2009年3月4日水曜日

Vygus 2009


タダで手に入るヒエログリフの辞書が公開されており、これがけっこう面白い。602ページもあります。17,000項目以上を所収。

Mark Vygus,
Ancient Egyptian Hieroglyph Dictionary
17,300 items, PDF, 602 p.
http://www.egypt.cd2.com/html/dictionary.html


ヒエログリフを自習した人による簡易版の辞書となりますが、それにしても労作です。
情報の出所は永井正勝先生のブログです。
本務である大東文化大学の他、早稲田大学エクステンションセンターを初めとして、各所でヒエログリフを精力的に教えておられる先生。どういう方かを知るには、この先生が執筆された論文を読むことが何よりも早道です。ヘブライ大学に留学し、日本オリエント学会第26回奨励賞を受賞された先生。ヒエログリフに関する教科書や参考資料などを丁寧に紹介されており、きわめて有用なブログです。
おそらくは受講者向けの掲示板としてもブログを活用されているようですが、他のエジプト学者が立ち上げているブログと見比べると、違いが分かって興味深い。
インターネットで情報を発信しているエジプト学者は他にもいるのですけれども、「仕事で忙しい」というただの日記に終わっていたり、あるいは真面目に既知の概要を長々と掲載したりする人が少なくない中、専門家にも毎日見ようと思わせる内容を伝えていて貴重。
エジプト学以外の話題を織り交ぜている点にも注意すべきです。

http://mntcabe.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/egyptian-hierog.html


この辞書はしかし、ガーディナーのサイン・リスト順に並べるという驚くべき方式をとっています。つまり電話帳で言うと、電話番号の若い順に並べている(!)ということ。ページ内の検索機能の使用を前提としている、珍しい辞書です。
「男子」という意味の語、"チャ"が最初の方に出てきますが、

boy [noun] A17 - D53

と書かれている後半の「A17 - D53」がガーディナーのサイン・リストの番号。ガーディナーのサイン・リストとは何かについてはすでに紹介済みなので、ここでは繰り返しません。サイン・リストは

http://www.jimloy.com/hiero/gardner0.htm


などにて見ることができます。
現在、専門家によって用いられている拡張版も公開されています。CCERのサーバは一時期、閉鎖されたりしましたが、ようやく落ち着いた模様です。

http://www.ccer.nl/apps/hiero/hiero.html


自分の名前をヒエログリフで書こうとした場合、日本人ですと母音が連続する場合が多いわけで、例えば「山花沙耶香 Yamahana Sayaka」さんなら、aの文字が7つも出てきます。通常、日本語で出版された本の中で紹介されている例ですと、日本語の「あ」に対応するヒエログリフの鳥の文字か、あるいは腕であらわされる文字のどちらかを連ねることが強いられますけれども、この辞書に出ている語を丁寧に見ていくと、ma、ha、sa、kaなどでは他に使えそうな文字があることが発見できます。
吉成薫先生は、自身の御名前のKaoruを"K3-wr"と綴る工夫を提示していたはずで、見事な翻字の例です。

初心者は発音記号をどうしても学習しなければなりません。ヒエログリフのアルファベットは20ぐらいしかありませんので、すぐに覚えられます。普通の辞書は、このアルファベットの順番で項目が並んでいますので、これを知っているかどうかが、まずは関門。

もちろんヒエログリフの辞書と言うことであれば、実はかなり前からインターネットで公開されている有名なものがあります。

Beinlich Wordlist:
Internet-searchable database.
http://www.fitzmuseum.cam.ac.uk/er/beinlich/beinlich.html


ただし、こちらはドイツ語版。

-------追記-------

永井正勝先生が本日の2009年3月4日のブログで、当方が知らなかったことを早速、補足してくださっています。さすが、プロの対応。
Beinlich Wordlistの英訳がファイルでアップされているとのこと。

Chris's Egyptology Resources:
http://www.geocities.com/cgbusch/egyptology/


古代エジプトにおける人名辞典という本もすでにある(Hermann RankeDie ägyptischen Personennamen, 3 Bände: cf. Beckerath 1999)のですが、「この逆引き、すなわち名前の最後の文字から索引できる辞書があったらどんなに便利だろう」、と到底無理なことと思われる希望を口にしていた海外の考古学者がいました。
しかし特定の文字を検索できるVygusによる事典のようなものが今後編纂されるならば、かなり役に立つと思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿