Victor J. Katz (ed.),
The Mathematics of Egypt, Mesopotamia, China, India, and Islam: A Sourcebook
(Princeton University Press, Princeton and Oxford, 2007)
xiv, 685 p.
Contents:
Preface (ix)
Permissions (xi)
Introduction (p. 1)
Chapter 1 Egyptian Mathematics (p. 7)
by Annette Imhausen
Chapter 2 Mesopotamian Mathematics (p. 58)
by Eleanor Robson
Chapter 3 Chinese Mathematics (p. 187)
by Joseph W. Dauben
Chapter 4 Mathematics in India (p. 385)
by Kim Plofker
Chapter 5 Mathematics in Medieval Islam (p. 515)
by J. Lennart Berggren
このうち、最初の古代エジプトに関する章を書いているのがImhausenで、この人の博士論文についてはImhausen 2003で触れました。
紙幅に限りがあって、3000年のエジプトの数学の歴史を書くには苦労が伴ったと思いますけれども、リンド数学パピルス(RMP)やモスクワ数学パピルス(MMP)だけでなく、 ディール・アル=マディーナの労働者たちによる岩窟墓の掘削作業記録を記したオストラコン oIFAO 1206や、あるいは中王国時代に遡るライスナー・パピルス pReisner I などを紹介している点が珍しい。これらは時折省略を交え、掘削量や煉瓦の量といったものに関わる積算を求めた記録ですけれども、こうしたものも重要だという視線が感じられます。
古代エジプトの諸活動において、算術がどのように用いられたのかをじっくり眺めようとしており、古代ギリシアの数学の水準にどこまで追いついているかを問うてはいません。
オベリスクの計画方法などが唯一、まとまった文書として残されているpAnastasi Iを、ここでも冒頭に引用しています。
ただ、A. ガーディナーの訳と異なるのは、オベリスクの勾配の記述を「1キュービット1ディジット」ではなく、「1キュービット」としていること(p. 10)。Fischer-Elfertによる研究を踏まえ、oDeM 1012:9に「1ディジット」が記されていないことなどを勘案していると思われます。もともとアナスタシ・パピルスのこの部分の「1ディジット」という記述には気がかりなところがありました。ガーディナーが「1ディジット」と訳した見識の高さも、ここで改めて感じられるわけですが。
"All of them have met difficulties, which are caused not only by the numerous philological problems but also by the fact that the problems are deliberately "underdetermined." These examples were not intended to be actual mathematical problems that the Egyptian reader (i.e., scribe) should solve, but they were meant to remind him of types of mathematical problems he encountered in his own education."
(pp. 11-12)
というように、意図的に現実を外れた数値を含んだ問題が扱われているところが重要で、そこから何を見出すかが問われています。
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