2009年12月18日金曜日

Badawy 1965


「古代エジプト建築のデザイン」というタイトルが付けられた書。著者は古代エジプトの建築研究の分野では有名な人で、先王朝時代・古王国時代から新王国時代までにわたる、三巻に及ぶ通史を書いています(Badawy 1954-1968)。本格的な古代エジプト建築の通史を書いた、最後の研究者。
予定されていた四巻目、これは末期時代以降の建築が扱われる予定でしたが、結局は刊行されませんでした。この仕事はArnold 1999にて実現されます。
晩年に下記の本を出したのですけれども、出版から40年以上が経ち、現在はその評価を巡って意見が分かれるところです。

Alexander Badawy,
Ancient Egyptian Architectural Design:
A Study of the Harmonic System
.
University of California Publications, Near Eastern Studies Volume 4
(University of California Press, Berkeley and Los Angeles, 1965)
xii, 195 p., 1 sheet of "harmonic triangle".

黄緑色のペーパーバックで、前半は副題にも明示されている「ハーモニック・システム」を論理的に考証し、後半の図面集にて検討と分析をおこなうというもの。
「ハーモニック・システム」とは何を意味するかと言うことですが、建築を建てる前にはその平面を地面に描く作業が必要となり、その時にはどのようにして正確に直角を定めることができたかが問題となります。古代から用いられてきたのは、各辺3:4:5の長さに縄で直角三角形を構成するという作図方法で、ここまでは疑念がないと最近まで思われてきました。
これに疑問を呈したのがRobson and Stedall (eds.) 2009に論考を書いているA. Imhausen です。

この直角三角形を2つ並べ、8:5という比例を重視して、黄金比である1:1.618との近似を指摘する当たりから、だんだんと見解が分かれることになります。19世紀にはこうした当て嵌めが流行しました。
けれども、精度をより重視した姿勢、また実際の建造工程を含んだ考察方法が今では主流になっており、平面図の上で幾何学的に作図した線が合致するというような簡単な説明で説得力を得ることはできなくなっています。

本の後半に収められている多数の建築の平面分析を示す図には、でもさまざまな教唆が秘められているように思われます。
まず第一に古代エジプト建築の主要な建築図面が揃っていない今日、未だこうした図面資料の類が貴重となります。図面の縮尺を当時の尺度であるキュービットをもとにしている点も、建築計画に関して知識があった人ならではの工夫です。

透明の小さなシートに8:5の直角三角形を印刷し、それを巻末のポケットに入れています。建築の図面に直接当てて確認してください、という趣向。
ここには不特定多数の人間に、古代エジプト建築にできるだけ触れて欲しいという願いが込められていると見るべきであって、彼の元から直接には傑出した弟子が特に輩出することのなかったことを考え合わせると、また別の感慨を感じることになります。

アメリカのボルティモアにあるジョンズ・ホプキンズ大学には「アレクサンダー・バダウィ教授職」という、彼の名を冠した地位があり、これは彼の業績を記念して創設されています。バダウィは後年、アメリカに渡って研究と教育を続けました。
現在はベッツィ・ブライアン教授(Bryan 1993を参照)がその役職に就任。

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