2009年12月16日水曜日

Schulz 1911 (reprint 1974)


イタリアのラヴェンナに建つテオドリクス霊廟は世界遺産にも含まれていますが、この建物に関する論考。
直径が10mちょっとの円筒形をした2階建てで、装飾も控えめな小さい建物ですが、これがなぜ、石造建築の技術を扱う専門書で必ずと言っていいほど登場するのかという理由はまず、ひとつの巨大な石板から刳り抜かれて造られたドーム屋根が載っているからで、度肝を抜く造り方をおこなっています。
1階のアーチ迫り石には、目地にずれ止めのためのわずかな段差が設けられ、これも大きな特徴。2階の入口上部に見られるフラット・アーチにも同じような工夫が観察されます。この2階の入口は、日本建築で言うところの「幣軸構え」を石造でおこなっており、外側から入口を見るならば垂直材と上部の水平架構材との接合で45度の斜めの目地を呈していますけれども、内側から見れば水平の目地がとられ、垂直材の上に加工材が載るかたち。
「幣軸構え」についてはCiNiiにて検索すると、平山育男氏による論文が多数ヒットするはずです。ほとんど全部が無償でダウンロードできます。

こうした石造の「幣軸構え」は古代ローマ時代の遺構でも見られ、リビアにおけるレプティス・マグナの広場やサブラタの劇場、トルコのアフロディシアスの劇場などでも確認されます。

Bruno Schulz,
Das Grabmal des Theoderich zu Ravenna und seine Stellung in der Architekturgeschichte.
Darstellungen früh- und vorgeschichtlicher Kultur-, Kunst- und Völkerentwicklung, Heft 3
(Curt Kabitzsch (A. Stuber's Verlag), Würzburg, 1911. Reprint, Mannus Verlag, Bonn, 1974)
(ii), 34 p., mit 34 Textabbildungen und einem Titelbild.

ヘレニズム期の霊廟建築などを参照しつつ、2階部分の柱廊について考察を進め、壁体に残存する痕跡を詳細に調べて復原図を作成、これを巻頭に掲載しています。奇妙で例外的な建物ですから、復元考察は大変です。他の研究者たちがすでに復原図を提示しているので、これを乗り越える試みがなされています。

1階の天井で見られる交差ヴォールトの組み方も面白いのですが、ここでは詳しく触れません。
残念なことに鳩が出入りする遺跡で、見終わった観光客は、「暗くて汚れているし、とても臭い」という意見を口にしていました。建築を見た感想としては最悪に属するもので、残念。
しかし石造建築の長い歴史の中においては名状しがたい異彩を放っている作品で、一見の価値があるように思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿