2009年9月3日木曜日

Manuelian (ed.) 1996 (Fs. W. K. Simpson)


エジプト学者W. K. シンプソンへの献呈論文集。70人弱の研究者たちが論考を寄せています。執筆陣の豪華さと圧倒的な量がすばらしい。10年に一度出るか出ないかという充実した内容。アメリカのボストン美術館の力量が存分に発揮されています。
造本はManuelianの手によるもので、編集もおこなっているこの人はエジプト学の出版物におけるDTPを進めていることで知られている研究者。博士論文はアメンヘテプ2世でした。
文中へのヒエログリフやコプト文字の挿入、レリーフの写真のレイアウトとそのモティーフの線描画起こし、壁画の配置に合わせた複雑な表の作成など、エジプト学の発表形式で良く見受けられるさまざまな面倒の対処について深く理解している人ですから、たいへん見やすく、上品に仕上げられた本となっています。

Peter Der Manuelian (editor),
Rita E. Freed (project supervisor),
Studies in Honor of William Kelly Simpson, 2 vols.
(Department of Ancient Egyptian, Nubian, and Near Eastern Art, Museum of Fine Arts, Boston, 1996)

Volume I: xxxi, 1-428 p.
Volume II: x, 429-877 p.

最初のページにはヒエログリフでw k sの3つの文字、そしてさらにankh wedja senebの3つの文字による省略形が綴ってありますが、これはシンプソンの名前のイニシャルの後に、「御健康で長生きされ、ますます御活躍のほどを」といった意味の言葉を付したもの。王名の後などに良く用いられる決まり文句のひとつで、英語では簡単にL. P. H. と訳されたりします。ankh wedja senebの3つの文字による省略形に倣って、それぞれの訳語の"Life, Prosperity, Health"を略したもの。
ヒエラティックなどでは、ただ単に3本の斜線でおざなりに記されたりもする部分。「とこしえに御壮健でありますよう」という意味の言葉を3本線の殴り書きで済ませるわけで、良く考えると、とっても失礼。

個人的に興味深く思われるものを挙げるならば、

Dieter Arnold,
"Hypostyle Halls of the Old and Middle Kingdom?",
pp. 39-54.
多柱室というと、カルナック大神殿の奥にあるトトメス3世祝祭殿が嚆矢だと良く言われたりしますが、これに疑問を投げかける内容。復原図を交えて説明がなされています。

Edward Brovarski,
"An Inventory List from "Covington's Tomb" and Nomenclature for Furniture in the Old Kingdom",
pp. 117-155.
壁画に見られるリストから、古王国時代の家具を問う論文。古王国時代にだけ流行した2本足の寝台については、図版を多く提示しています。

Zahi Hawass,
"The Discovery of the Satellite Pyramid of Khufu (GI-d)",
pp. 379-398.
クフ王のピラミッドの脇から新たに見つかった小さな衛星ピラミッドの痕跡の報告と考察を、ザヒ・ハワースが書いています。

Rainer Stadelmann,
"Origins and Development of the Funerary Complex of Djoser",
pp. 787-800.
H. リッケの考え方を展開させ、ジョセル王の階段ピラミッドの初源の姿を探る論考。ピラミッド学の権威R. シュタデルマンの自由な思考方法の一端が分かって面白い。

巻末には執筆者の住所録が載っていますが、今となってはすでに何人かが物故者となっています。J.-Ph. ロエールはその中のひとり。

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