2009年9月25日金曜日

Siliotti 2000


エジプトのシナイについての、縦長の薄いガイドブック。たった48ページしかないのですが、かなり意欲的にさまざまな内容を盛り込んでおり、これまでたくさんの入門書を手がけてきたA. シリオッティの力量のほどが良く了解される構成となっています。
全ページがカラー。
30エジプトポンドですから、600円ほど。

Alberto Siliotti (text and photographs),
Stephania Cossu (drawings), Richard Pierce (English translation), Yvonne Marzoni (general editing),
Sinai: Egypt Pocket Guide
(American University in Cairo Press, Cairo/Elias Modern Publishing House, Cairo/Geodia, Verona, 2000)
48 p.

表紙の裏を折り込みとし、ここにシナイ半島の地図を掲載。裏表紙ではラース(ラス)・モハメッドの鳥瞰図を示しています。
最初にシナイ半島の概要に触れており、プレート・テクトニクスの観点からシナイ半島や紅海はどのような動きを見せているのかがまず説明されます。シナイ半島全体の断面図を挙げているのも、うまい方法。地質と気候について次に見開きで紹介し、その後には動植物に関する多彩な言及。渡り鳥の足取りを示した図の挿入も上手。

"Natural Environments"と題した14ページからは、珊瑚礁とそこに生息する生物たちの紹介で、魚介類とサンゴが扱われます。マングローブについてもまた見開きで説明をおこなっており、こういうところは神経が行き届いた感じがあって、見事。
さらに砂漠、オアシスについて述べた後に、新石器時代の石造建造物である「ナワミース」を取り上げ、その後は古代エジプトの王朝時代におけるシナイを概観。名だたる遺跡セラビト・カディムの平面図はここで示されます。

28ページの題名は"From the Nabataeans to the Ottomans"で、おそろしく時代をすっ飛ばした内容ですが、「科学的調査」、「現代歴史」がこの後に続き、遊牧民の紹介、またいくつかの見どころの解説が後半の内容となっています。
トゥール、ラス・モハメッド、シャルム・シェイク、ダハブ、ヌワイバ(ヌウェイバ)、ターバといった紅海沿岸の、珊瑚礁を巡るリゾート地、また聖カトリーヌ修道院などが扱われており、盛り沢山。

シナイは交易で栄えた地で、また複数の宗教が交錯する地域でもあります。山脈が中央に高く聳え立ち、ワーディ(涸れ沢)が鋭く切れ込んで、この下の水脈を頼りに陸内の交易が進められた一方、沿岸を伝った船によるアジアとヨーロッパとの交通路が結ばれました。
かなりの昔から、人々が山奥まで分け入って鉱物を採掘した場所としても有名。日本人には単に、荒れ果てた土地と見やすい場所の複雑な様相の場面が、多くの図版を重ねつつ提示されており、小さな本ながら扱う情報量はかなり高く、170点以上の写真や地図、挿絵が含まれていると書かれてあります。

多角的な視点からシナイ半島を追った佳作。これだけページ数が限定されている中で、シナイ半島の魅力というものを、さまざまな学問の成果をあれこれと援用しながら提示しています。個人的な好みから言えば、5ページの図版は他のページのものと調子を揃えた方が良いような気もしますが、それは些末的な指摘に過ぎません。
むしろ、次から次へと繰り出される、乱暴と言えるほどまでに刻まれた多種多様な知識の断片が光を放つように感じられ、逆にこの小さな冊子の魅力となっています。

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