2010年1月11日月曜日

Barletta 2001


古典古代建築におけるオーダーの起源をたずねる論考。5つのオーダーのうち、特にドリス式とイオニア式のオーダーについては不明な点が多いと従来、指摘されてきました。改めてこうした問題を探った書。

Barbara A. Barletta,
The Origins of the Greek Architectural Orders
(Cambridge University Press, Cambridge, 2001)
xi, 220 p.

Contents:
Preface
1. The Literary Evidence
2. The Archaeological Evidence: Proto-Geometric through the Seventh Century B.C.
3. The Emergence of the Doric "Order"
4. The Emergence of the Ionic "Order"
5. The Origins of the Orders: Reality and Theory
Conclusions: Interpretation and Implications
(以下略)

コリント式についてはある程度、資料があるのですけれども、ドリス式とイオニア式のオーダーのふたつに関しては、結論から言えばやはり分からないと言うことになりそうです。
石造のオーダー以前に木造のオーダーがあったかどうかについても、この人は否定しており、

"It is clear, however, that a direct translation of forms originally fashioned in another material, such as wood, cannot be supported by the archaeological evidence."
(p. 152)

と記しています。

著者は美術史を専門とする大学の教員です。
ここには不思議な分かれ道があって、建築を専門とする者にとっては「証拠がない」ことなどは、実は周知の事実です。建築にとって何が「真実」なのか、建築を構想することにおけるリアリティの問題がこの本ではすっかり抜け落ちていますが、これは逆の視点に立てば、建築の考え方において何を根拠として置いているのかが問われているわけで、その差異が面白い。

たぶん、建築の世界では想像すること、造る前に建築を想定することに大きな力点を置いているらしく思われます。それは他の分野の者から見れば、ただの空想でしかありません。
この、ただの空想でしかないと思われる事象に現実感を伴わせる空隙の充填、そういうところが建築の世界の面白さなのかもしれません。
「幻視者」、という言葉も建築史の世界ではしばしば用いられました。

オーダー成立に関わる資料を総ざらいしていますから、古代エジプト建築との関わりを考える際には有用な本となります。事実、エジプトの影響を示唆している箇所もありますが、明確な証拠は提示されていません。
建築の世界では、想像力で補強して架橋するということにも、一定の正当性を与えているらしく思われます。考え方の違いを浮彫りにする論考です。

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