2009年12月14日月曜日

Roueche and Smith (eds.) 1996


トルコの山中に位置する古代ローマ遺跡アフロディシアスの仮報告書の3冊目。広大な敷地に数多くの施設を有する都市遺構で、外周壁はおよそ1キロメートル四方に及びます。

Charlotte Roueche and R. R. R. Smith (eds.),
Aphrodisias Papers 3:
The setting and quarries, mythological and other sculptural decoration, architectural development, Portico of Tiberius, and Tetrapyron.
Including the papers given at the Fourth International Aphrodisias Colloquium, held at King's College, London on 14 March, 1992.
Journal of Roman Archaeology (JRA), Supplementary Series no. 20
(Journal of Roman Archaeology, Ann Arbor, 1996)
224 p.

本の全体は3つに分けられており、

Part I: Recent Work at Aphrodisias
Part II: The Setting and Development of the City
Part III: Aspects of Decoration

遺跡を都市として見ていることが、この目次でもはっきり打ち出されています。副題が示すように、さまざまな視点からの考察と報告がおこなわれているのが了解されます。これまで主流であった個々の建築、あるいは彫刻作品の美術史的考察は二義的なものとして退かされ、代わりに都市の成長や諸外国との交易、特に小アジア地域におけるこの遺跡の位置づけなどが多角的に検討されているのが特色。

石切場の調査報告が寄せられているのは興味深い。執筆者はPeter Rockwellで、この人は彫刻家でもあり、石造建築技術に関わる研究者の間では知られた人。石を実際に扱う人なので、独自の観点が提示されているのが見どころです。
技法が中心ですけれども、他に石材の搬出のルートも分析しています。石切場を4つのタイプに分類しているのは注目され、通常は露天掘りとトンネル掘り、つまりオープン・タイプとギャラリー・タイプに2分されるだけなのが普通ですが、検討してみる価値のある記述です。

劇場について発表をおこなっているTheodorescuの論文も建築の視点からは重要(pp. 127-148)。この論文はフランス語で書かれていますが、最後の2編の論文はドイツ語で執筆されており、このように3ヶ国語ないし4ヶ国語で一冊の本が書かれると言うことは決して珍しくありません。日本人にとっては辛いところです。ローマの遺跡だったら、さらにラテン語やギリシア語なども出てきます。
2008年には続巻の第4号が出ていますけれども、未見。

アメリカから出版されているJRAは古代ローマを扱う雑誌で、未だ若い雑誌ながら、重要な刊行物のひとつ。
多くのSupplementary Seriesを出版しています。

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