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2017年7月26日水曜日

Killen 2017


Killenはリヴァプール大学で博士号を2012年に取得しました。
意外なことに、タイトルには「家具 Furniture」が含まれず、もっと広い用語の「木工 Woodworking」が使われています。
博士号もエジプト学ではなく、歴史学の分野で博士号を取得したようです。
謝辞の最初には、イアン・ショーの名が掲げられています。

Geoffrey Patrick Killen
Ramesside Woodworking, 2 vols.
Liverpool University, Dissertation, 2012

検索するならば、博士論文の2巻本は入手が可能です。
この博士論文を踏まえた刊行物が、今回紹介する以下の本です。


Geoffrey Killen
Ancient Egyptian Furniture, Vol. III. Ramesside Furniture
Oxford, Oxbow, 2017
xvi, 158 p.

Contents
List of Figures vii
List of Plates ix
Acknowledgements xiii
Abbreviations and Sigla xv

Chapter 1. Deir el-Medhina: A Community of Entrepreneurs? p.1
Chapter 2. An Analysis of Ramesside Furniture Used in Gurob and Memphis p.31
Chapter 3. Remesside Furniture Forms p.43
Chapter 4. Royal and Temple Furniture p.87

Notes p. 99
Appendix A: Remesisde Furniture Types p.103
Appendix B: Furniture Types Illustrated in Ramesside Theba Tombs p.115
Appendix C: Furniture Types Illustrated in Ramesside Memphite Tombs p.137
Appendix D: Distribution of Stool Types by Gender as Illustrated in Private Ramesside Theban Tombs p.141
Appendix E: Distribution List of Replica Wooden Products Manufactured by the Author and Preserved in Museums and Private Collections p.143

Catalogue of Museum Collections p.143
Bibliography p.155


"Abbreviations and Sigla" という章立ては珍しいのですが ,これは♂や♀の記号が文中で用いられているからでしょう。

の方は、古代エジプトの家具に関しては今の時代、第一人者です。
すでにÉgypte, Afrique & Orient 3 (septembre 1996); Killen 1980; Killen 2003などで紹介をしてきました。
この本は、2012年の博士論文の2冊の内容をかなり圧縮して出版されたらしく思われます。

うーん、博士論文と見比べると、もう少し何とかならなかったのかという思いが去来します。
H. G. Fischerの論考に関しては、文献リストの中でLexikon der ÄgyptologyStuhlの項目しか挙げていません。果たしてこれで良いのか? なお、Eaton-Kraussの論考については、3つだけ掲げています。
Killenの博士論文のテーマが「ラメセス期の木工」ですから、仕方がないところもあります。FischerEaton-Krauss両名とも、もっぱら第18王朝の家具に言及していますので。
でも時代が違うからと言って、これまで貴重な意見を述べてきた2人の研究者を蔑ろにして良いのか、という感想が残るわけです。

Killenは古代エジプトの家具に関してたくさん本を出しているのですが、特に中王国時代の椅子の解釈や文献引用の方法に関する大きな誤謬が言語学者のFischerなどによって指摘され、エジプト学の中では何となく信用されなくなっている雰囲気です。だからそれを勘案して修正を施した、これから皆が使える家具に関する本の出版を期待していたのですが、残念です。

世界の美術館・博物館に収蔵されているリストは、既刊のリストで漏れていたものだけを掲載しています。巻末で、8ページにわたってカラー写真を掲載。
何はともあれ、古代エジプト家具を知りたい人にとっては必読書となります。
既刊の第1巻・第2巻とは異なり、ハードカバーの装丁です。

2010年6月16日水曜日

Wright 1962


「訳者あとがき」に記されているように、ベッドはもともと日本にはなかった代物ですので、"lit clos"(造り付けの箱型ベッド)だと言われても、すぐに具体的なかたちを思い起こせる人は少ないかと思われます。例えばディール・アル=マディーナ(デル・エル=メディーナ)の集合住居の報告書ではこのような説明が出てくるわけですが、良く分からないので西洋のベッドの歴史を調べることが必要となります。
ベッドは、機能としては人が横になって寝ることができる家具ですが、さまざまな形式があり、これらを広く紹介しているのがライトの本。

Lawrence Wright,
Warm and Snug, the History of the Bed
(Routledge & Kegan Paul, London, 1962)

邦訳:
ローレンス・ライト著、
別宮貞徳三宅真砂子片柳佐智子八坂ありさ庵地紀子訳、
ベッドの文化史:
寝室・寝具の歴史から眠れぬ夜の過ごしかたまで

(八坂書房、2002年)
527 p., xiv.

一番最初に「クレオパトラのベッド」と題した章が書かれており、古代エジプトの家具についての簡潔な紹介がなされています。一般読者を引き込む書き方は非常に巧く、ベス神にディズニーのキャラクターであるグーフィーを並置してみせたりしていて、全体が読みやすい。
スーダンのベッド('angarib、あるいはangareeb)との類似にも言及しているところはさすがです。この点はエジプト学者のJ. E. Quibellがとても古い報告書の中で指摘をおこなっており、現在ではあまり語られないところ。ベッドを通じて文化史を語っている書で、広範な内容が展開され、魅力的。
この英国人は「風呂トイレ賛歌」(晶文社、1989年)や「暖炉の文化史:火を手なずける知恵と工夫」(八坂書房、2003年)も書いています。建築にまつわる文化史を書くことに能力を発揮した著述家でした。
1983年に亡くなっていますので、近年、「倒壊する巨塔:アルカイダと『9/11』への道」(上下巻、白水社、2009年)がピュリツアー賞と「ニューヨーク・タイムズ」年間最優秀図書を受賞して注目を浴びているローレンス・ライトとは全くの別人。
ベッドを扱う本は多数あって、

Hubert Juin,
Le lit
(Hachette, Paris, 1980)
123 p.

は、古今東西のベッドが出てくる名画や図版を集めている本。244点の図版を掲載。「ハムレット」などの典籍からの引用もあり、楽しめますが、見ようによっては高尚なエロ本だとみなした方が分かりやすい。もちろん、そこが狙われているわけです。
世界的に高名な家具デザイナー・他が出版した「ベッド」という本もあり、

Ole Wanscher, Hans Bendix, Egill Snorrason, Jørgen Kaysøe, Knud Poulsen, Albert Meritz, Grete Jalk,
Sengen / The Bed / Das Bett / Le lit
(Mobilia, Snekkersten, 1969)
(89 p.)

出版社は知られた家具メーカー。デンマーク語・英語・ドイツ語・フランス語の4ヶ国語を併記しています。ページ番号を振っていない本なので、引用が難しいのが困る点です。
エジプト学者の中で、最も初期に古代の家具を体系的に研究しようとしたひとりはおそらく、Caroline Louise Ransom Williams(1872-1952)で、

Caroline Louise Ransom,
Studies in Ancient Furniture:
Couches and Beds of the Greeks, Etruscans and Romans

(University of Chicago Press, Chicago, 1905)
128 p., 29 plates.

がツタンカーメン王の墓が発見される前に出されています。この本は著者の博士論文で、指導教授はブレステッドでした。彼女についてはアメリカにおける最初の本格的な女性エジプト学者として、バーバラ・S. レスコが紹介文を書いており、"Caroline Louise Ransom Williams"で検索すればすぐに出てくるはず。
これまで出版された本のなかで、墓の壁画を詳細に報告している最良の例としては、

Caroline Ransom Williams,
The Decoration of the Tomb of Per-neb:
The Technique and the Color Conventions.

The Metropolitan Museum of Art, Department of Egyptian Art Publications, III
(MMA, New York, 1932)
ix, 99 p., 20 plates.

を屋形禎亮先生が挙げておられましたけれども、今日でも事情は変わらないようです。結婚して姓が変わっていますが、同一人物による著作です。これほど細かく報告している例は稀。
今では無償でダウンロードすることができます。

ペルネブの本は日本のどこの研究機関が所蔵しているのか、今、Webcat Plusで検索すると、東京国立博物館しか出てきません。でも昔、当方が最初にこの本に触れたのは国会図書館で、事実、まだ所蔵されている様子。
また現在では早稲田大学に入っていることも、早大図書館のデータベースを検索すれば了解されます。

Webcatは完全ではないし、情報が最新ではありません。あまり信用せずに、地道に探すことが大切かもしれません。検索では出てこないけど実際には国内に所蔵されていた、なあんていう例はけっこうあります。

2010年1月18日月曜日

Croom 2007


古代ローマにおける家具の研究書。ポンペイやエルコラーノ(ヘラクレネウム)などの遺跡から見つかっている家具についてはMols 1999のところで触れましたが、ローマの家具全体を概観した本と言うことになると、類書がないように思われます。
著者はイギリスの地方にある博物館の学芸員で、自分の勤務先に展示してある古代ローマの家具もカラー写真で公開。合計で100点に近い図版が用いられています。

Alexandra T. Croom,
Roman Furniture
(Tempus, Stroud, 2007)
192 p.

Contents:
List of figures (p. 7)
List of colour plates (p. 11)
List of tables (p. 13)
Acknowledgements (p. 14)
1. Introduction (p. 15)
2. The materials used in furniture (p. 19)
3. Beds and couches (p. 32)
4. Dining-couches (p. 46)
5. Soft furnishings for beds and couches (p. 56)
6. Dining-, serving- and display-tables (p. 68)
7. Desks and work-tables (p. 89)
8. Stools and benches (p. 97)
9. Chairs (p. 116)
10. Cupboards and shrines (p. 124)
11. Chests and boxes (p. 138)
12. Curtains and floor coverings (p. 144)
13. Furniture in use: farms and the poor (p. 150)
14. Furniture in use: multiple room houses (p. 155)
15. Furniture in use: the rich (p. 168)
16. Furniture in use: non-domestic furniture (p. 172)
17. Conclusion (p. 183)
Glossary (p. 184)
Bibliography (p. 186)
Index (p. 189)

目次を見ると、第12章ではカーテンや床の敷物までが扱われており、これが家具の範疇に入るのかと訝しく思われるのですけれども、イントロダクションではローマ法(ユスティニアヌス法典)における家具の定義がまず引用されていて、

"According to Roman law, 'furniture' consisted of: 'any apparatus belonging to the head of the household consisting of articles intended for everyday use which do not fall into any other category, as, for instance, Stores, Silver, Closing, Ornaments, or Apparatus of the land or the house' (Edicts of Justinian, 33.7; Watson 1985). In greater detail, these are identified as: 'tables, table legs, three-legged Delphic tables, benches, stool, beds (including those inlaid with silver), mattresses, coverlets, slippers, water jugs, basins, wash-basins, cendelabra, lamps and bowls. Likewise, common bronze vessels, that is ones which are not specially attributed to one place. Moreover, bookcases and cupboards. But there are those who rightly hold that bookcases and cupboards, if they are intended to contain books, clothing or utensils, are not included in furniture, because these objects themselves ... do not go with the apparatus of furniture' (ibid., 33.2)."
(p. 15)

と紹介されており、現在の考え方とちょっとずれているところが面白い。スリッパや、水壺、ランプなども家具と言われると、かなりの違和感。

CIL(Corpus Inscriptionum Latinarum)、あるいはSHA(Scriptores Historiae Augustae)など、ラテン語諸文献との摺り合わせに工夫がうかがわれ、これも注目される点です。Loeb Classical Libraryの刊行シリーズを前提とした記述。
エジプト学だと、Janssen 2009などでおこなわれている仕事で、実際にあった物品と、記述として残されているものとの対応関係を探る試みは、実はあまり多くありません。

2010年1月8日金曜日

Linley 1996


そのままズバリ、「ヘンな家具」というタイトルがつけられた本です。常識の度を超した大きな家具、えらく緻密な細工が施された家具、またあちこちが可動で、ハシゴや引き出しが隠されていたり、机の天板が広がったりするもの、その他という内容。

David Linley,
Extraordinary Furniture
(Reed International Books, London, 1996)
192 pp.

ほとんどのページでカラー図版が所収されており、中世から現代までの家具の中から、着目されるものを選んでいます。
著者は自分でも家具を作るために、会社まで立ち上げた人間。はっきり言って、長さが20メートルもある会議用のテーブルを手がけたりしている札付きの変人なので、家具の選び方がもう尋常ではなく、図版を見るだけで楽しめます。

「ただただ、好きなだけで資料を集めたので、学問的でも何でもない」という序文の記し方が、著者の姿勢を良くあらわしています。面白いものについては、皆で情報を共有しましょうよという考え方が明らか。

この本は、トランジットで寄ったタイ・バンコクのドンムアン空港内の本屋で見つけたものです。
買おうか、買わないでおこうかと、書店の棚で本を見つけて迷った際、今では事情の許す限り、できるだけ購入することにしています。あの時に無理してでも買っておけば良かったと、あとになって後悔したことがこれまで何度もありますので。
本屋で新しいものを見つけた、その楽しかった時間を後にもう一度繰り返したいという、その想いだけなんですけれども。

自分の仕事に直接は役立つはずもない書籍ですが、珍しい家具がかつて作られ、またそれに注目するごく少数の熱狂的な人たちがいて、さらに本の出版まで考えてしまうような、とっても奇矯な方もいる、そうしたことに改めて感慨を覚える佳作。

2009年7月31日金曜日

Burchell 1991


古代家具の重要な本を出したHollis S. Bakerの家具会社の歩みを辿るとともに、それが同時に世界の家具史を語ることにもなっているという、風変わりな本です。
筆者は家具やインテリアを紹介する一般雑誌の編集を勤めた人。

Sam C. Burchell,
A History of Furniture:
Cerebrating Baker Furniture - 100 Years of Fine Reproductions

(Harry N. Abrams, New York, 1991)
176 p.

Contents:
Introduction, p. 6

The Long Pageant
Early Furniture, p. 18

The Golden Age
England, p. 34
France, p. 50
America, p. 64
The Industrial Revolution, p. 88
Modern Times, p. 108

The Art of Reproduction
The Baker Furniture Company, p. 128
Materials and Techniques, p. 146
The Factory Floor, p. 162
New Directions, p. 168

Bibliography, p. 172
Index, p. 174
Photograph Credits, p. 176

ほぼ各ページに1枚の図版が掲載されており、そのうちの75枚がカラー。
前近代の、機械の普及による手作業の駆逐と、これに抗う過去への憧憬、まったく新しい形態を生み出した近代の家具、並行して造られる様式を伴った家具の話などが、有名人たちを登場させながら語られていきます。

"Social life, clothing fashion, and many other aspects of everyday life are revealed in the decorative arts of any period of history, particularly in the furniture." (p. 14)

"He [=Italian cultural historian Mario Praz] goes on to suggest that "even more than painting or sculpture, perhaps even more than architecture itself, furniture reveals the spirit of an age." (p. 17)

といった表現の仕方が興味深く思われます。
ここでは家具というものの特殊なあり方が言いあらわされようとしており、文化に対する皮膚感覚のようなものが、とても大切に考えられていることが良く理解できます。
建築史と室内装飾史との分岐点であるのかもしれません。ベーカーの一生と、彼の思いを支えた時代背景がつぶさに描かれていて貴重。

2009年5月31日日曜日

Herrmann (ed.) 1996


古代の家具を調べようとするならば、本書は要諦。
20人以上ほどの専門家が集った国際会議の記録で、エジプト・西アジアにおける家具研究がものすごい勢いで並び、類書がまったくありません。
考古学を一般向けに紹介するMinerva誌であったか、この会議の模様が短く報告されているはずです。研究者同士がすぐに打ち解けて、活発な研究発表がおこなわれたらしい。この世界に携わる人はごく少数ですから、当然のこと。

世界中に散らばっていて、それまで長年、孤立しながら研究を続けていた者たちが、ほとんど初めて大規模に集まった会議で、おそらくは恋人とようやく遭遇したような、熱い雰囲気であったと想像されます。
西アジア・エジプトにおける古代家具の研究は、世界でこれぐらいしか人数がいないと言うことです。この事情は、今でも大きく変わっていないと思われます。
400ページを超える、20世紀の末に出版された記念すべき書。古代の木工の詳細に関する貴重な情報が掲載されています。

Georgina Herrmann ed.,
Assistant editor: Neville Parker,
The Furniture of Western Asia : Ancient and Traditional.
Papers of the Conference held at the Institute of Archaeology, University College London, June 28 to 30, 1993
(Philipp von Zavern, Mainz am Rhein, 1996)
xxviii, 301 p., farbigem Frontispiz, 92 Tafeln.

Table of Contents:
Introduction,
by Georgina Herrmann (xix)

Timber trees of Western Asia,
by F. Nigel Hepper (p. 1)

Ancient Egyptian carpentry, its tools and techniques,
by Geoffrey Killen (p. 13)

Architecture and Furniture,
by Michael Roaf (p. 21)

Domestic furniture in Iraq, ancient and traditional,
by Lamia al Gailani Werr (p. 29)

The earliest evidence from Mesopotamia,
by Harriet Crawford (p. 33)

Middle Bronze Age furniture from Jericho and Baghouz,
by Peter J. Parr (p. 41)

Furniture in the West Semitic Texts,
by T. C. Mitchell (p. 49)

Le Mobilier d'Ougarit (d'aprés les travaux récents),
by Annie Caubet et Marguerite Yon (p. 61)

Cypriote furniture and its representations from the Chalcolithic to the Cypro-Archaic,
by Maro Theodossiadou (p. 73)

Furniture in the Aegean Bronze Age,
by O. H. Krzyszkowska (p. 85)

Mycenaean Footstools,
by Yannis Sakellarakis (p. 105)

Hittite and Neo-Hittite furniture,
by Dorit Symington (p. 111)

The influence of Egypt on Western Asiatic furniture, and evidence from Phoenicia,
by Eric Gubel (p. 139)

Ivory furniture pieces from Nimrud: North Syrian evidence for regional traditions of furniture manufacture,
by Georgina Herrmann (p. 153)

Assyrian furniture: The archaeological evidence,
by John Curtis (p. 167)

Urartian furniture,
by Ursula Seidl (p. 181)

Pyrygian furniture from Gordion,
by Elizabeth Simpson (p. 187)

Furniture in Elam,
by Ann C. Gunter (p. 211)

Neubabylonische Möbel und das Sitzen auf dem Bett,
by Peter Calmeyer (p. 219)

Achaimenidische Möbel und "kussu sa sarrute",
by Peter Calmeyer (p. 223)

Parthian and Sasanian furniture,
by Vesta Sarkhosh Curtis (p. 233)

Furniture in Islam,
by J. M. Rogers (p. 245)

Concluding remarks,
by Roger Moorey (p. 253)

The Authors (p. 259)
Bibliography (p. 265)

長々と目次を掲げたのは、内容を逐一示すためです。題名において一部、特殊記号を省略。
網羅されている時代と地域に、特に御注目ください。
ただ圧倒されるばかりです。15年以上経っていますが、これに比肩すべき会合は一切開催されていないはず。

会議の最後にまとめとしての"Concluding remarks"をしゃべる役目となったMooreyは、惜しくも亡くなりましたが、適任。語りの冒頭では当該分野の先蹤者としてH. BakerO. Wanscherの2名の家具職人を挙げ、讃えています。
このMooreyという人は、古代西アジア研究の分野できわめて高名な人。

P. R. S. Moorey,
Ancient Mesopotamian Materials and Industries:
The Archaeological Evidence

(Clarendon Press, Oxford, 1994)
xxiii, 414 p.

を書いた研究者で、この本も類書が見当たりません。古代技術の解明に努力した、恐るべき博学の人でした。

しっかりとした造本で、265-301ページに纏められた長大な参考文献リストはきわめて重要。これだけ古代の家具に関する著作を集めたリストは、現在でも稀有です。

2009年5月30日土曜日

Baker 1966


古代家具に関する教科書で、基本中の基本。出版以来、40年以上経ちますが、類書がありません。偉大な書です。
こうした本に対し、ラテン語で"opus magnum"という書き方がされる場合があり、傑出した本に贈られる言葉。字義は「偉大な達成」というほどの意味。

Hollis S. Baker,
with an introduction by Sir Gordon Russell,
Furniture in the Ancient World:
Origins and Evolution 3100-475 B.C.

(The Connoisseur, London, 1966)
351 p.

Contents:
Part I: Egypt (p. 17)
Part II: The Near East (p. 157)
Part III: The Aegean (p. 233)
Appendix (p. 291)
(以下略)

著者は家具職人で、作ることを熟知しているからこその記述があって、そこが見どころです。
これだけの情報を、良くもまあ集めたと感心します。
写真図版が多数。ほとんどがモノクロですが、カラー写真も数ページ、含まれています。

この本、人に貸したら戻ってこないと言うことが何回かあって、3回ぐらい買い直しているのですが、家具に興味のある人にとっては必携。日本でも家具史の本は何冊も出ていますけれども、この本の受け売りである場合が大半です。

付章では仕口の図解があり、これも非常に重要。
"Measured Drawings"も巻末に収められており、Killenがこの点に関しては近年、精力的に情報を改訂しています。

Bakerの会社は未だ存続しており、

http://baker.kohlerinteriors.com/baker/1_0_0_baker_home.jsp


を見るならば、古代エジプトの家具を復原して販売していることが分かります。
"stool"を検索してみてください。

2009年4月1日水曜日

Wanscher 1980


格式を備えた折り畳み椅子を世界中から探し出した奇書。古代家具の研究書としてはH. S. Bakerの本とともに必ず挙げられるといっても良い非常に有名な本で、類書がまったくありません。
「家具 オーレ・ワンシャー」のふたつの単語で検索するならば「北欧家具デザイン界の巨匠」と出てくるはずですから、著者についてここで詳しく述べることは不要です。
題名の"sella"はラテン語で「椅子」のこと、また"curulis"は"currus"(chariot)から派生したらしい。古代ローマの皇帝が座る、背もたれのないX脚を持つ折り畳み椅子がこの名で呼ばれました。

Ole Wanscher,
Sella Curulis:
The Folding Stool, An Ancient Symbol of Dignity

(Rosenkilde and Bagger, Copenhagen ,1980)
350 p.

Contents:
Preface (p. 6)
I. Egypt (p. 9)
II. Ancient Near East (p. 69)
III. Nordic Bronze Age (p. 75)
IV. Cretan - Mycenaean (p. 83)
V. Greek (p. 86)
VI. Etruscan (p. 105)
VII. Sella Curulis (p. 121)
VIII. Faldestoel - Faldisrorium (p. 191)
IX. Pliant (p. 263)
X. China - Japan (p. 279)

1935年に、彼が建築専門雑誌へ折り畳み椅子の遺物について書いたことが契機となったと序文には見られますから、実に45年をかけて調べ上げ、書いた本と言うことになります。彼は1903年生まれですから、77歳の時に出版した書。日本で言えば喜寿に相当する年齢。

4000年以上にわたって世界で使われ続けた折り畳み椅子を、時代順に追っていきます。背もたれがなく、脚が交差し、折り畳むことができるこのタイプの椅子は、移動に便利な簡単な造りによるものでしたが、同時に権力の象徴でもありました。古代エジプトにおいても、ツタンカーメンの折り畳み椅子が知られています。第1章で、かなりの分量を割きながらエジプトの家具の例をまず紹介しています。第7章の、古代ローマにおける皇帝の椅子の記述も長い。その後、中世では高位僧職者の椅子として登場します。

一番最後の章では中国と日本における折り畳み椅子が扱われ、中国では2世紀に、すでに文字記録にあらわれるとのこと。古代ローマとの接触が疑われています。ここでも中国の皇帝が座る椅子。
日本の「床几(しょうぎ)」が出てくるのは、かなり本の後ろの方です。年月を費やして地球を巡り、東の果てへと辿り着きます。映画監督が座るディレクターズ・チェアとして、今なお最後の格式を保っている形式かもしれません。

家具設計者の視点から記された文面も多数散見され、興味深い。
掲載されている線描の図版はたいへん繊細で、著者の入念な配慮がしのばれます。

2009年3月14日土曜日

Rivers and Umney 2003


家具の修復に関する手引き書。
家具では木材の他に、皮革や布・紐・金属・貝・骨・象牙・石など、多様な材料が組み合わされる場合が少なくありません。
さらには塗装や彩画が施され、複雑さの度が格段に増します。ここに家具の特殊性があり、面白さが感じられるところです。

いくつかの家具には、動きも加えられます。移動のための車輪、開閉できる扉、収納のための引き出し、家具自体の折りたたみ機構など。
複雑に組み合わされた機械とよく似た面を、家具というものは持っていて、多くの建築家が家具の設計に惹きつけられるのは、たぶんそうした魅力を備えているからだと思われます。

家具という存在はまた、建築の延長上に考えることができ、座ったり、寝そべったり、人間が日常でじかに接触する特別な建築の部位としての意味も持っています。構造的な強度を考えなければならない他に、素材の暖かさや柔らかさも勘案しなければなりません。

Shayne Rivers and Nick Umney,
Conservation of Furniture.
Butterworth-Heinemann Series in Conservation and Museology
(Elsevier, Butterworth-Heinemann, Oxford, 2003)
xxxiii, 803 pp.

800ページを超える大著で、木を巡る章では経年変化に伴う収縮率、構造力学の公式、使用する有機物の化学式など、ページをめくる度に、現在の復原修復作業に関わってくる必要な事項が次々とあらわれ出てきます。
数学と化学の基礎知識が、今日の保存修復においては必要であることを改めて痛感する本。

153ページ以降、あるいは753ページ以降では、

「日本すること」(Japanning)、
「日本された家具」(Japanned furniture),

なんていう書き方をしている箇所もありました。
これは「漆塗り」のことで、堅牢な塗膜を形成するこの技法が、世界に広くすでに知られていることを示しています。

2008年12月26日金曜日

Mols 1999


ヘラクレネウムで見つかった家具の報告書ですが、古代エジプトの木工家具にも言及している文献。
家具史に関わるエジプト学者は、実は世界で数名いるに過ぎません。H. S. Baker ベーカーによる古代の家具に関する重要な著作(Baker 1966)が出された後、G. Killen キレンは何冊かの本を出しています(Killen 1980; Killen 2003; Herrmann ed. 1996)が、既往研究を充分に引用していないなどの不手際のため、エジプト学者の間ではあまり信用されていない傾向が見られます。ベーカーもキレンもともに家具職人であって、作り手から見た家具の研究をおこなっています。
一方、エジプト学者の中で家具に興味を抱いている人間としてはH. G. Fischer フィッシャー(cf. Égypte, Afrique & Orient 3 [1996])やM. Eaton-Krauss イートン=クラウスたちが挙げられます(cf. Eaton-Krauss 2008)。フィッシャーは惜しくも数年前に亡くなりました。アメリカのメトロポリタン美術館に所属していた、風変わりな文献学者で、面白い内容の著作をいくつも書きました。建物の扉に関して述べている論文なども残しています。晩年に詩集を出している才人。

Stephan T. A. M. Mols,
Wooden Furniture in Herculaneum: Form, Technique and Function.
Circumvesviana, vol. 2
(J. C. Gieben Publisher, Amsterdam, 1999)
321 p., 201 pls.

古代ローマの家具を扱うこの本が何故注目されるかと言えば、文献への目配りを充分におこない、古代エジプト家具についての素晴らしい短い要約が書かれているからです。W. Helck and E. Otto (eds.), Lexikon der Ägyptologie(cf. LÄ 1975-1992)における「家具」の項目における記述に負けていません。
図版20も注目されます。ものすごく古い報告書、

W. M. Flinders Petrie and Ernest MacKay,
Heliopolis, Kafr Ammar and Shurafa
(London, 1915)

のpls. 24-25を参照したと注記してありますが、実際に両者を見比べたら、まったく違うことに驚かされます。この図版は木工における仕口の図解なのですが、改変して立体的に描写されており、古代の家具に関し、エジプト、ギリシア、そしてローマ時代を通底して、木材加工の変遷を見据えようとする著者の努力が明瞭に伺われます。

家具史の教科書というのは古代エジプトから語り始められますけれども、実は他の地域では出土例が少ないわけで、エジプトはこの点、独壇場です。たくさんの家具が出土しており、また王の家具から労働者の家具まで見つかっているという点で、古代世界においては他に例を見ません。家具の形式を見るならば、その持ち主の社会的な地位を推定することができるほど、エジプト学では家具の出土例が多く見受けられます。
でもそれ故に、客観視できない部分があるのではないかと、本書を読む時には反省を強いられます。

エレファンティネの報告書で明らかなように、第3王朝における建物の天井の梁材を復原する考察もありますが、古代エジプトにおいて、木材がどのように加工されて用いられたのか、その全体像を見ようとするエジプト学の研究者は、未だあらわれていないように見受けられます。
他方、建築から家具に至る分野の横断と、新たな領域の開拓はもしかしたら、日本人にしかできないかも、と期待される部分があります。エジプト学はすでに分野が細分化されており、一方で日本の木材加工の歴史に関する資料は近年、増えているからです。

古代ローマ時代の家具については、新刊が出されています。

Ernesto De Carolis,
Il mobile a Pompei ed Ercolano: Letti tavoli sedie e armadi.
Studia Archaeologica 151
(L'Erma di Bretschneider, Roma, 2007)
260 p.

巻末の30ページにわたる家具の復原図版はCGを用い、モノクロながら興味が惹かれます。