギリスの地方にある博物館の学芸員で、自分の勤務先に展示してある古代ローマの家具もカラー写真で公開。合計で100点に近い図版が用いられています。

Alexandra T. Croom,
Roman Furniture
(Tempus, Stroud, 2007)
192 p.

Contents:
List of figures (p. 7)
List of colour plates (p. 11)
List of tables (p. 13)
Acknowledgements (p. 14)
1. Introduction (p. 15)
2. The materials used in furniture (p. 19)
3. Beds and couches (p. 32)
4. Dining-couches (p. 46)
5. Soft furnishings for beds and couches (p. 56)
6. Dining-, serving- and display-tables (p. 68)
7. Desks and work-tables (p. 89)
8. Stools and benches (p. 97)
9. Chairs (p. 116)
10. Cupboards and shrines (p. 124)
11. Chests and boxes (p. 138)
12. Curtains and floor coverings (p. 144)
13. Furniture in use: farms and the poor (p. 150)
14. Furniture in use: multiple room houses (p. 155)
15. Furniture in use: the rich (p. 168)
16. Furniture in use: non-domestic furniture (p. 172)
17. Conclusion (p. 183)
Glossary (p. 184)
Bibliography (p. 186)
Index (p. 189)

目次を見ると、第12章ではカーテンや床の敷物までが扱われており、これが家具の範疇に入るのかと訝しく思われるのですけれども、イントロダクションではローマ法(ユスティニアヌス法典)における家具の定義がまず引用されていて、

"According to Roman law, 'furniture' consisted of: 'any apparatus belonging to the head of the household consisting of articles intended for everyday use which do not fall into any other category, as, for instance, Stores, Silver, Closing, Ornaments, or Apparatus of the land or the house' (Edicts of Justinian, 33.7; Watson 1985). In greater detail, these are identified as: 'tables, table legs, three-legged Delphic tables, benches, stool, beds (including those inlaid with silver), mattresses, coverlets, slippers, water jugs, basins, wash-basins, cendelabra, lamps and bowls. Likewise, common bronze vessels, that is ones which are not specially attributed to one place. Moreover, bookcases and cupboards. But there are those who rightly hold that bookcases and cupboards, if they are intended to contain books, clothing or utensils, are not included in furniture, because these objects themselves ... do not go with the apparatus of furniture' (ibid., 33.2)."
(p. 15)

と紹介されており、現在の考え方とちょっとずれているところが面白い。スリッパや、水壺、ランプなども家具と言われると、かなりの違和感。

CIL(Corpus Inscriptionum Latinarum)、あるいはSHA(Scriptores Historiae Augustae)など、ラテン語諸文献との摺り合わせに工夫がうかがわれ、これも注目される点です。Loeb Classical Libraryの刊行シリーズを前提とした記述。
エジプト学だと、Janssen 2009などでおこなわれている仕事で、実際にあった物品と、記述として残されているものとの対応関係を探る試みは、実はあまり多くありません。

2010年1月6日水曜日

Taylor 2003


ローマの建築に関する本というのは多数あって、エジプト建築の場合とは大きく違うところです。
要領よくローマ建築の建造過程が纏められた本で、ペーパーバックも出ています。

Rabun M. Taylor,
Roman Builders:
A Study in Architectural Process

(Cambridge University Press, Cambridge, 2003)
xvi, 303 p.

Contents:

List of Illustration (p. ix)
Acknowledgments (p. xv)
Introduction (p. 1)
1 Planning and Design (p. 21)
2 Laying the Groundwork (p. 59)
3 Walls, Piers, and Columns (p. 92)
4 Complex Armatures (p. 133)
5 Roofing and Vaulting (p. 174)
6 Decoration and Finishing (p. 212)
Notes (p. 257)
Glossary (p. 275)
References (p. 281)
Index (p. 293)

建築にまつわる雑多な作業を、だいたい6つに収斂させ、解説。
150枚の図版を収め、代表的な、見逃せないローマ時代の建築を追っている点が特徴。パンテオンの屋根がどうなっているかはヴィオレ=ル=デュクがすでに19世紀の終わりに考察していますが、その構築過程を改めて考え、新たに図を描き起こしていたりします。カラカラ帝の公共浴場、バールベックの巨大な神殿やコロセウムなどを中心とした図版も豊富。

これらの図版の扱いがいささか小さくなってしまっているのが難点で、たとえばポン・デュ・ガールの水道橋の石の組積で「右」、「左」、「中央」の略号と数字が刻まれているさま(p. 181, Fig. 100)は、掲載された写真でははっきりと視認できません。

J.-P. アダムの本、"Roman Building"(Adam 2007, 5e éd.)から、いくらか図が引用されていますし、クレンカーの図も同様に引かれています(Krencker und Zschietzschmann 1938などを参照)。18世紀の版画家、ピラネージの図解までもある。
建築技術の本というのは子供向けの絵本ととても似たところがあり、寿命を延ばそうと思ったら絵の描き方と枚数に気をつかわなければならないということを再度、思わせます。

序文で面白いと思わせる下りがあり、

"To him I owe the awakenings of my interest in structural design; and while my interest is that of an engaged amateur, he gave me reason to believe, when others would not, that the two cultures of science and humanities can be assimilated in interesting and refreshing ways." (p. xvi)

と記されています。ここには著者の飾らない気持ちと、広く世界を見渡そうとする意欲との両方がうまくあらわされています。

2010年1月5日火曜日

Krencker und Zschietzschmann 1938


「シリアのローマ神殿」という題の本。実際にはシリアとレバノンとの間に拡がるベカー高原を中心として、点々と両国のあちこちに残っている古代ローマ時代の神殿、その他の遺構を報告しています。
バールベックはそのベカー高原の中心に建てられたとてつもない大神殿で、もちろん別扱いとなり、この本では扱われません。バールベックに関する建築資料を補足するために書かれた2巻本。

テキスト編に収められている説明図は400枚を超えており、筆者たちの力量を伝えています。復原図も適宜作成されており、この作業量はすごい。建築調査は大変であったはず。

Daniel Krencker und Willy Zschietzschmann,
Römische Tempel in Syrien.
Archäologisches Institut des Deutschen Reiches,
Denkmäler antiker Architektur, Band 5.
2 Bände. (Text und Tafeln)
(Walter de Gruyter, Berlin, 1938)
xxv, 297 p. + vii, 118 Tafeln

図版編の最後の2枚の図面集は、縮尺を揃えて各遺構の平面図を並べて見せており、こういう提示の仕方をしないといけないんだと反省させられます。比較的大きなもの3つの基壇の規模はほとんど同じであるようにうかがわれ、規格のようなものが存在していたのではないかという点を疑わせます。

小さい建物を扱う場合のメリットというのは、少人数の隊でもじっくりと調べることができるという点で、ここでも随所に挿入された詳細図や写真から、足早に駆け回ったであろう調査の合間に、よく見ることがなされた跡を看取できます。エジプト様式を持つ大きな祭壇も報告されていて、大いに興味が惹かれるところ。

小神殿などを扱う書籍ですが、古代ローマ建築の豊饒さの片鱗がここでも明瞭に伝わる内容です。
冒頭にはO. PuchsteinB. Schulzへの追悼献辞があり、この2名はバールベックの報告書の執筆を、Krenckerとともに進めた人たち。古代エジプトのカルナック大神殿の報告書を出すような企画ですから、その苦労は並大抵ではなかったと思われます。
日本で喩えて言うならば、奈良六大寺大観の建築報告書を書く、そういうことに相当するでしょうか。

ドイツ隊による調査の成果を、後年になって纏め、出版した経緯が序文で書かれていますけれども、この過程の途中には第一次世界大戦を挟んでおり、ドイツ人研究者たちによる粘り強い姿勢を垣間見ることができます。
なお、1978年には再版も出版されました。

イタリア人研究者のL. クレマも古代ローマ建築に関する分厚い本をいくらか遅れて書いており、当然のことながら、この2巻本に目を通していることが分かります。この人の本(Crema 1959)もすごい。
D. クレンカーの名前は、Schiaparelli 1927でも出てきます。

2009年12月15日火曜日

Adam 2007 (5e éd.)


古代ローマ時代の建造技術について、詳細をまとめた専門書。もともとはフランス語で書かれ、現在は第5版を重ねており、一方、英訳されたものは第2版をもとに出版されています。
700点以上の図版を収めており、古代ローマ建築の技術に関する基本図書という位置づけ。Lugli 1957Crema 1959などが類書として知られていますが、現在では双方とも入手が難しく、特に後者はほとんど市場に出ることがありません。

Jean-Pierre Adam,
La construction romaine:
Matériaux et techniques.

Grands Manuels Picard
(Picard, Paris, 2007, 5e édition. 1re édition: 1984. 2e édition: 1989. 3e édition: 1995. 4e édition: 2005)
368 p.

[English ed.:
Jean-Pierre Adam,
translated by Anthony Mathews,
Roman Building: Materials & Techniques
(B. T. Batsford, London, 1994)
360 p.]

Table des matières:

Introduction (p. 7)
1. La topographie (p. 9)
2. Les matériaux de construction (p. 23)
3. Le grand appareil (p. 111)
4. Les structures mixtes (p. 129)
5. Le petit appareil (p. 137)
6. Les arcs, les voûtes (p. 173)
7. La charpente (p. 213)
8. Les revêtements (p. 235)
9. Les sols (p. 251)
10. Les programmes techniques (p. 257)
11. L'architecture domestique et artisanale (p. 317)

Lexique illustré de modénature courante (p. 355)
Bibliographie (p. 360)
Index (p. 367)

建物の造り方といっても、計画方法については述べておらず、このトピックについてはWilson Jones 2000に委ねられることになります。石造だけでなく、混構造や煉瓦、また木造架構や瓦などに関しても概要を記述。ローマ時代の木工についてはUlrich 2007が唯一、まとまった情報を伝えており、重要。
なお、ローマ建築全般については、同じピカール社から

Pierre Gros,
L'architecture romaine.
Vol. I: Les monuments public
(Picard, Paris, 1996)
Vol. II: Maisons, villas, palais et tombeaux
(Picard, Paris, 1999)

が出ており、第2版も出されています。

Adamは古代ギリシア建築に関する本を著している他、Christiane Zieglerとの共著でピラミッドの本も出版しており、時代・地域を横断して古代の建造技術を語ることができる数少ない研究者のひとり。

2009年12月14日月曜日

Roueche and Smith (eds.) 1996


トルコの山中に位置する古代ローマ遺跡アフロディシアスの仮報告書の3冊目。広大な敷地に数多くの施設を有する都市遺構で、外周壁はおよそ1キロメートル四方に及びます。

Charlotte Roueche and R. R. R. Smith (eds.),
Aphrodisias Papers 3:
The setting and quarries, mythological and other sculptural decoration, architectural development, Portico of Tiberius, and Tetrapyron.
Including the papers given at the Fourth International Aphrodisias Colloquium, held at King's College, London on 14 March, 1992.
Journal of Roman Archaeology (JRA), Supplementary Series no. 20
(Journal of Roman Archaeology, Ann Arbor, 1996)
224 p.

本の全体は3つに分けられており、

Part I: Recent Work at Aphrodisias
Part II: The Setting and Development of the City
Part III: Aspects of Decoration

遺跡を都市として見ていることが、この目次でもはっきり打ち出されています。副題が示すように、さまざまな視点からの考察と報告がおこなわれているのが了解されます。これまで主流であった個々の建築、あるいは彫刻作品の美術史的考察は二義的なものとして退かされ、代わりに都市の成長や諸外国との交易、特に小アジア地域におけるこの遺跡の位置づけなどが多角的に検討されているのが特色。

石切場の調査報告が寄せられているのは興味深い。執筆者はPeter Rockwellで、この人は彫刻家でもあり、石造建築技術に関わる研究者の間では知られた人。石を実際に扱う人なので、独自の観点が提示されているのが見どころです。
技法が中心ですけれども、他に石材の搬出のルートも分析しています。石切場を4つのタイプに分類しているのは注目され、通常は露天掘りとトンネル掘り、つまりオープン・タイプとギャラリー・タイプに2分されるだけなのが普通ですが、検討してみる価値のある記述です。

劇場について発表をおこなっているTheodorescuの論文も建築の視点からは重要(pp. 127-148)。この論文はフランス語で書かれていますが、最後の2編の論文はドイツ語で執筆されており、このように3ヶ国語ないし4ヶ国語で一冊の本が書かれると言うことは決して珍しくありません。日本人にとっては辛いところです。ローマの遺跡だったら、さらにラテン語やギリシア語なども出てきます。
2008年には続巻の第4号が出ていますけれども、未見。

アメリカから出版されているJRAは古代ローマを扱う雑誌で、未だ若い雑誌ながら、重要な刊行物のひとつ。
多くのSupplementary Seriesを出版しています。

2009年12月7日月曜日

Hobson 2009


何と、古代ローマにおけるトイレの専門書です。巻末に地名の索引が用意されているように、西はイギリスから東はシリアまで、また北アフリカのチュニジア・リビアにおける都市遺跡のトイレの類例も集めています。大理石の便座が用意され、下には水を流すための溝が設けられている公衆便所の有様、また簡単に作られた一人用のトイレの様子が良く分かります。
最も数多く資料が集められているのはしかし、やはりポンペイで、豊富な写真によって紹介がおこなわれています。

Barry Hobson,
Latrinae et Foricae:
Toilets in the Roman World

(Duckworth, London, 2009)
x, 190 p., 142 text figures.

Contents:
Acknowledgements (vii)
Preface (ix)

1. Toilets in the Roman world: an introduction (p. 1)
2. Roman Britain (p. 33)
3. Pompeii (p. 45)
4. Chronology of toilets (p. 61)
5. Upstairs toilets (p. 71)
6. Privacy (p. 79)
7. Rubbish and its disposal (p. 89)
8. Dirt, smell and culture (p. 105)
9. Water supply, usage and disposal (p. 117)
10. Who used these toilets? (p. 133)
11. Motions, maladies and medicine (p. 147)
12. Who cares about latrines? (p. 155)
13. Future research? (p. 165)

Glossary (p. 173)
Bibliography (p. 177)
Index of Places (p. 187)

序文は、

"Why, you may ask, a book on Roman toilets?"

という書き出しから始められており、また最終章の題は「これからの研究?」と疑問符付きです。どうも変な研究対象であるという点は、著者自身が最も良く承知しているということ。
集められた写真は著者自身が各国の遺跡を回って撮りためたもので、例えばリビアのレプティス・マグナで見られる男女別のトイレについては、

"The huge bath house, dedicated to the Emperor Hadrian, has two large latrines (Figs. 39 & 40), one allegedly for women which is slightly smaller than the one for the men. Each has a central peristyle with a colonnade, within which are seats in rows down three of the four sides. The side opposite the entrances in the men's latrine is 16 m long and the other two sides are over 13 m, giving a seating capacity of about forty-eight persons. The diameter of each hole is only 15.5 cm and they are between 60 and 65 cm apart. The seating is marble, 8 cm thick." (pp. 26-28)

と、観察が非常に細かい。間仕切りもないところに、ほとんど隣の人と触れ合う距離で座ったのでは。
著者が自分で実際に現場を見に行って、あちこち測ったことは明らかです。誰もまだこのように詳しく書いたことがないので、この部分の記述については一切の註がありません。イタリア隊がこの大規模な都市遺跡レプティス・マグナを発掘したわけですが、これを指揮したGiacomo Caputoなどによる文献は巻末の参考文献にまったく掲載されていません。オランダの研究者Gemma C. M. Jansenの論考、ローマ都市における水を扱った2002年の博士論文などを核として、対象を各地にまで拡げたように思われます。

「この主題を述べるに当たって、差し障りがあるかもしれない用語を避けることは難しい」などと、序文で前もって書いています。トイレを扱う以上、これは仕方のないこと。特に、

"Scatological words occur occasionally, mostly when quoting other authors' translations" (p. ix)

とあって、これはラテン語による文献や落書きを引用した本書の後半部分が相当します。実地調査とともに、文献調査ももちろんおこなっているわけで、ここが大変重要。
読んで一番面白いのはここであるといっても良く、ポンペイで発見されている注意書き、

Stercorari ad murum progredere si pre(n)sus fueris poena(m) patiare neces(s)e est, cave

If you shit against the walls and we catch you, you will be punished (CIL IV.7038)
(p. 144)

などは、今の日本でもたぶん見られるはず。いつになっても事情は変わらないし、不埒な者はどこにでもいるようです。
別の書きつけ、

Quodam quisem testis eris quid senserim ubi cacatuiero veniam cacatum

Someday indeed you will learn how I feel. When you begin to shit I will shit on you (CIL IV.5242)
(p. 145)

では、注意書きを記した人の、わなわなと震えている怒りのほどが伝わってきて、この人に同情したくなります。
古代エジプトでも便座と言われているものが遺物として残されており、機会があったら実測してみようか、と思ったりしました。
20世紀末からトイレ研究は進展を見せているようです。「トイレ考古学」、あるいは「環境考古学」をキーワードとして検索されると良いのでは。

||||||||||||||||||||

2014年7月4日、追加:

Hobsonは500ページ以上のポンペイのトイレ写真集も出版しています。BARのシリーズ。

Barry Hobson,
Pompeii, Latrines and Down Pipes: A General Discussion and Photographic Record of Toilet Facilities in Pompeii.
BAR International Series 2041.
Oxford, Archaeopress, 2009.

2009年9月3日木曜日

HiP (Häuser in Pompeji) 1984-


ポンペイの家々を一軒ずつ紹介するという、ドイツ考古学研究所(DAI)によるとてつもない企画のシリーズ本。高さが50cmもある大判の書籍で、光沢のある赤い布張りの立派な装丁です。古代ローマの住居建築を探る上では必読書。参考文献リストでは基本書として頻繁に挙げられます。

第1巻のみ、建築界では良く知られているヴァスムート社から出版されましたが、2巻目以後はミュンヘンが出版地です。25年を費やして、現在までようやく12冊が出ました。
住居のひと部屋ずつ、丁寧に記録がおこなわれており、建築調査に関わる者の手本となる内容。組積など構法上の留意点の他、計画寸法に関する考察もなされていて、注目されるところ。図版多数。最新刊の第12巻に至っては、何と図版が800点以上。壁画や床のモザイク画については、もちろん多数のカラー写真で撮影されています。
近年刊行されるものは厚くなる傾向にあって、その分、非常に高価。個人ではなかなか購入できません。一度は見ておく価値がある、本格的な建築報告書。
10〜12巻については未見のため、書誌はいくらか曖昧です。


Volker Michael Strocka (Herausgegeben von),
Häuser in Pompeji.
Deutsches Archäologisches Institut (DAI)
(Band 1: Verlag Ernst Wasmuth, Tübingen, 1984/Band 2-: Hirmer Verlag, München, 1988-)
http://www.dainst.org/index_37f33b66bb1f14a132480017f0000011_de.html


Volker Michael Strocka,
Photographien von Peter Grunwald, Wandgraphiken von Pavlos Pagagialias,
Band 1: Casa del Principe di Napoli (VI 15, 7.8).
(Verlag Ernst Wasmuth, Tübingen, 1984)
53 p., 168 Abbildungsverzeichnis.

Wolfgang Ehrhardt,
Photographien von Peter Grunwald und Wilhelm Gut, Wandgraphiken von Wulfhild Aulmann,
Band 2: Casa dell'Orso (VII 2, 44-46).
(Hirmer Verlag, München, 1988)
84 p., 254 Abbildungsverzeichnis.

Dorothea Michel,
Photographien von Peter Grunwald und Wilhelm Gut. Graphische Dokumentation von Michael Sohn,
Band 3: Casa dei Cei (I 6, 15).
(Hirmer Verlag, München, 1990)
95 p., 299 Abbildungsverzeichnis.

Volker Michael Strocka,
mit einem Beitrag von C. L. J. Peterse. Photographien von Peter Grunwald. Graphische Dokumentation von Pavlos Pagagialias,
Band 4: Casa del Labirinto (VI 11, 8-10).
(Hirmer Verlag, München, 1991)
143 p., 482 Abbildungsverzeichnis.

Florian Seiler,
Photographien von Peter Grunwald und Wilhelm Gut. Wandgraphiken von Heide Diederichs und Judith Sellers,
Band 5: Casa degli Amorini dorati (VI 16, 7.38).
(Hirmer Verlag, München, 1992)
149 p., 631 Abbildungsverzeichnis.

Klaus Stemmer,
Photographien von Peter Grunwald und Johannes Kramer. Graphische Dokumentation von Pavlos Pagagialias, Michael Sohn und Wulfhild Aulmann,
Band 6: Casa dell'Ara massima (VI 16, 15-17).
(Hirmer Verlag, München, 1992)
67 p., 258 Abbildungsverzeichnis.

Margareta Gierow,
Photographien von Peter Grunwald, Jill Crossley und Johannes Kramer, Wandgraphiken von Wulfhild Aulmann,
Band 7: Casa del Granduca (VII 4, 56) und Casa dei Capitelli figurati (VII 4, 57).
(Hirmer Verlag, München, 1994)
84 p., 221 Abbildungsverzeichnis.

Thomas Fröhlich,
Photographien von Peter Grunwald, Wandgraphiken von Wulfhild Aulmann und Regina Brendel,
Band 8: Casa della Fontana piccola (VI 8, 23.24).
(Hirmer Verlag, München, 1996)
123 p., 477 Abbildungsverzeichnis.

Wolfgang Ehrhardt,
Photographien von Peter Grunwald, Wilhelm Gut, Johannes Kramer, Graphiken von Wulfhild Aulmann,
Band 9: Casa di Paquius Proculus (I 7, 1.20).
(Hirmer Verlag, München, 1998)
172 p., 487 Abbildungsverzeichnis.

Margareta Staub Gierow,
Photographien von Peter Grunwald, Wandgraphiken von Wulfhild Aulmann,
Band 10: Casa della Parete nera. Casa della Forme di creta (VII 4, 58-60/VII 4, 61-63).
(Hirmer Verlag, München, 2000)
116 p., 356 Abbildungsverzeichnis.

Penelope M. Allison und Frank B. Sear,
Plaster analyses by Peter Grave and Reinhard Meyer-Graft, Photographien von Jill Crossley, Wilhelm Gut und Johannes Kramer. Wandgraphiken von Judith Sellers. Architekturzeichnungen von Zig Kapelis,
Band 11: Casa della Caccia antica (VII 4, 48).
(Hirmer Verlag, München, 2002)
104 p., 271 Abbildungsverzeichnis.

Wolfgang Ehrhardt,
Photographien von Peter Grunwald und Johannes Kramer. Wandgraphiken von Wulfhild Aulmann, Lisa Bauer, Michael Sohn. Architekturzeichnungen von Athanassios Tsingas,
Band 12: Casa delle Nozze d'argento (V 2, 1).
(Hirmer Verlag, München, 2005)
284 p., 823 Abbildungsverzeichnis.

住居名に続くカッコ内の記号は、住居番号を示します。
日本国内で、どの大学図書館がどの巻を収蔵しているかは、前にも記したように、

NACSIS Webcat: 総合目録データベースWWW検索サービス
http://webcat.nii.ac.jp/

のページで"Häuser in Pompeji"を検索すると、簡単に調べることができ、便利。

2009年8月28日金曜日

Crema 1959


古代ローマ建築を包括的に扱った書で、きわめて充実した内容を示しています。G. ルッリの有名な本、Lugli 1957に2年遅れて出版されていますが、建造技法に関して良く纏められています。

Luigi Crema,
L'architettura romana.
Enciclopedia Classica, Sezione III:
Archeologia e storia dell'arte classica, volume XII.
Archeologia (Arte romana)
(Società Editrice Internazionale, Torino, 1959)
xxiii, 688 p.

古代ローマ建築の研究書は充実しているという点を、こういう本を見るたびに改めて感じ入ります。
ローマ建築全般をできるだけ広く扱おうとしている本で、この傾向もまた非常に珍しい。たいていの本はローマ帝国の本拠があった中心都市ローマの建築を扱うことにとどめられるのですが、ここでは北アフリカやレヴァント、小アジアなど、諸地域の遺構にもきめ細かく目が配られています。こういうところは、Lugliの本には見られません。
しかしこのような広域を網羅しようとするには膨大な作業が強いられ、今日ではもう、この改訂版を望むことは無理かもしれません。

図版は小さいながらも、驚くべきことに844点も収められています。
絶版を迎えて久しく、入手はほとんど困難な本ですが、再版の刊行が強く望まれます。
エジプト学で言うと、Vandierのマニュアルと同じような位置を占めている本。
ひとりでこういう内容のものをどうやって書くことができるのか、いつも不思議に思い、胸を打たれます。

Lugli 1957


古代ローマ建築の技法を述べた書として重宝な本。分厚い2冊から構成されています。ローマ建築の建造技術についてはJ.-P. アダムが近年、仏語版と英語版で良い本を出していますが、この伊語版も重要。
考古学者はこの伊語の本を引用することが少なくありません。

Giuseppe Lugli,
La technica edilizia romana, con particolare riguardo a Roma e Lazio, 2 vols.
(Presso Giovanni Bardi Editore, Roma, 1957)
Vol. I: Testo, 743 p.
Vol. II: Tavole, 210 tavole + 19 p.

再版も出ています。
文章編で700ページを超え、これに写真図版編がつきます。
古代ローマ建築がどのように計画され、建造されたかについては、すでに紀元前1世紀の建築家ウィトルウィウスがラテン語で「建築書」を書き残しており、これが世界最古の建築書となります。ウィトルウィウスの本は日本語訳も出ているほど、見逃せない基本史料。

こうした歴史もあって、古代ローマ建築についてはかなり古くから、技法の研究がおこなわれてきました。エジプトなど他の地域における石造建築の技法を考える場合でも、必ずといって良いほど古代ローマ建築が参照されるのはこのためです。古代ローマ建築の技法に関しては、一番研究が進んでいます。

しかし出版後、50年以上が経っており、改訂すべき点が出てきているのは事実です。建材の積み方でおおよその時代が判別できるという見方には異議も唱えられ始めています。
けれども文章編の中の図版も充実しており、今なおその生命を終えていません。
同じく伊語で書かれたCrema 1959とともに、研究者必携の書に挙げられます。

2009年8月7日金曜日

Vanhove 1996


エーゲ海に浮かぶギリシアのエウボエア島を舞台とする調査で、複数の石切場と、それらを結ぶ運搬路が対象。Bessacによるフランスの石切場の報告書と同じ1996年に出されています(Bessac 1996)。比較して見ると面白い。

Doris Vanhove,
with contributions by A. De Wulf, P. De Paepe and L. Moens,
Roman Marble Quarries in Southern Euboea and the Associated Road Systems.
Monumenta Graeca et Romana (MGR), VIII
(E. J. Brill, Leiden, 1996)
x, 53 p., 128 illustrations, 2 maps.

Contents:
Foreword, vii
Introduction, ix
1. Topographical Survey (A. De Wulf), p. 1
2. Archaeological Description (Doris Vanhove), p. 16
A. Styra: Haghios Nikolaos and Krio Nero, p. 16
B. Pyrgari, p. 22
C. Styra and Pyrgari: General Conclusions, p. 33
3. Oxygen and Carbon Isotopic Data and Petrology of Cipolino from Styra and Karystos (Euboea, Greece) and their Archaeological Significance (L. Moens, P. De Paepe & K. Vandeputte), p. 45
List of Figures, p. 51

Korresによるペンテリコンの石切場に関する報告書が参考文献に挙げられており(Korres 1995)、この本が石切場を報告する者たちに大きな影響を与えていることが分かります。図版が多めに収められているのも、Korresの本(画集)をお手本にしているから。

全体の分量は、さほど多くはありません。
第1章は島の山中で地形測量をしなければならなかったあらましと、測量方法、精度などを報告しています。巻末に折り込みとして挿入されている2枚の図面が測量作業の成果。テクニカルな測量作業の話を長く書くのは異例だと思われます。
第2章が考古学的記述の部分で、各々の石切場と運搬路を詳述。
第3章は科学分析の報告に充てられており、主に産出される大理石の分析。同じ島内であるにも関わらず、場所によって性質が異なることが指摘されています。

モノクロの写真は不鮮明なものが含まれ、惜しまれるところ。
主執筆者の手による図もたどたどしい部分があって、もう少し詳しい平面図を見たかった。未完成の円柱など、技法の説明は主として写真に頼っています。
チポリーノ大理石の主たる産出場所であった島の調査報告で、運搬路も重要視されている点が見どころ。

2009年8月6日木曜日

Bessac 1996


古代の建造物を造るに際し、石材を調達するための石切場が重要となりますが、その研究については未だ、あまり進んでいないと考えていいと思います。現場に行っても、文字が残っていない場合がきわめて多いですし、石を切り出した痕跡が拡がるだけの場所を、どのように記録したらいいのかの目安もつきにくい。
古代ローマに関してはしかし、ワード・パーキンズが大理石の加工方法や運搬や交易など、話題を拡張して手本を見せ、以後は何人かが集中して研究をおこなっています。

Bessacのこの本は、古代から中世に渡って使われ続けたフランスの石切場の調査報告で、これだけ詳しいものも珍しい。
Korresによる古代ギリシアの石切場ペンテリコンの重要な報告書については、すでに触れました(Korres 1995)。それと並ぶ基本文献。

Jean-Claude Bessac,
avec la collaboration de M.-R. Aucher, A. Blanc, P. Blanc, J. Chevalier, R. Bonnaud, J. Desse, J.-L. Fiches, P. Rocheteau, L. Schneider et F. Souq,
La pierre en gaule narbonnaise et les carrieres du bois des Lens (Nimes):
histoire, archeologie, ethnographie et techniques
.
JRA Supplementary Series 16
(Journal of Roman Archaeology (JRA), Ann Arbor, 1996)
334 p.

200枚近くに及ぶ図版によって、丁寧に石材の加工方法、切り出し順序、運搬、単位寸法などの考察が説明されています。フランスでは良質の石材が産出し、その利点は、この国のあちこちに建立された大聖堂で見ることができます。イギリスでは、こうはいきません。
普通なら見落としがちな、石を切り離すための楔の方向などから、石を採取した順番を想定するなど、参考となる考え方が示されており、貴重。

図版はすべてモノクロです。スケッチと呼ぶべき、比較的簡単な図が並んでいますが、石に残っている加工の痕跡を観察し、道具の刃先を復原しているところなどはさすがです。発掘調査によって得られた出土遺物の報告は、飛ばして読んで構わないかと思います。自分の知識で及ばないところは専門家を呼んで書かせ、補っており、無理をしていません。石材の加工風景が豊富に掲載されていますけれども、多くは著者が別の人に描かせたもの。それでいいと思います。
Bessac編と紹介されている場合もあるようですが、これは間違いなく、Bessacの本です。考え方が統一しています。

石切場という、良くわからない場所を見て何を明らかにすべきか。どういう情報がそこから引き出せるのか。そうした点が明示されている本で、これからの石切場調査における指針が示されている報告書。
文字資料が見つかる石切場では、文字の読解に引きずられる場合が多々あって、気持ちは分かりますけれども、本来の仕事、すなわち、不定形のかたちが散らばるだけの場所で、何をどう見るかが一番、重要となります。そこが面白いところ。
巻末の参考文献も充実しています。

2009年7月28日火曜日

Lancaster 2005


ローマ時代にコンクリートのヴォールト天井がどのように造られたかを詳細に記した本。図版が豊富で、自分で撮影した写真に点線や矢印などを入れて説明をおこなっており、非常に分かりやすい。遺跡のどこをどう見ればいいのか、参考になります。
近代建築の巨匠である建築家ルイス・カーンの文を巻頭に引用しています。

Lynne C. Lancaster,
Concrete Vaulted Construction in Imperial Rome:
Innovations in Context

(Cambridge University Press, Cambridge, 2005)
xxii, 274 p.

Contents:
Preface, xix
1 Introduction, p. 1
2 Centering and Formwork, p. 22
3 Ingredients: Mortar and Caementa, p. 51
4 Amphoras in Vaults, p. 68
5 Vaulting Ribs, p. 86
6 Metal Clamps and Tie Bars, p. 113
7 Vault Behavior and Buttressing, p. 130
8 Structural Analysis: History and Case Studies, p. 149
9 Innovations in Context, p. 166

Appendix 1. Catalogue of Major Monuments, p. 183
Appendix 2. Catalogues of Building Techniques, p. 205
Appendix 3. Scoria Analysis, p. 222
Appendix 4. Thrust Line Analysis, p. 225

序文を読むと、ケンブリッジ大学のクールトンに指導を受けたと書いてあります。Coultonは古代ギリシア建築に関する碩学(Coulton 1977)。他に教えを受けたという学者たちも良く知られた人たちで、建築ゼミの様子など、充実した教育環境が良く了解されます。こういう世界は羨ましい。

基礎部分やヴォールト天井に埋め込まれた大きなアンフォラ壺に関してまとまった情報を提供しており、興味深い。荷重を軽減するため、あるいは地下の水に対する処置の工夫が記述されています。
構造に関しても、かなりの分量を割いて説明しており、建築家・考古学者としての知識を存分に発揮している書。同じように建築家・考古学者として活躍しているJ.-P. Adam(Adam 1984)やM. Wilson Jones(Wilson Jones 2000)の著作を意識して、誰がどこまで書いているかを念頭に、これまで書かれていない点を入念に論述しています。
ローマのヴォールトと言えば、その到達点となるのはパンテオン。そのパンテオンに至るまでのさまざまな技術が通覧されます。最後には社会的背景にも触れられます。

4つのアペンディックスを見ると、Wilson Jonesの本の影響を感じます。
Appendix 1は、主な遺構に関するコメントを付しており、どこが見どころなのかを説明。
建造技術を扱ったカタログのAppendix 2では、"personal observation"の欄が並んでおり、面白い。全部、自分で観察して特徴を見つけたリスト。
ペーパーバックの再版も出ており、良く読まれていることが知られます。
建築報告書として、見習うべき点が多い。

2009年5月29日金曜日

Caputo 1959


リビアの世界遺産であるサブラタの劇場に関する報告書。「サブラタの劇場とアフリカの劇場建築」という題の本。
G. カプートの著作の中でもっとも参照されているもののうちの一冊ながら、実のところはなかなか見ることが困難な本でしたけれども、古代ローマ時代の劇場建築を網羅したSear 2006が刊行され、事情が変わりました。
少々長くなりますが、参考までに目次の抜粋を掲載。

Giacomo Caputo,
Il teatro di Sabratha e l'architettura teatrale africana.
Monografie di Archeologia Libica, Vol. VI
(L'ERMA di Bretschneider, Roma, 1959)
90 p., 93 tavole.

Indice generale della materia:
Premessa (p. 5)
Avvertenza (p. 6)

Parte Prima: Il teatro di Sabratha
Ubicazione e struttura (p. 9)
La facciata (p. 11)
La cavea (p. 13)
I rilievi del pulpito (p. 15)
L'iposcenio (p. 23)
La scena (p. 26)
Il triportico dietro la scena ed i saloni (p. 28)
Il complesso architettonico (p. 29)
Aggiunta epigrafica (p. 32)
L'opera di restauro (p. 33)
L'ultima fase dell'opera (p. 36)
Documentazione e saggi grafici (p. 38)
Il problema statico (p. 39)
Appendice (p. 43)

Parte Seconda: L'architettura teatrale africana
Il teatro antico e l'Africa (p. 49)
I teatri romani in Marocco, Algeria, Tunisia, Tripolitania (p. 50)
Morfologia fondamentale (p. 56)
Intermezzo (p. 61)
Le peculiarità dei teatri della Cirenaica (p. 65)

Note (p. 71)
Indice descrittivo delle tavole e figure (p. 83)
Indice descrittivo delle tavole e dei graffici (p. 87)
Tavole (p. 91)

全体は2つに分けられます。
第1部はサブラタの劇場を扱っており、第2部においては北アフリカにおける類例を挙げ、比較を試みていますが、記述は比較的簡素。
同じ著者によるレプティス・マグナの劇場については、予告よりもかなり遅れ、

Giacomo Caputo,
Il teatro augusteo di Leptis Magna: Scavo e restauro (1937-1951).
Monografie di Archeologia Libica III
(L'ERMA di Bretschneider, Roma, 1987)
148 p., 188 tavole, XXXIX tavole

として出版されています。チュニジアのモザイクなどについても、彼は報告書を刊行。
Monografie di Archeologia Libicaは、リビアの古代建築を知る上で欠かせないシリーズ。今も刊行され続けています。

2009年4月28日火曜日

Ulrich 2007


古代ローマ時代の木工を集成し、考察を加えた本。ポンペイとヘラクレネウム、オスティアは住居遺構が残っていることで有名ですが、そこでうかがわれる木材の用法についての調査結果を踏まえています。

Roger B. Ulrich,
Roman Woodworking
(Yale University Press, New Haven and London, 2007)
xiii, 376 pp.

古代ローマ建築での木材の使用は、断片的にはこれまで触れられてきましたが、煉瓦造と石造が主流であるため,どちらかというと脇に追いやられていた感がありました。Adamによるローマ建築の本でも、木造についてはほんの少しだけしか記述されていません。
木工が包括的に扱われたのはおそらく初めてで、書評でも記されている通り、古代ローマの木工に関する基本文献となるでしょう。

ローマ時代の鉋の写真を、この本で初めて見ました。家具や船についても対象に含めています。
日本建築における仕口や継手の複雑さは良く知られていますが、ほとんど同じことがおこなわれている点に驚きます。特に船の竜骨で使われたという継手(p. 68, Fig. 4.9)は素晴らしい。
木を建材として扱う場合に考慮されるのは,部材同士がずれないこと,できるだけお互いの接触面積を増やすこと,経年変化による変形に対処することなどですけれども、それらに応じたずれ止めや反り止めが工夫されています。

モノクロの図版が豊富に収録されている他、巻末の用語集が60ページ以上もあります。車輪を述べた章、また当時のイタリアにおける樹種の分布について書かれている章もあって面白い。

しかし,実際にポンペイやヘラクレネウム(エルコラーノ)に行かれた方はお分かりでしょうが、このふたつの町は火山の噴火による熱い火砕流で埋まったわけですから,木材が残っていると言っても、丸焦げの炭が見られるだけ。これらの炭の痕を丹念に調べ、架構や扉,窓の復原がおこなわれています。

10年以上の調査をもとに書かれたと序文では述べられています。10年ほどでこれを纏めることができたというのは、でも著者の能力の高さがそこに示されていると見るべき。

2009年4月25日土曜日

Ginouves (et Martin) 1985-1998


古代ギリシア・ローマ建築に関する大系的な事典で、3巻本です。13年をかけて完結しました。フランス・アテネ学院とフランス・ローマ学院との共同作業で、さらにはそこにCNRS(フランス国立科学研究センター)も加わっていますから、フランスの研究者たちの知恵の結集と考えても良いかもしれません。

Rene Ginouves et Roland Martin,
Dictionnaire methodique de l'architecture grecque et romaine, I:
Materiaux, techniques de construction, techniques et formes du decor
(Ecole Francaise d'Athenes, Ecole Francaise de Rome, Athenes/Rome, 1985)
viii, 307 p., 65 planches.

Rene Ginouves,
Dictionnaire methodique de l'architecture grecque et romaine, II: Elements constructifs:
Supports, couvertures, amenagements interieurs

(Ecole Francaise d'Athenes, Ecole Francaise de Rome, Athenes/Rome, 1992)
viii, 352 p., 90 planches.

Rene Ginouves,
Dictionnaire methodique de l'architecture grecque et romaine, III:
Espaces architecturaux, bâtiments et ensembles
(Ecole Francaise d'Athenes, Ecole Francaise de Rome, Athenes/Rome, 1998)
ix, 357 p., 115 planches.

古代ギリシア建築の重鎮、R. マルタンは第1巻目だけに参加しています。
その第1巻目では例えば、文章編のほぼ3分の1が索引に充てられていて、フランス語索引、ドイツ語索引、英語索引、イタリア語索引、現代ギリシア語索引、古代ギリシア語索引、そしてラテン語索引と入念に構成されています。

J.-P. Adam, La construction romaine: materiaux et techniques (Paris, 1984)とその英訳本がすでに出ていますし、またM.-Ch. Hellmann, L'architecture grcque (Paris, 2002-)のシリーズも刊行中であるため、これらでほとんどの用は足りるかもしれませんが、多国語の検索ができる点は有用で、あまり類書がありません。

図版が多く所収されていることは重要です。石材の紹介のページなどではカラー写真も使われています。図版の作成は大変だったでしょうが、その多くを描いているのは上述のアダムであることが図版リストから了解されます。
J.-Cl. ゴルヴァンもまた図の作成に関わっており、この人は古代エジプト建築のさまざまな復原図を描いていることで有名。
古典古代建築の研究がどこまで進んでいるかが良く分かる図書で面白い。

2009年3月25日水曜日

Waddell 2008


ローマのパンテオンに関する集大成。建築について調べると言うことがどういう作業を指すのか、良く分かります。30年間にもわたってこの建物を訪れ、調べ続けたらしく、情報量は圧倒的。どうやら建物中の部屋をくまなく見ているらしい雰囲気で、屋根にも登っています。
パンテオンについてこれほど詳しい本が出たのは、おそらく最初です。

著者はチャールストン大学のアーキヴィスト。史料の収集に関してはプロです。
ただM. ウィルソン・ジョーンズへの謝辞があり、建物の痕跡をどう解釈するかについては彼の助言が相当大きかったことが示唆されます。建築家であり、建築史家でもあるウィルソン・ジョーンズの主著、Principles of Roman Architecture (New Haven, 2000)の最後のふたつの章はパンテオンの謎について記されたものですから、その決着がどのように書かれるのかが、注目されるひとつの点。

Gene Waddell,
Creating the Pantheon:
Design, Materials, and Construction.
Bibliotheca Archaeologica, 42
(L'Erma di Bretschneider, Roma, 2008)
428 p. including 240 illustrations.
ISBN 978-88-8265-493-1

Contents:
Part I: Introduction
1. Preliminary Considerations
2. Major Advances in Knowledge

Part II: Roman Design and Construction
3. Standard Design Procedures
4. Concrete Construction
5. General Sources of Design
6. Specific Sources of Design and Construction

Part III: Preliminary Design Phase
7. The Site
8. Structural Design

Part IV: Concrete Construction
9. Lower Drum and Block
10. Upper Drum and Block
11. Dome

Part V: Embellishment
12. Comparisons of the Orders
13. The Porticoes
14. Finishing
Conclusions

ローマのパンテオンは、最も有名な観光の名所のうちのひとつですが、列柱玄関部(ポルティコ)の不自然さについてはかなり昔から討議されていました。何故こんなに不格好なのかということが長年、建築の関係者の間では話題となっていたわけです。
歴史上の有名な建物は、すべて完璧にまで美しい作品だから広く世に知られているのだろうと考えると、大きく間違えます。パンテオンはその典型で、建物全体から見るとひどく見劣りがする列柱玄関は、最初はなかったのではないかとも考えられたりしました。
この本では、もっと高い列柱玄関が計画されたのであろうが、基礎への負担を軽減するため、低く抑えられたのではないかと結論しています。

建築の報告書として読むことを考えるならば、あまりにも淡々として語られ過ぎているという印象が与えられ、新たに作成された説明図が見たかったという思いが残ります。テキストと図版をすっぱりと分け、文中には一切、図や写真がないのも特徴。建築家がもしこの本を纏めるとしたら、どのように異なったかを想像するのも面白い。

イタリアで出版された本であるため、多少入手しにくい側面があります。Amazonなどでは検索で出てこないかもしれないところが問題点です。
パンテオンに関する近刊の書が序文にて予告されており、こういう知らせも貴重。