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Garlake 1966
タンザニアに残るイスラーム時代の建築遺構に関しては、まず第一に挙げられて然るべき重要な書です。キルワ・キシワニとソンゴ・ムナラの遺跡群はユネスコの世界遺産に指定されていますけれども、水道も電気もないところの遺跡ですので、滞在してゆっくり見ようと試みる方は苦労するのでは。
当地を長く研究されてきた人類学者の中村亮先生に先導していただきながらソンゴ・ムナラを訪れた際には、モーターボートをチャーターし、また島の砂浜に着いてからは長く続くマングローブの密林を縫う道を歩いて通ったのですが、夕方には潮が満ちて来てこの道は水没し、同行者の中には腰までびしょ濡れになる人もいました。
Moonによるキルワ・キシワニ遺跡の便利なガイドブックが出ています。
Peter S. Garlake,
The Early Islamic Architecture of the East African Coast.
Memoir Number 1 of the British Institute of History and Archaeology in East Africa.
Nairobi and London, Oxford University Press, 1966.
x, 207 p.
Contents:
Foreword (v)
Preface (vii)
List of Plates (viii)
List of Figures (ix)
I Introduction (p. 1)
II Materials and Techniques of Construction (p. 15)
III Vaulted Structures (p. 30)
IV Applied Decoration (p. 42)
V Archaeological Evidence (p. 53)
VI Mihrab Design (p. 59)
VII Mosque Planning (p. 76)
VIII Domestic Buildings (p. 87)
IX Origins of the Coastal Architecture (p. 113)
Appendix I: Detailed Study of Songo Mnara (p. 118)
Selected Bibliography (p. 120)
Figures (p. 123)
Index (p. 203)
キルワについては考古学者Chittickによる2巻本が出版されており、基本文献となります。
H. Neville Chittick,
Kilwa: an Islamic Trading City on the East African Coast, 2 vols.,
Nairobi, British Institute in Eastern Africa, 1974.
Chittickは1984年に亡くなりましたから、今年は彼の死後30周年に当たります。GarlakeはChittickの下で建築遺構の調査を続け、先にその成果を単名で出版したことになります。Garlakeが32歳の時の著作。
この本でまず注目されるのは巻末に収められた80枚以上の建築図面で、このうちのいくつかは大判の折込図面ですから、図書館にコピーを依頼しても受け付けてくれるかどうか、難しいところ。図面の発表だけで済ます手もあったと思いますけれども、まだ誰も詳しく述べていなかった建築の記述に、彼は情熱を注いでいます。
"The author is not in any way a specialist in the history of the East African coast, the dating of Islamic and Far Eastern ceramics or in the architecture of Islam and was, indeed, a complete novice in these fields before starting this research work."
(Preface, vii)
と前書きでまず述べられており、作業は大変であったでしょう。サンゴ造建築という、あまり知られていない建物のどこを見てどう報告するか、分からないことばかりで迷った部分があったかと思います。Greenlawによるサワーキンのサンゴ造建築の報告は、遅れて10年後の1976年に刊行されました。
たぶん、彼はLugli 1957などの、古代ローマ建築の構法を記した書に目を通していたと思われ、建材の積み方によって年代が判別できる可能性などを知っていたに違いありません。
その一方で、
"It is basic to the understanding of the coastal architecture to see the difference between the architecture of an "architect" and that of a "master builder" or competent artisan. To over-simplify cruelly, it is the difference between "art" and "folk art" or "peasant art". If architecture is "firmness, commodity and delight", the first two qualities are those provided by a master builder, and are outstanding attributes of the coast, but the latter---delight---is only truly possible by creative design and is missing in all the coastal architecture."
(p. 12)
といった難題が取り上げられており、これは建築に携わっている人間だけが考える問題で、建築の報告書にこういう文を記載しているのが若いGarlakeによる本の見どころともなっています。考古学者たちの間で建築報告書を書いた建築畑の人の著作は何冊もあるのですが、でも初心者の悩みとともに、自分が報告書を刊行する以上、やりたい建築学的なことを全部出す、という姿勢がとても鮮明で、僕にとっては忘れ難い報告書です。
なお奥さんも考古学者で、遺跡の大型模型を一生懸命作ったり手助けしたことが知られ、微笑ましい(pls. XIV and XV, "Palace of Husuni Kubwa")。
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