2009年12月19日土曜日

Arnold 1991


古代エジプトの建築技術に関する、最も権威ある書。出版されてから20年ほど経ちますが、内容はさほど古びていません。

Dieter Arnold,
Building in Egypt:
Pharaonic Stone Masonry

(Oxford University Press, New York, 1991)
ix, 316 p.

序文を読むと、いろいろと考えていることが分かります。古代エジプトにおいては巨石文化が見当たらず、いきなり精巧な石造を始めたような印象があるという指摘がまずひとつ。この点は重要です。
また、他地域における建造技術についての出版物に注意を払っていることがうかがわれます。古代エジプト建築に関する本なのに、註にはミノア建築やインカ建築、また中世の建築の書籍にも触れられています。時代や地域に関わらず、石造建築の共通性を見ようとしている姿勢が示唆されています。
ただ本文においては、そうした意識はきわめて希薄。欲張りな願いですけれども、本当はクールトンの本などに言及が欲しかったところ。

中王国時代の建築は遺構例が限られることもあって、情報が比較的少ないのですが、この時代の専門家であるだけに、独壇場と言った感じ。これほど中王国時代の建築に詳しい人は今、世界にいません。
でもそれが逆に、他の時代についての記述との落差を生んでいる部分があって、この人が例えばフランス人と組んで本を出したりしたら、完璧なのにと思ったりします。フランス隊はエジプトと共同でカルナック神殿調査を永らく担当しており、その情報量は膨大です。
この本に対し、フランス側の威信をかけて出された本が

Jean-Claude Goyon, Jean-Claude Golvin, Claire Simon-Boidot, Gilles Martinet,
La construction pharaonique du Moyen Empire à l'époque gréco-romaine:
Contexte et principes technologiques
(Picard, Paris, 2004)
456 p.

で、比較すると面白い。

アーノルドのこの本の書評はいくつもすでに出ていて、それぞれベタ褒めです。しかし問題点はいくつかあるように思われます。そのひとつは建築計画について述べている章で、あまり深く立ち入って考察しているとは思われない。反論を試みようとするならば、ここら辺が問題になるかと感じられます。

註は充実しており、この本1冊を丹念に見るならば、ほとんど網羅されているので非常に有用です。ここ20年の情報は、自分で補わなくてはなりませんが。

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