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2011年5月28日土曜日

Shaw 2009 (revised ed. of 1973)


以前にも取り上げましたけれども、クノッソス、ファイストス、マリア、ザクロスといった有名なクレタ島の宮殿の遺構を中心としたミノア建築に関する建造技術がまとめられた本で、ハードカバーの改訂版が出されました。画期的な書です。
この本の初版に関しては、Shaw 1973を参照。
80ページ以上、増補されています。目次を以下に記します。

Joseph W. Shaw,
Minoan Architecture: Materials and Techniques.
Studi di Archeologia Cretese VII
(Padova: Centro di Archeologia Cretese, Università di Catania / Bottega d'Erasmo, Aldo Ausilio Editore, 2009.
First published in 1973, Roma: Istituto Poligraphico dello Stato, 1973, 256 p.)
337 p.

Contents

Introduction (p. 13)

Chapter 1. Stone (p. 17)
A) Building Stone (p. 17)
B) Quarrying and the Transportation of Stone (p. 28)
C) Tools for Building (p. 38)
D) Masonry (p. 54)
E) Special Uses of Cut Stone (p. 79)

Chapter 2. Wood and Timber (p. 91)
A) Types of Evidence for, and Chief Structural Uses of Wood in Architecture (p. 91)
B) Wooden Clamps and Dowels (p. 108)

Chapter 3. Sun-dried Mud Brick and Terracotta (p. 127)
A) Sun-dried Mud Brick (p. 127)
B) Terracotta (p. 135)

Chapter 4. Lime and Clay Plasters (p. 141)
A) Composition and Early Uses (p. 141)
B) Later Uses of Lime Plaster and its Preparation (p. 144)
C) Floors (p. 147)
D) Ceilings and Upper Floors (p. 152)
E) Roofs and Parapets (p. 153)
F) Calcestruzzo (p. 155)

Chapter 5. Conspectus and Beyond (p. 157)
A) Development and Change (p. 157)
B) The Builders (p. 166)
C) Diffusion: Minoan Architectural Styles Abroad (p. 169)

Appendixes (p. 179)
A) Metal Used in Building (p. 179)
B) Column Bases: Stone Types and Sites (p. 180)
C) Column Bases with Mortises (p. 181)
D) Dimensions of Mud Bricks (p. 183)
E) Terracotta Pipes, Channels, and Catch-Basins (p. 189)
F) Analyses of Plasters (p. 193)

Abbreviations (p. 195)
Bibliography (p. 199)
Guide to site plans (p. 227)
Illustration credits (p. 229)
List of Text Tables (p. 229)
List of Illustrations (p. 231)
Illustrations (p. 241)
Index (p. 313)

書評:Bryn Mawr Classical Review (by Quentin Letesson, in August 2010)
http://bmcr.brynmawr.edu/2010/2010-08-48.html

図版(271 figs.)が多く収められているのは見どころのひとつですが、各図は小さく扱われており、この点がとても残念。
ただし紙質は旧版より良くなっているため、図版は鮮明です。
"Mason's marks"について網羅はしていません。この方面については、別に探索することが求められます。

2010年9月13日月曜日

Shaw 1973


エジプト学においてShawというと、イギリスの研究者であるイアン・ショーのことを誰しもが連想するかと思いますが、クノッソスやマリア、ファイストス、あるいはザクロスといった宮殿に代表される、クレタ島を中心として展開されたミノア文明に関わる研究者たちにとっては、まずジョセフ・ショーとマリア・ショーの夫妻の名が思い浮かぶかと思われます。
本書はミノア建築の建造方法に関して記している珍しい著作。海外の古書リストで見かけることも少なくなり、入手は非常に難しくなってきている状態。
グレーの目立たない表紙を持つソフトカバーの本。類書がほとんどありません。

Joseph W. Shaw,
Minoan Architecture: Materials and Technology.
Annuario della Scuola Archeologica di Atene e delle Missioni Italiane in Oriente, Vol. XLIX, nuova serie XXXIII
(Istituto Poligraphico dello Stato, Roma, 1973)
256 p.

ショー夫妻はクレタ島におけるコモスの発掘で有名。島の南側で発見された港湾都市で、5巻からなる報告書がすでに刊行されています。
記念建造物を扱う5巻目に至っては1200ページを超えており、真っ赤な装丁を施されたこの報告書の中でも特に際立っています。彩色壁画片が出土していて、その意味でも注目される巻。
前述の本の出版は1973年で、コモスの発掘によって得られた、新たな知見を反映している改訂版が出ることが望まれるところです。

Joseph W. Shaw and Maria C. Shaw eds.,
Kommos I: The Kommos Region and Houses of the Minoan Town.
Part 1, The Kommos Region, Economy, and Minoan Industries
(Princeton University Press, Princeton, 1995)
xxxvii, 809 p.

Joseph W. Shaw and Maria C. Shaw eds.,
Kommos I: The Kommos Region and Houses of the Minoan Town.
Part 2, The Minoan Hilltop and Hillside Houses
(Princeton University Press, Princeton, 1996)
xxvii, 713 p., 10 fold-out plans.

Philip P. Betancourt, Joseph W. Shaw and Maria C. Shaw eds.,
Kommos II: The Final Neolithic through Middle Minoan III Pottery
(Princeton University Press, Princeton, 1990)
xv, 262 p., 70 figures, 104 plates.

Livingston Vance Watrous, Joseph W. Shaw and Maria C. Shaw eds.,
Kommos III: The Late Bronze Age Pottery
(Princeton University Press, Princeton, 1992)
xviii, 238 p., 76 figures, 58 plates.

Joseph W. Shaw and Maria C. Shaw eds.,
Kommos IV: The Greek Sanctuary.
Part 1, Text
(Princeton University Press, Princeton, 2000)
xvi, 813 p.

Joseph W. Shaw and Maria C. Shaw eds.,
Kommos IV: The Greek Sanctuary.
Part 2, Plates
(Princeton University Press, Princeton, 2000)
xix, 199+15+43+76+65+13+1+18 plates, 6 fold-out plans.

Joseph W. Shaw and Maria C. Shaw eds.,
Kommos V: The Monumental Minoan Buildings at Kommos
(Princeton University Press, Princeton, 2006)
xli, 1222 p., 5 fold-out plans.

第5巻目が出版された同じ年には、この都市の概要を分かりやすく紹介した本がアテネから出されているようですが、未見。

Joseph W. Shaw,
Kommos: A Minoan Harbour Town and Greek Sanctuary in Southern Crete
(American School of Classical Studies at Athens, Athens, 2006)
171 p., 77 illustrations.

古代エーゲの建物については、

Thomas Nörling,
Altägäische Architekturbilder.
Archaeologica Heidelbergergensia, Band 2
(Philipp von Zabern, Mainz am Rhein, 1995)
xvii, 95 p., 18+VII Tafeln,

が出ています。
時代が降ったミケーネ文明における建物については、

Michael Küpper,
Mykenische Architektur:
Material, Bearbeitungstechnik, Konstruktion und Erscheinungsbild
, 2 Bände (Text und Beilagen).
Internationale Archäologie, Band 25
(Marie Leidorf, Espelkamp, 1996)
xi, 330 p. +28 Beilagen.

の2巻本が刊行されています。

--- 追記 ---:
Shaw 1973の改訂増補版はすでに2009年に出ていました。
書評は

http://bmcr.brynmawr.edu/2010/2010-08-48.html

で見ることができます。
(2010年12月31日)

2010年9月12日日曜日

Corinth XX (Williams II and Bookidis eds.) 2003


コリントス(コリント)は古くから栄えていたポリスのひとつで、古代ローマ時代の建物が多く残っているものの、その下を掘れば古代ギリシアの遺構に突き当たります。古代ギリシアにおいて最重要と考えられる都市遺跡のうちのひとつ。
アメリカ隊は19世紀の終わりからこの地を調査し始め、何冊もの報告書を刊行してきました。この事業はまだ続けられており、その最新号に当たるのが第20巻。調査が100年を迎えたことを記念する厚い一冊。
報告書全巻のリストは、

http://www.ascsa.edu.gr/index.php/publications/browse-by-series/corinth

にて閲覧できます。本書のp. iiにも提示。
日本のどこにこれらの本が所蔵されているかは、かつては見つけるのが非常に難しかったように思うのですが、電子化されてJSTORのCollection VIIに組み入れられ、事情が劇的に変わりました。サイバー大学の学生は自由にアクセスすることができるはずです。
建物に触れている第1巻は6分冊となっており、全部を一挙に読むのは大変ですけど、初期のギリシア神殿について言及されていますし、一度は見ておきたい報告書。
石材に溝を掘って綱を回したらしい珍しい痕跡は、こことイスミアで報告がなされています。

Charles Kaufman Williams and Nancy Bookidis eds.,
Corinth: Results of Excavations Conducted by the American School of Classical Studies at Athens, Volume XX.
Corinth, the Centenary 1896-1996
(The American School of Classical Studies at Athens, Princeton, N.J., 2003)
xxviii, 475 p.

これまでの40冊近くに及ぶ報告書のレジュメが掲載されているような内容。20ページ以上を割き、複数のインデックスも巻末に付されていますが、全巻を網羅するものではありません。
Bietak (Hrsg.) 2001の中で、「コリントスの石切場に関しては原稿が準備されている」という記述が書かれていますけれども、この本の第2章のことを指しており、

Chris L. Hayward,
"Geology of Corinth: The Study of a Basic Resource",
pp. 15-40.

において石切場が詳述されています。

調査の100周年を迎えての記念刊行物ということであれば、クノッソス宮殿について纏められたPanagiotaki 1999がそうだったし、これからもこの種の刊行が増えていくのでは。
報告書が営々と出版されていく例で、エジプト学の中でこれに匹敵するものを探すならば、エレファンティネにおける調査報告ぐらいしか思い当たらず、

Christian Ubertini,
Elephantine XXXIV:
Restitution architecturale à partir des blocs et fragments épars d'époque ptolémaique et romaine.
Archäologische Veröffentlichungen des Deutschen Archäologischen Instituts, Abteilung Kairo, Band 120
(Philipp von Zabern, Mainz am Rhein, 2005)
87 p., 38 plates.

が近年、出ています。

2010年9月11日土曜日

Peschlow-Bindokat 1990


太宰治の名作「走れメロス」では親友の石工セリヌンティウスという者が登場し、最後にはメロスと音を立ててお互いに殴り合います。互いをどこまで深く信じていたのかについて決着をつける行為。
セリヌンティウスと呼ばれるこの男、

「今は此のシラクスの市で、石工をしている」

と小説の冒頭には説明があって、太宰の短編小説の舞台がイタリアのシチリア島(シシリー島)であることを改めて知るわけですが、その石工の名前(Selinuntius)は「セリヌント(セリヌンテ)の人」という意味。「シラクス」、「シラクーザ」あるいは「シラクサ」は、シチリア島における中心都市の名です。「セリヌント」はこの島の地方の名。

イタリア領の島のひとつであるシチリアには昔、古代ギリシア人たちの植民都市が築かれたので、古い形式の神殿が今でもいくつか残っています。石造建築に深い興味を抱く人ならば、シチリアに残るセジェステ(セジェスタ)の神殿が多くの専門書で繰り返し取り扱われていることを御存知のはず。古代ギリシア建築の構法を扱う代表的な教科書として挙げられるHellmann 2002では、カラー図版でそれが大写しで掲げられています。
シチリアの神殿は全般的に、残存状態はあまり良くなくて、観光目的で見に行くとがっかりする方もいらっしゃるかと思うのですが、なぜ古代建築の専門家たちが、セジェステに佇む壊れた神殿に注目するかと言えば、未完成であるために建物の造り方が詳しく分かるという利点があるからで、本来は完成時に削り落とすべき突起が、石材のあちこちに見受けられたりします。
特に基壇部分の突起は、非常に頻繁に引用されており、古代エジプトにおけるギザのメンカウラー王ピラミッド基部の花崗岩に残る突起などとともに、世界で有数の突起のうちのひとつ。

この島には神殿を建てるために切り開かれた多数の石切場も同じように残っていて、その中でも大きな円柱を切り出そうとしてそのまま残された光景は特筆され、とても有名。
本書はシチリアのセリヌントにある石切場の報告書。クーサ(Cusa)の石切場を主として扱っています。
前回で挙げたMalacrino 2010にも、クーサの石切場に残る切りかけの円柱群はもちろん34ページの図で紹介されており、それでこの本を思い出した次第。

Anneliese Peschlow-Bindokat,
mit einem Beitrag von Ulrich Friedrich Hein,
Die Steinbrüche von Selinunt:
Die Cave di Cusa und die Cave di Barone
.
Deutsches Archäologisches Institut (DAI)
(Philipp von Zabern, Mainz am Rhein, 1990)
66 p., 30 Tafeln, 4 Beilagen.

Inhalt:

Presentazione (Vincenzo Tusa) (p. 7)
Vorwort (p. 8)

Die Steinbrüche von Selinunt (p. 9)
Steinbrüche und Bautätigkeit von Selinunt (p. 9)
Die Cave di Cusa (p. 14)
Die Cave di Cusa und der Tempel G (p. 33)
Die Cave di Cusa und die Marmorbrüche von Milet (p. 38)
Die Cave di Barone (p. 40)

Geologische und petrographische Merkmalsmuster antiker Baustoffe Selinunts und seiner Steinbrüche (Ulrich Friedrich Hein) (p. 45)
Einleitung (p. 45)
Der geologische Rahmen (p. 46)
Die antiken Steinbrüche (p. 49)
Zur Petrographie der antiken Baumaterialien (p. 56)
Zur Geochemie der antiken Baumaterialien (p. 62)
Bemerkungen zum lithologischen Inventar der Bauwerke (p. 63)
Anhang: Probenverzeichnis (p. 64)

Abbildungsnachweis (p. 66)

前半は技法に関する考察で占められ、後半では岩石学的な記述がおこなわれています。
上記の通り、目次ではドイツ語とイタリア語とが入り混じっており、こういうところは定冠詞というものが存在しない日本語をもっぱら用いている人間にとって、かなり衝撃的です。

建築学で建造過程を眺めようとする領域は、それはすなわち「段取りをどう見るか」の世界ですから、切り出した円柱のドラムをどのように効率的に岩盤から切り出すのか、どっちの方向へ運び出そうとしているのかを把握するのが焦点となります。円柱を切り出すために、1メートル弱の幅の狭い溝を円柱の周囲に沿って掘り下げていますけれども、掘削量を可能な限り削減しようとしたらしいことが、ここでもうかがわれます。
複数の石切場と、現地に残る数々の神殿との対応関係を探っているのは注目されます。考古学・建築学と、科学分析の成果とがうまく組み合わされた例。報告書においてある程度、最終の着地点が見える場合にはこうした共同作業ができて、幸せな邂逅が達成されます。
でも、いつもこうしたことができるとは限らない。

円柱を切り出そうとした痕跡が集中している石切場というのは世界的にも案外に少なくて、クーサの石切場などが注視される所以です。古代エジプトにおける一本柱の整形の仕方と、古代ギリシア・ローマでの一本柱の整形の方法がどのように異なるのかといった細かな検討も、まだおこなわれていないはず。
それは一見、専門技術に関わる話で、全体として些細な問題であるように思われながらも、時代の要請に応じ、何を優先して何を切り捨てたのかという文化の違いを示す話とも繋がっていきます。

かつて、古代エジプトを中心とした石切場の文献を集めたことがありました。類似したページは今でもあまりないようですので、御参考までに。

2010年9月8日水曜日

Malacrino 2010 (English ed.)


ほとんど全ページにカラー図版が用いられており、大変見やすく、限られた分量の中で古代ギリシアと古代ローマにおける建造技術をうまく纏めています。石造建築に限らず、土を用いた構法についても触れている点は重要。土木に関連した遺構についても、いくらかページを割いています。
西洋の古典古代建築に興味を持っている方が最初に購入する入門書としては、お勧めの一冊かもしれない。5000円ほどでしたから、決して高くはありません。内容は充実しています。

Carmelo G. Malacrino,
translation in English by Jay Hyams,
Constructing the Ancient World:
Architectural Techniques of the Greeks and Romans

(First published in Italy in 2009 by Arsenale-Editrice, Verona, "Ingegneria dei Greci e dei Romani".
English ed., The J. Paul Getty Museum, Los Angeles, 2010)
216 p.

Contents:

Introduction (p. 4)
Natural Building Materials: Stone and Marble (p. 7)
Clay and Terracotta (p. 41)
Lime, Mortar, and Plaster (p. 61)
Construction Techniques in the Greek World (p. 77)
Construction Techniques in the Roman World (p. 111)
Engineering and Techniques at the Work Site (p. 139)
Ancient Hydraulics: Between Technology and Engineering (p. 155)
Heating Systems and Baths (p. 175)
Roads, Bridges, and Tunnels (p. 187)

Glossary (p. 208)
Bibliography (p. 210)
Index (p. 213)

ただ専門家が重宝するかというと問題があって、この本に掲載されている図版では原典の引用がことごとく省かれています。イタリア語で書かれたという原著にはそれらが記載されているのかどうか、未見ですので詳細が分からないのですが、先行研究の図版をもとにして新たに描き直したらしきものが多々うかがわれ、OrlandosKorresAdamなどの著書をもとにしているなということが、一見して明瞭な描画が含まれます。
当方も経験があるけれど、図を描き直したら著作権に気を遣う必要はない、というのは大きな間違いで、原典はやはり明記すべきと思われます。こうした点の配慮は欲しかったところ。高名なゲッティから出ている本ですので、信用する人は多いはず。

紙幅がないことを勘案するならば、参考文献のリストはよく纏まっているように思われます。
ただKorresの名前が見当たらないようですが、同じゲッティから出ている本だし、まあいいや、ということなのかもしれません。Coultonについては著書が取り上げられず、論文がたった1本だけしか載っていなくて可哀想。Hellmann 2002, 2006は記載。Rockwell 1993も載っています。
リストにはWilson Jones 2000が体裁上、加えられているけれども、今回取り上げたこの本には古代の設計方法については一切述べておらず、それ故にCoultonの代表作も落ちているのかも。構法、つまり建物の造り方に限定して書かれているとみなすべきです。

ならば、建造前の、いろいろと問題が沸き上がって矛盾が錯綜し、それをどう整理するのかという、建築で一番面白くてわくわくする設計・計画に関するところが抜け落ちているのではないのか、という反問も当然ながら予想されるように感じるのですが。
こういうことを熱望するのはしかし、少数意見となり、残念な点です。

2010年7月4日日曜日

Herz and Waelkens (eds.) 1988


古代における大理石の用法を扱った国際学術会議の報告書。古代ローマの石切場、また石の輸出入に関する研究はワード・パーキンスによって本格的に開始されましたが、その遺志を継承しての国際会議。ワード・パーキンスについては、Dodge and Ward-Perkins (eds.) 1992などを参照。
岩石学、経済学、技術史学、考古学、建築学など、多岐にわたる学際的な内容です。

Norman Herz and Marc Waelkens (eds.),
Classical Marble:
Geochemistry, Technology, Trade.

Proceedings of the NATO Advanced Research Workshop on Marble in Ancient Greece and Rome:
Geology, Quarries, Commerce, Artifacts.
Il Ciocco, Lucca, Italy, May 9-13, 1988.
NATO Advanced Science Institutes (ASI), Series E
(Applied Science), Vol. 153
(Kluwer Academic Publishers, Dordrecht, 1988)
xvi, 482 p.

大理石は古代ローマや古代ギリシアにおいて好んで使われた石材で、これを専門的に研究する特殊な学会もあります。

ASMOSIA
(Association for the Study of Marble and Other Stones used In Antiquity)

というのがそれで、同じ石材を前にしながらも、立場が違うとこんなにも見るところが異なるのだという点が面白い。論考の多くは古代社会の経済に関わる研究と、採掘技法や労働組織についての注視、また科学分析を通じての時代・地域の同定、そういうことになります。
これらの論考をまとめて見据えようという難しいことをやっているのが共同編集者のHerzとWaelkensで、ふたりともこの分野では第一人者です。

このような本を手にすると、大理石という石の魅力が未だ強く放たれているという事実を思い知らされます。透過性があり、柔らかく、艶やかさを有するという独特の素材。
透き通る人間の肌と似た質感がある唯一の石と言ってよく、石膏製の模像と実物の大理石像との違いは大きい。

エジプト学が、ここにどういうかたちで関係するかはしかし、微妙です。もっと相互の論議がなされてもいい。

2010年1月11日月曜日

Barletta 2001


古典古代建築におけるオーダーの起源をたずねる論考。5つのオーダーのうち、特にドリス式とイオニア式のオーダーについては不明な点が多いと従来、指摘されてきました。改めてこうした問題を探った書。

Barbara A. Barletta,
The Origins of the Greek Architectural Orders
(Cambridge University Press, Cambridge, 2001)
xi, 220 p.

Contents:
Preface
1. The Literary Evidence
2. The Archaeological Evidence: Proto-Geometric through the Seventh Century B.C.
3. The Emergence of the Doric "Order"
4. The Emergence of the Ionic "Order"
5. The Origins of the Orders: Reality and Theory
Conclusions: Interpretation and Implications
(以下略)

コリント式についてはある程度、資料があるのですけれども、ドリス式とイオニア式のオーダーのふたつに関しては、結論から言えばやはり分からないと言うことになりそうです。
石造のオーダー以前に木造のオーダーがあったかどうかについても、この人は否定しており、

"It is clear, however, that a direct translation of forms originally fashioned in another material, such as wood, cannot be supported by the archaeological evidence."
(p. 152)

と記しています。

著者は美術史を専門とする大学の教員です。
ここには不思議な分かれ道があって、建築を専門とする者にとっては「証拠がない」ことなどは、実は周知の事実です。建築にとって何が「真実」なのか、建築を構想することにおけるリアリティの問題がこの本ではすっかり抜け落ちていますが、これは逆の視点に立てば、建築の考え方において何を根拠として置いているのかが問われているわけで、その差異が面白い。

たぶん、建築の世界では想像すること、造る前に建築を想定することに大きな力点を置いているらしく思われます。それは他の分野の者から見れば、ただの空想でしかありません。
この、ただの空想でしかないと思われる事象に現実感を伴わせる空隙の充填、そういうところが建築の世界の面白さなのかもしれません。
「幻視者」、という言葉も建築史の世界ではしばしば用いられました。

オーダー成立に関わる資料を総ざらいしていますから、古代エジプト建築との関わりを考える際には有用な本となります。事実、エジプトの影響を示唆している箇所もありますが、明確な証拠は提示されていません。
建築の世界では、想像力で補強して架橋するということにも、一定の正当性を与えているらしく思われます。考え方の違いを浮彫りにする論考です。

2009年12月31日木曜日

Haselberger (ed.) 1999


人間の眼は垂直や水平の線の知覚に敏感である一方、想像される重量感など、周囲の状況を含んで脳が判断するために、時として曲がったり傾いたりしているという誤った認識がもたらされることがあります。建築を造る際にはこれが支障となり、わざと真っ直ぐであるべき床や梁材をごく僅か、曲げたり傾けたりという視覚矯正がなされる場合が見られ、これが「リファインメント」と呼ばれます。
パルテノン神殿には直線がどこにもない、と言われるのはこのため。

Lothar Haselberger ed.,
Appearance and Essence:
Refinements of Classical Architecture; Curvature.

University Museum Monograph 107, Symposium Series 10.
Proceedings of the Second Williams Symposium on Classical Architecture, held at the University of Pennsylvania, Philadelphia, April 2-4, 1993
(The University Museum, University of Pennsylvania, Philadelphia, 1999)
xvi, 316 p.

意図的に歪ませるというこの手法について、専門家たちが集まり、世界で初めて開催されたシンポジウムの記録。J. J. Coulton, M. Korres, M. Wilson Jones, P. Grosなど、古典古代建築の研究において、とてもよく知られた学者たちによる発表が含まれています。
このシンポジウムを纏めているHaselbergerは、トルコにあるディディマのアポロ神殿に残されていた、柱が曲線を描きながら先細りとなっている設計の下図を報告した人。

Lothar Haselberger,
"Werkzeichnungen am Jüngeren Didymeion: Vorbericht",
Istanbuler Mitteilungen 30 (1980), pp. 191-215.

は日本でも伊藤重剛氏によって紹介されたりしていて、知られた論文。
「リファインメント」というのは、実は建築の事典に載っていないことが多く、

"This book focuses on curvature and other refinements of Classical architecture - subtle, intentional deviations from geometrical regularity, that left no line, no element of a structure truly straight, or vertical, or what it appears to be."
(p. v)

と冒頭にわざわざ説明が改めてなされてもいます。xvページに"Introductory Bibliography"が設けられており、ここでリファインメント研究の先駆者、F. C. PenroseW. H. GoodyearA. K. Orlandosたちの著作が挙げられています。

中国建築におけるリファインメント、としてHuei-Min Luという人が中国の建築書「営造方式 Ying-tsao Fa-shih」(1103年)を扱っています(pp. 289-292)。
この建築書については、竹島卓一「営造方式の研究」(1972年)が有名。J. ニーダムによる紹介もありますけれども、世界で本格的な解説書はこれしか出版されていません。日本人だけが「営造方式」の注解書を読むことができるという状況にあるため、この研究者もSsu-cheng Liang, A Pictorial History of Chinese Architecture (Cambridge, Mass. 1984)の図版を挙げつつも、日本語からの翻訳も掲げています。柱を中心に向けてごく僅か、傾けるという手法を簡単に紹介。

「営造方式の研究」の分厚い手書き原稿は、いったん1942年に完成されたものの、第二次世界大戦の空襲によって消失。にも関わらず、再度の執筆が開始され、1949年に学位論文として提出されたという経緯が知られています。及び難い、不屈の精神。
中央公論美術出版社から出された3巻本の「営造方式の研究」は、2000ページを超える大著。

会議が開催された1993年以降の研究も付加されており、また19世紀・20世紀の建築で見られる同様の手法が巻末にリストアップされています。建築意匠の普遍的な手法としてこの矯正を見ようとするあらわれで、面白い。

2009年12月13日日曜日

Coulton 1977 (Japanese ed. 1991)


古代ギリシア建築の碩学クールトンによる名著。
20世紀初頭まで、建築の計画方法の分析と言えば、平面図や立面図の上に補助線をたくさん描いて、正方形や円(円周率πとの関連の模索)、簡単な比例値の長方形、ファイ(φ:黄金分割比・黄金律。1:1.618)などとの整合を見つけ出すというのが多くの方法でした。
それをひっくり返したのがこの本です。建築の設計というのは、一般の人が思っているよりももっと大ざっぱな部分があって、完璧な美のかたちがもともとあるわけではなく、曖昧模糊とした発想からどんどん手直しを重ねていく試行錯誤があるんだ、という実際の建造方法を理論の前提にしています。
専門家による和訳も出ています。

J. J. Coulton,
Ancient Greek Architects at Work:
Problems of Structure and Design

(Cornell University Press, Ithaca, 1977)
196 p.

邦訳:
J. J. クールトン著、伊藤重剛
「古代ギリシアの建築家:設計と構造の技術」
(中央公論美術出版、1991年)
318 p.

古代エジプト建築研究は、まだこの水準まで行っていません。この書が今なお取り上げられるべきなのは、そこに問題があるからです。
建造の経験を充分に積んでいくと、立てる前から建築の建ち上がった際の上方における細かな部分の不具合が予想できるようになり、それを建造前の段階から調整できるようになります。
つまり、柱の上にある部材の間隔を均等に揃えるために、柱の位置を最初からずらして計画するということをおこなうわけで、これは日本建築でも見られる方法。
古代エジプト建築の面白いところは、造りながら修正をおこなう場合がある点で、これは膨大な数の労働者が使えたから初めて可能な方法でした。
極端な例では、造りかけのピラミッドの位置を設計変更でずらすという場合も見受けられます。現代でこういうことをやると、建築家は業界で命を失います。

参考文献リストは、古典文献と近代の研究者による文献とが分けてあります。古典古代を研究する文献学者は、こういうふうに大別するのが普通。ただそれが他領域の研究者にまで浸透していない傾向があります。

専門用語の解説も図入りで付されていますが、必要最小限にとどめられており、ちょっと分かりにくいかもしれない。
例えばグッタエは項目で短く説明されていますが、図版では具体的に示されておらず、迷うかも知れません。

2009年11月16日月曜日

Hitchcock 2000


ミノア建築について論考を重ねているL. A. ヒッチコックの博士論文。副題に出てくる「コンテキスト」というのは美術を解説する時の用語で、20世紀後半から使われるようになりました。
建築の場合には「文脈主義」というように無理して訳され、具体的な敷地の状態から要請されるさまざまな意匠上の明示、というほどの意味で用いられることが多いと思います。簡単に言えば、周りとそぐわない建物を建てても良いの? という反省から起こった流れです。もともとは現代哲学における考え方に由来しています。これを「添い寝主義」と悪口を叩いた人もいました。

この本では、これまでの考古学の成果を疑うことから出発していますので、ああそうなんだ、疑わしいんだ、と面白く感じる部分が少なくありません。序文の7行目では、

"I did not understand why a "Palace" was a palace"

なあんていう衝撃的なことを平気で書いていますし、これは古代エジプトの場合にも当て嵌まるはず。つまり、クノッソス宮殿とかファイストス宮殿とか、これまで良く知られていた宮殿は、「宮殿」ではないかもしれない、ということが記されているわけです。
高名な研究者たちが言ったという、「ミノアの宮殿群は、発掘によって失われた」、「ミノア考古学には『事実』というものがなく、考古学者にできることは、彼らが望んでいることをしゃべることだけだ」、という見解にも驚かされます。
すでに固定されているかのように思われる既往の成果に対し、違う見方ができないかと問いかけること。それが大きなモティーフとなっている本です。

Louise A. Hitchcock,
Minoan Architecture:
A Contextual Analysis.

Studies in Mediterranean Archaeology and Literature,
Pocket-book 155
(Paul Astroms Forlag, Jonsered, 2000)
267 p., including 33 illustrations

第1章の「エーゲ海考古学の考古学に向かって」が最も重要で、考古学のあり方を問い直す試み。ミシェル・フーコーが「知の考古学」を書いたことを踏まえたもの。あとの章は「広庭、拝礼、入口」(第2章)、「倉庫と作業場」(第3章)、「ミノアの建物における広間」(第4章)と、部屋ごとに検討がなされます。
本文の一番最後ではジャック・デリダのへのインタビューに言及して終わっているように、現代の思考におけるいびつな面を意識した上で書かれていますから、時として話が難しくなります。ウンベルト・エーコ(エコ)などの著作も参考文献リストに挙げられていますので、いろいろと読み拡げなければなりません。

スウェーデンに本拠を置くPaul Astroms Forlagという出版社は、考古学者のP. アストレム教授が20世紀の中頃に創立したもので、古代地中海考古学、特にギリシア付近の地域に関しては非常にたくさんの本を刊行しています。
ヒッチコックは共著で

D. Preziosi and Louise A. Hitchcock,
Aegean Art and Architecture.
Oxford History of Art
(Oxford University Press, New York, 1999)
262 p.

も書いていて、カラー図版を多く収めた見やすい本。ペーパーバックも今は刊行され、比較的安価にて入手できるはずです。

2009年10月14日水曜日

Cadogan, Hatzaki and Vasilakis (eds.) 2004


2000年に開催されたクノッソス宮殿に関する国際会議の報告書。この年はアーサー・エヴァンスがクノッソスの発掘調査を開始した1900年のちょうど100年後に当たり、記念行事として英語とギリシア語の2ヶ国語を使用言語に定め、開かれました。
刊行までに4年かかっていますが、編者たちにとって両言語における綴りや表音の違いが大きく、思わぬ時間を要したと冒頭に書いてあります。

Gerald Cadogan, Eleni Hatzaki and Adonis Vasilakis eds.,
Knossos: Palace, City, State.
Proceedings of the Conference in Herakleion organised by the British School at Athens and the 23rd Ephoreia of Prehistoric and Classical Antiquities of Herakleion, in November 2000, for the Centenary of Sir Arthur Evans's Excavations at Knossos.
British School at Athens Studies 12.
(British School at Athens, London, 2004)
630 p. including CD-ROM.

厚い本で、もし一部分をCD-ROMに回さなかったら、もっと重たい書物になっていたはずです。CD-ROMを添付する出版形態は近年見られるようになりましたが、一般的ではありません。冊子体と電子化された発行物にはそれぞれ短所と長所があり、どちらかが圧倒的に優れているというわけではない。
長く残すことを優先するのであれば、CD-ROMで配布することはもちろん躊躇されます。

全体は54編で、これが13のトピックに分かれます。

From Neolithic to Prepalatial Knossos
Knossos: Palace, city and cemeteries
Politeia
Architecture, arts and crafts
Administration and economy
Religion
Ports of Knossos
Knossos overseas
Greek and Roman Knossos
Knossos: Past and present
Lectures at the Herakleion Museum on 23 March 2000
Contributions to the excavation history of Knossos

クノッソスの宮殿建築に関連する下記の論考、

C. Palyvou, "Outdoor space in Minoan architecture: 'community and privacy'"
(pp. 207-17).

D. J. I. Begg, "An interpretation of mason's marks at Knossos"
(pp. 219-23).

L. Goodison, "From tholos to Throne Room: some considerations of dawn light and directionality in Minoan buildings"
(pp. 339-50).

などもありますが、これらの他に、発掘者エヴァンスについての発表もいくつかあって、こちらの方がどちらかといえば面白い内容を伝えています。どういう経緯でクノッソスの土地を買い集めたのかとか、若い頃は何をやっていたのかとか。
エヴァンスと言えば、自分で解読しようと線文字の資料を独り占めしたり、宮殿の修復方法などで良くないイメージを持たれていますが、改めて公平に彼の人生全体を見直そうという試み。

2009年10月7日水曜日

Lawrence 1983 (5th ed.)


古代ギリシア建築に関する解説書で、良く取り上げられる本。現在流通しているのは第5版で、1957年の初版から、細かくほぼ5年おきに改訂がなされ、1973年の第4版が出た10年後、さらに改訂が重ねられました。ペリカン・ヒストリー・オブ・アートのシリーズの一冊。

Arnold Walter Lawrence,
revised by R. A. Tomlinson,
Greek Architecture.
Yale University Press Pelican History of Art (founding editor: Nikolaus Pevsner)
(Yale University Press, New Haven and London, 1983.
5th edition. First published in 1957, Penguin Books, Harmondsworth, in series: Pelican History of Art)
xv, 243 p.

著者は城塞の専門家でもあり、そのために軍事建築の歴史を辿る本でも、彼の名前を見ることがしばしばです。城塞に関連する本に関してはMcNicoll 1997、またLander 1984で触れました。特に、

A. W. Lawrence,
Greek Aims in Fortification
(Oxford, 1979)

は、良く引用される書。
エジプトの南シナイ・ラーヤ遺跡には珊瑚ブロック造の大規模な城塞が残っており、ここからはイスラーム時代の遺物が出土していますが、ビザンティン時代にまで建造年代が遡ります。

Mutsuo Kawatoko and Yoko Shindo (eds.),
Artifacts of the Islamic Period Excavated in the Raya/al-Tur Area, South Sinai, Egypt:
Ceramics / Glass / Painted Plaster

(Joint Usage / Research Center for Islamic Area Studies, Waseda University, Tokyo, 2009)
(v), 32 color pls., 79 p.

"A fort constructed in the Byzantine period was found in the excavations at the Raya site, and we discovered a large quantity of glassware and earthenware that is an immediate successor to the Byzantine culture, luster-painted pottery, pale green or purple painted pottery closely related to Iraq, earthenware associated with the Syrian and Palestinian cultural zone, together with gold coins and glass weights which had been minted and made in Egypt."
(pp. 2-3)

という記述を参照。
時代が異なっても、こういう遺構を調べる時にはLawrenceの著作が重要。

目次がかなりたくさんの章に分けられています。全体を、"Part One: Pre-Hellenic Building"と、"Part Two: Hellenic Architecture"のふたつに大きく分けていて、比重のかけ方の違いを題名でもページ数でも表明。

前半の1/3で新石器時代と青銅器時代を扱い、クノッソスなどのクレタ島の王宮群もここで述べられています。ミノア時代が解説された後にミケーネを説明(pp. 43-55)。
後半の第2部では神殿の祖型を述べ、オーダーを紹介し、アテネのアクロポリスに触れるのが第14章。次いでヘレニズムの建築については第19章で語り、最後近くでは劇場に言及。
各章に詳細な註が設けられていますが、参考文献も章ごとに紹介されているのはちょっと使いづらいところ。
非常に評価の高い著作。

2009年8月5日水曜日

Korres 1995


パルテノン神殿の石切場、有名なペンテリコンを舞台とした絵本。61枚に及ぶ詳細な図が何といっても素晴らしい。著者は建築家・修復家で、絵は全部、著者による手書きです。
最初はミュンヘンでの展覧会で図が発表され、そのカタログが

Manolis Korres,
Vom Penteli zum Parthenon
(München, 1992)

として出版された模様。
この図の部分を第1部とし、図の説明を第2部としています。

Manolis Korres,
From Pentelicon to the Parthenon:
The ancient quarries and the story of a half-worked column capital of the first marble Parthenon

(Publishing House "Melissa", Athens, 1995)
128 p., 61 drawings, 3 photographs.

Contents:
Prologue, p. 7
Part I
Narrative and Pictorial Reconstruction, p. 9
Part II
Explanation of the Plates, p. 61

Appendix 1
Testimonies, p. 116
Appendix 2
The Quarry of the Nymphs on Paros, p. 120

Contents of Parts I and II and their Correlation, p. 122
List of Figures, p. 123
Select Bibliography, p. 124
Indexes, Glossary, Greek pronunciation, etc., p. 127

ペンテリコンの石切場がどういう順番で開拓されていったか、どのような方法で石がひとつひとつ切り出されていったのか、使われた工具の話、ペンテリコンからアクロポリスの丘までの石の運搬経路、巻き上げ機の使用、アクロポリスの丘の上でのクレーンを用いた組積方法、仕上げの方法など、丁寧に解説されています。
こうした建造作業全体の把握は、たぶん古代ギリシア人たちにもできていなかったかも。そう思わせるほどうまく纏められており、特に第2部は秀逸。

石造建築のうちで、石がどこから切り出されたかが分かっている有名な建物はいくつかありますけれども、これほど詳しく説明がなされている例は稀。石切場そのものの調査が、どこの国でもあまり進んでいないという問題点もあります。
著者のさまざまな力量が結晶した傑作で、以降の石切り場の報告書にも大きな影響を与えています。

2009年6月6日土曜日

McNicoll 1997


プラトンの晩年の書「法律」の引用から始められるこの本の第1章は「防御の重要性」。ヘレニズム時代の要塞建築を扱ったもので、分類としては古代ギリシアの軍事建築ということになりますが、古典古代の軍事建築研究というのはけっこうあって、古代エジプト建築の場合と対照的です。

42歳で亡くなった著者の博士論文で、1971年に執筆されたものに、他の人が加筆をおこなっています。
序文を寄せているのは古代ギリシア建築の碩学J. J. クールトン。彼はオクスフォードのこのモノグラフのシリーズの編集者のひとりでもあり、この本の出版の意義を分かりやすく述べています。

Anthony W. McNicoll,
with revisions and an additional chapter by N. P. Milner,
Hellenistic Fortifications from the Aegean to the Euphrates.
Oxford Monographs on Classical Archaeology
(Clarendon Press, Oxford, 1997)
xxv, 230 p.

城塞ですから厚い壁を巡らせ、要所に四角い塔を建てるというのが共通した外観です。開口部をほとんど設けない造りですから、石材の積み方などが見どころのひとつ。
石の積み方を種類別に分けることを精緻におこなった研究書が

Robert Lorentz Scranton,
Greek Walls
(Cambridge, Mass., 1941)
xvi, 194 p.

で、ここには「壁体リスト」なるものも収められています。
Mass.というのはマサチューセッツのことで、このようにイギリスとアメリカに同じ地名があって紛らわしい場合には、どちらの地名かを明記することが推奨されます。ドイツにおけるFrankfurt am Mainといった表記と同じ。
Scrantonの本もまた博士論文で、この本を参考にしつつ、石組みの分類方法はさらに詳しくなっており、説明のための写真も豊富。

クールトンは「ここ25年間で要塞研究の様相は目まぐるしく変わった」と序文では記していて、そこで代表的なものとして挙げられているのが

F. E. Winter,
Greek Fortifications
(London, 1971)

A. W. Lawrence,
Greek Aims in Fortification
(Oxford, 1979)

J.-P. Adam
L'architecture militaire grecque
(Paris, 1982)

の3冊です。いずれも知られた専門家。
最近では、

Isabelle Pimouguet-Pédarros,
Archéologie de la défense: 
histoire des fortifications antiques de Carie, époques classique et hellénistique
(Presses Universitaires de Franche-Comté, Besançon, 2000)
508 p.

も出ている模様。
M.-Ch. Hellmannによって現在刊行中のシリーズにはすでに触れましたが、L'architecture grecque, vol. 3でも要塞が扱われることが予告されており、おそらくはもうすぐ刊行されるかと思われます。
古代ギリシアの建築研究が神殿だけではないことを伝える書籍の群。

2009年4月30日木曜日

Bietak (Hrsg.) 2001


古代ギリシア建築と古代エジプト建築との接点を探るため、ウィーンで開催された国際コロキアムの報告書。薄手の本ながら、重要な論考が収められています。コロキアムは、シンポジウムと似たような専門家による会合ですが、より専門性が高く、通常は少人数でおこなわれます。

Manfred Bietak (Herausgegeben von),
Archaische Griechische Tempel und Altägypten.
Internationales Kolloquium am 28. November 1997 am Institut für Ägyptologie der Universität Wien.
Untersuchungen der Zweigstelle Kairo des Österreichischen Archäologischen Instituts, Band XVIII
(Verlag der Österreichischen Akademie der Wissenschaften, Wien, 2001). 
115 p.

エジプト建築がどこまでギリシア建築に影響を与えたのかに関しては、実は多くが分かっていない状況です。ギリシア建築研究の大御所クールトンも、この点に関しては残念なことにほとんど何も言っていません。
ウィーン大学のM. ビータックのもとで、この会合が開かれている点は注目されるべきです。たぶん彼のところ以外では、こうした企画は困難であると思われます。「古代エジプトにおける住居と王宮」(1996年)が出版された時と同じシリーズにて刊行されました。
地中海を取り巻く諸文明を踏まえた研究調査を進めているビータックならではの書です。

イスミアの前身神殿についての、建造技術を扱った論考は非常に興味深いと思われます。小振りの石を用いて建造された神殿ですが、使用石材には溝が切られており、縄をかけた跡と見られるこの加工痕はきわめて珍しいため、クールトンもかつて言及していました。

ヘーニーやアーノルドといった、有名な学者たちも執筆しています。
G. ヘーニーは、"Tempel mit Umgang"という副題を持つ論文を書いており、これはもちろんボルヒャルトの名高い著作のタイトルを意識したものです。ボルヒャルトに対する注釈と情報の更新という位置づけです。図版多数を所収しています。
D. アーノルドは末期王朝以降の神殿における木製屋根の復原を述べています。彼自身がすでに出版している"The Temples of the Last Pharaohs" (1999)を補完する内容です。これも復原図がたくさん作成されています。

2009年4月25日土曜日

Ginouves (et Martin) 1985-1998


古代ギリシア・ローマ建築に関する大系的な事典で、3巻本です。13年をかけて完結しました。フランス・アテネ学院とフランス・ローマ学院との共同作業で、さらにはそこにCNRS(フランス国立科学研究センター)も加わっていますから、フランスの研究者たちの知恵の結集と考えても良いかもしれません。

Rene Ginouves et Roland Martin,
Dictionnaire methodique de l'architecture grecque et romaine, I:
Materiaux, techniques de construction, techniques et formes du decor
(Ecole Francaise d'Athenes, Ecole Francaise de Rome, Athenes/Rome, 1985)
viii, 307 p., 65 planches.

Rene Ginouves,
Dictionnaire methodique de l'architecture grecque et romaine, II: Elements constructifs:
Supports, couvertures, amenagements interieurs

(Ecole Francaise d'Athenes, Ecole Francaise de Rome, Athenes/Rome, 1992)
viii, 352 p., 90 planches.

Rene Ginouves,
Dictionnaire methodique de l'architecture grecque et romaine, III:
Espaces architecturaux, bâtiments et ensembles
(Ecole Francaise d'Athenes, Ecole Francaise de Rome, Athenes/Rome, 1998)
ix, 357 p., 115 planches.

古代ギリシア建築の重鎮、R. マルタンは第1巻目だけに参加しています。
その第1巻目では例えば、文章編のほぼ3分の1が索引に充てられていて、フランス語索引、ドイツ語索引、英語索引、イタリア語索引、現代ギリシア語索引、古代ギリシア語索引、そしてラテン語索引と入念に構成されています。

J.-P. Adam, La construction romaine: materiaux et techniques (Paris, 1984)とその英訳本がすでに出ていますし、またM.-Ch. Hellmann, L'architecture grcque (Paris, 2002-)のシリーズも刊行中であるため、これらでほとんどの用は足りるかもしれませんが、多国語の検索ができる点は有用で、あまり類書がありません。

図版が多く所収されていることは重要です。石材の紹介のページなどではカラー写真も使われています。図版の作成は大変だったでしょうが、その多くを描いているのは上述のアダムであることが図版リストから了解されます。
J.-Cl. ゴルヴァンもまた図の作成に関わっており、この人は古代エジプト建築のさまざまな復原図を描いていることで有名。
古典古代建築の研究がどこまで進んでいるかが良く分かる図書で面白い。

2009年3月28日土曜日

Hahn 2001


「アナクシマンドロスと建築家たち」という題の風変わりな本。奇妙な本であると著者も自分で冒頭に書いていますが、これを出版したのは哲学科の准教授で、古代ギリシア哲学の専門家。
アナクシマンドロスと言えば、最初の哲学者たちのうちのひとりとして挙げられる人物で、彼が宇宙論を考え出した発想の原点には古代の建造技術が関わっていると記しています。

Robert Hahn,
Anaximander and the Architects:
The Contributions of Egyptian and Greek Architectural Technologies to the Origins of Greek Philosophy.
Suny Series in Ancient Greek Philosophy
(State University of New York Press, New York, 2001)
xxiii, 326 p.

Contents:
Introduction
Chapter 1: Anaximander and the Origins of Greek Philosophy
Chapter 2: The Ionian Philosophers and Architects
Chapter 3: The Techniques of the Ancient Architects
Chapter 4: Anaximander's Techniques
Chapter 5: Technology as Politics: The Origins of Greek Philosophy in Its Sociopolitical Context

最初の哲学者たちと古代エジプト建築との関わり、ということを問えば、例えばイオニア地方にいた哲学者タレスが影の実測を用いて、初めてピラミッドの高さを計測した逸話などが思い出されます。それまで実用的な技術を発達させてきた古代エジプトの考え方を、はじめて幾何学へと結晶させたといった言い方がなされる部分。ですから話題そのものとしては、決して珍しくはありません。けれども、古代エジプトから古代ギリシアへの実際の建築技術の伝播については、これまでほとんど詳しく分かっていないはずです。

タレスの考え方を批判的に継承したのがアナクシマンドロスで、こうしたソクラテス以前の哲学を見ていくと、それぞれが大旅行者であり、その旅程のさなかで「世界の全体」というのは何かということを絶えず頭の片隅においていた思索者であり、また全体の論を組み立てるために「万物の根源」へと考えを遡行させていった偉大な夢想者であったことが良く了解されます。アナクシマンドロスはこのような過程で「アルケー(根源・始原)」ということを言い出しました。つまりは考古学(アルケオロジー)の先達者と言うことになります。
ソクラテス以前の諸考察に関して精読をおこなったマルティン・ハイデガーが「古来から存在が問われてきた」という内容の「存在と時間」を20世紀に発表し、各分野に大きな影響を与えたことも併せて思い起こされます。

しかしこの本の面白い点は、バダウィのいわゆる「ハーモニック・デザイン論」を否定しているCAJ 1:1(1991)に掲載されたB. J. ケンプとP. ローズの論、"Proportionality in Mind and Space in Ancient Egypt"も検討したりと、古代エジプト建築の計画論に関わる最近の研究史の概要を提示しているところにあります。こういう本格的な論考を、エジプト学関連の刊行物の中ではまだ見ることができません。
これは大きな収穫で、エジプト学に直接関わっていない人から見ると全体としてどういうふうに眺められるのかが良く分かり、基本的な問題点がはっきりする利点があります。事情が良く分かっているC. ケラー、G. ロビンズ、D. オコーナーなどに著者が直接相談していることもあって、ここまでの論旨は明瞭。彼らはいずれも良く知られたアメリカのエジプト学者たち。オコーナーはケンプと共同で発掘調査もおこなっており、ケンプの良き理解者です。
ただし、うまく纏められた論述ですけれども、266ページではE. イヴァーセンの名前を"Iverson"と綴っていたりもしますので、注意が必要。

アナクシマンドロスの天体論・宇宙論が、古代ギリシアの柱のドラムの形状から発想されたという辺りに対しては大きな異論も出るでしょうが、古代ギリシア建築と古代エジプト建築との計画方法の関わりを密接に説いている本として貴重です。
古代エジプト建築の研究者D. アーノルド、また古代ギリシア建築を専門とするA. オルランドス、R. マルタン、J. J. クールトンらの名前が同じ章の中に出てきます。イオニアの神殿では柱の根元での太さと高さとの比が1:10になることの検証が144ページから続き、周到な論の運びなのですが、これがどうして宇宙の大きさの話となってしまうのかが謎。

クメール研究においても、建物の遺構における特定の寸法が実は天体の位置関係をあらわしているのだといったような、建築学的にはどうしても首を傾げざるを得ないことを表明しているこの種の本があって、

Eleanor Mannikka,
Angkor Wat:
Time, Space, and Kingship

(University of Hawaii Press, Honolulu, 1996)
341 p.

なども、また同じ理由で論駁されるべき図書。

2009年3月8日日曜日

Ault and Nevett (eds.) 2005


古代ギリシアの住居に関する論考。2001年に開催のAIAサンディエゴ大会でコロキアムが企画され、その成果が編集されたもの。古代ギリシアの住居でまとまった情報が得られているのはオリントスなどに限られ、その住居が紹介されることが一般には多いわけですが、この会合では専門家たちが集まって、他の各遺構も視野に収め、全貌を捉えようとしています。

Bradley A. Ault and Lisa C. Nevett (eds.),
Ancient Greek Houses and Households:
Chronological, Regional, and Social Diversity
(University of Pennsylvania Press, Philadelphia, 2005)
x, 190 p.

Contents:
1. Introduction,
by Lisa C. Nevett (p. 1)
2. Structural Change in Archaic Greek Housing,
by Franziska Lang (p. 12)
3. Security, Synoikismos, and Koinon as Determinants for Troad Housing in Classical and Hellenistic Times,
by William Aylward (p. 36)
4. Household Industry in Greece and Anatolia,
by Nicholas Cahill (p. 54)
5. Living and Working Around the Athenian Agora: A Preliminary Case Study of Three Houses,
by Barbara Tsakirgis (p. 67)
6. Between Urban and Rural: House-Form and Social Relations in Attic Villages and Deme Centers,
by Lisa C. Nevett (p. 83)
7. Houses at Leukas in Acarnania: A Case Study in Ancient Household Organization,
by Manuel Fiedler (p. 99)
8. Modest Housing in Late Hellenistic Delos,
by Monika Trumper (p. 119)
9. Housing the Poor and Homeless in Ancient Greece,
by Bradley A. Ault (p. 140)
10. Summing Up: Whither the Archaeology of the Greek Household?,
by Bradley A. Ault and Lisa C. Nevett (p. 160)

Langの論文ではアクセス・アナリシス論を援用しており(pp. 24-26)、これが面白かった。
建物の中の部屋のつながりを考えるビル・ヒリアーたちの方法は刺激的で、部屋のかたちや窓の有無、機能などは思い切って取り去ってしまうという大胆な捉え方をします。ここから建物の「深さ」という概念を導き出し、それを数値化して示すという発想がきわめて斬新。
明らかに、現代における建築の姿をもとに組み立てられた論で、時代の刻印を受けており、それゆえ、古代の遺構に当て嵌めようとした場合、さまざまな問題が生じますが、その点こそが要所となる切り口。建物の見方の矛盾が立ちあらわれる場所となります。

Bill Hillier and Julienne Hanson,
The Social Logic of Space
(Cambridge University Press, Cambridge, 1984)
xiii, 281 p.

ヒリアーはまた、「空間は機械だ」とも言っており、これもまた興味深い考え方。219ページには古代エジプトの神殿の平面図も出てきます。

Bill Hillier,
Space is the Machine:
A Configurational Theory of Architecture
(Cambridge University Press, Cambridge, 1996)
xii, 463 p.

なお、アマルナ型住居にアクセス・アナリシス論を適用した論考が日本語で書かれています。アマルナ型住居に関して修士論文をまとめ、以降、いくつかの研究論文を発表されている方。

伊藤明良
「古代エジプトにおける居住形態の変化とその背景:アマルナ居住プランの成立」
古代文化54:8 (古代学協会、2002), pp. 31-47, 58.

イギリスで同じくアマルナ型住居に関し、修士論文を書いた人の例として、

P. T. Crocker,
"Status symbols in the architecture of el-'Amarna",
Journal of Egyptian Archaeology 71 (1985), pp. 52-65.

2009年2月18日水曜日

Hoepfner und Schwandner 1994


ギリシア世界における街並みを問う研究書。註の数は700近くに及び、考古学者、文献学者、建築史学者たちが共同して研究を纏めた3巻本のシリーズの最初の本。
300点以上の図版を収めますが、多色刷りを用いて家屋を立体的に描写しており、分かりやすい都市の復原図が並びます。街路の幅や区画の大きさなどを当時の尺度に換算して遺構値を求め、最後の章では比較もおこなっています。
街を縦横に走る道で碁盤目のように覆う都市計画の方法は古代ギリシアに始まりますが、これを包括的に扱ったドイツ考古学研究所刊行の書。1985年が初版で、改訂がなされました。

Wolfram Hoepfner und Ernst-Ludwig Schwandner,
unter Mitarbeit von Sotiris Dakaris et al.,
mit Beitraegen von Joachim Boessneck et al.,
Haus und Stadt im klassischen Griechenland.
Wohnen in der klassischen Polis, Band I.
Deutsches Archaeologisches Institut Architekturreferat,
fuer Zusammenarbeit mit dem Seminar fuer Klassische Archaeologie der Freien Universitaet Berlin
(Deutscher Kunstverlag, Muenchen, 1994.
Zweite, stark ueberarbeitete Auflage)
xx, 356 p.

Inhalt:
I. Kolonien - Streifenstaedte
II. Fruehe demokratische Staedte
III. Hippodamos und das neue Bauten mit Typenhaeusern
IV. Olynth. Eine hochklassische Streifenstadt und ihr Wandel im 4. Jh. v.Chr.
V. Kassope. Bericht ueber die Ausgrabungen einer spaetklassischen Streifenstadt in Nordwestgriechenland
VI. Abdera. Eine hippodamische Stadt in Thrakien
VII. Priene. Eine hippodamische Stadtanlage als Gasamtkunstwerk
VIII. Halikarnassos. Die Hauptstadt des Maussollos
IX. Alexandria. Bebinn einer neuen Aera
X. Dura Europos. Griechen in Mesopotamien
XI. Delos. Die hellenistische Neustadt der Athener (166 bis 69 v.Chr.)
XII. Zusammenfassungen und Ergebnisse

家屋の模型まで作って見せたり、あるいは各都市の姿を1/10,000の図面で示すなど、各所に工夫が見られます。続巻は以下の通り。

Wolfgang Schuller, Wolfram Hoepfner, und E.-L. Schwandner,
Demokratie und Architektur: Der hippodamische Staedtebau und die Entstehung der Demokratie
Konstanzer Symposium vom 17. bis 19.7.1987.
Wohnen in der klassischen Polis, Band II
(1989)

Maureen Carroll-Spillecke,
KHPOS: Der antike griechische Garten.
Wohnen in der klassischen Polis, Band III
(1989)

2009年1月3日土曜日

Hellmann 2002


古代ギリシア建築に関する包括的な解説書。建造技術に興味がある研究者にとっては必携の、きわめて重要な本です。全4巻の刊行が予定されており、これまで第2巻まで出版されました。
出版社Picardはパリの老舗の本屋さんで、とても有名です。

Marie-Christine Hellmann,
L'architecture grecque, vol. 1: Les principes de la construction.
Manuels d'art et d'archeologie antiques
(Picard, Paris, 2002)
351 p.

図版は豊富で、このうちのpp. 8-16, 233, 236-237, 240-241, 244-245, 248-249, 252-253などはカラー図版です。白い大理石で造られた古代ギリシアの神殿が、もともとは赤や青、緑といった原色で塗られ、ものすごく派手な建物であったことが丁寧に紹介されています。
古代のギリシア神殿が原色で塗られていた点は19世紀に初めて明らかにされ、最初から大理石造の全体が真っ白な建築であったに違いないと、誰もが疑いもせずに思い込んでいたことが間違いであると分かって、当時は大騒ぎになりました。いわゆるポリクロミー論争。
パルテノン神殿の屋根構造が木で造られていたことも、案外と一般には知られていないのでは。

この種の本で、これまでの権威ある書としては、

Roland Martin,
Manuel d'architecture grecque
(Picard, Paris, 1965)
522 p.

や、A. K. オルランドスA. K. Orlandos:非常に貴重な書)によるものなどが挙げられますが、40年ぶりに、これを大きく乗り越えようとしている意図があることは一目瞭然。
ちなみに4巻の構成は、

Vol. 1: Les principes de la construction (2002)
Vol. 2: Architecture religieuse et funeraire (2006)
Vol. 3: Les composantes de l'urbanisme: l'habitat et les fortifications (en preparation)
Vol. 4: Architecture civile, edifices d'education et de spectacle (en preparation)

完結まで、あと数年がかかる見込みです。
第2巻目には日本人研究者の名も復原図とともに載っており、新しい時代が到来したことが実感されます。