2009年12月7日月曜日

Hobson 2009


何と、古代ローマにおけるトイレの専門書です。巻末に地名の索引が用意されているように、西はイギリスから東はシリアまで、また北アフリカのチュニジア・リビアにおける都市遺跡のトイレの類例も集めています。大理石の便座が用意され、下には水を流すための溝が設けられている公衆便所の有様、また簡単に作られた一人用のトイレの様子が良く分かります。
最も数多く資料が集められているのはしかし、やはりポンペイで、豊富な写真によって紹介がおこなわれています。

Barry Hobson,
Latrinae et Foricae:
Toilets in the Roman World

(Duckworth, London, 2009)
x, 190 p., 142 text figures.

Contents:
Acknowledgements (vii)
Preface (ix)

1. Toilets in the Roman world: an introduction (p. 1)
2. Roman Britain (p. 33)
3. Pompeii (p. 45)
4. Chronology of toilets (p. 61)
5. Upstairs toilets (p. 71)
6. Privacy (p. 79)
7. Rubbish and its disposal (p. 89)
8. Dirt, smell and culture (p. 105)
9. Water supply, usage and disposal (p. 117)
10. Who used these toilets? (p. 133)
11. Motions, maladies and medicine (p. 147)
12. Who cares about latrines? (p. 155)
13. Future research? (p. 165)

Glossary (p. 173)
Bibliography (p. 177)
Index of Places (p. 187)

序文は、

"Why, you may ask, a book on Roman toilets?"

という書き出しから始められており、また最終章の題は「これからの研究?」と疑問符付きです。どうも変な研究対象であるという点は、著者自身が最も良く承知しているということ。
集められた写真は著者自身が各国の遺跡を回って撮りためたもので、例えばリビアのレプティス・マグナで見られる男女別のトイレについては、

"The huge bath house, dedicated to the Emperor Hadrian, has two large latrines (Figs. 39 & 40), one allegedly for women which is slightly smaller than the one for the men. Each has a central peristyle with a colonnade, within which are seats in rows down three of the four sides. The side opposite the entrances in the men's latrine is 16 m long and the other two sides are over 13 m, giving a seating capacity of about forty-eight persons. The diameter of each hole is only 15.5 cm and they are between 60 and 65 cm apart. The seating is marble, 8 cm thick." (pp. 26-28)

と、観察が非常に細かい。間仕切りもないところに、ほとんど隣の人と触れ合う距離で座ったのでは。
著者が自分で実際に現場を見に行って、あちこち測ったことは明らかです。誰もまだこのように詳しく書いたことがないので、この部分の記述については一切の註がありません。イタリア隊がこの大規模な都市遺跡レプティス・マグナを発掘したわけですが、これを指揮したGiacomo Caputoなどによる文献は巻末の参考文献にまったく掲載されていません。オランダの研究者Gemma C. M. Jansenの論考、ローマ都市における水を扱った2002年の博士論文などを核として、対象を各地にまで拡げたように思われます。

「この主題を述べるに当たって、差し障りがあるかもしれない用語を避けることは難しい」などと、序文で前もって書いています。トイレを扱う以上、これは仕方のないこと。特に、

"Scatological words occur occasionally, mostly when quoting other authors' translations" (p. ix)

とあって、これはラテン語による文献や落書きを引用した本書の後半部分が相当します。実地調査とともに、文献調査ももちろんおこなっているわけで、ここが大変重要。
読んで一番面白いのはここであるといっても良く、ポンペイで発見されている注意書き、

Stercorari ad murum progredere si pre(n)sus fueris poena(m) patiare neces(s)e est, cave

If you shit against the walls and we catch you, you will be punished (CIL IV.7038)
(p. 144)

などは、今の日本でもたぶん見られるはず。いつになっても事情は変わらないし、不埒な者はどこにでもいるようです。
別の書きつけ、

Quodam quisem testis eris quid senserim ubi cacatuiero veniam cacatum

Someday indeed you will learn how I feel. When you begin to shit I will shit on you (CIL IV.5242)
(p. 145)

では、注意書きを記した人の、わなわなと震えている怒りのほどが伝わってきて、この人に同情したくなります。
古代エジプトでも便座と言われているものが遺物として残されており、機会があったら実測してみようか、と思ったりしました。
20世紀末からトイレ研究は進展を見せているようです。「トイレ考古学」、あるいは「環境考古学」をキーワードとして検索されると良いのでは。

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2014年7月4日、追加:

Hobsonは500ページ以上のポンペイのトイレ写真集も出版しています。BARのシリーズ。

Barry Hobson,
Pompeii, Latrines and Down Pipes: A General Discussion and Photographic Record of Toilet Facilities in Pompeii.
BAR International Series 2041.
Oxford, Archaeopress, 2009.

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