2010年1月1日金曜日

Butler 1998


ピラミッドに関してはここ10年ほどで多くの本が出版されており、たいへんな興隆を見せています。アビュドスの初期王朝の王墓U-jの発掘報告書がドイツ隊によって刊行されたりした(1998年)のもひとつの要因。また、塚を含み持つようなマスタバの存在が再認識され、階段ピラミッドのかたちが出現した経緯が語られるようになりました。こうした近年におけるピラミッド学の前進はしかし、日本ではあまり紹介されていないのが残念です。

この本は第4王朝に光を当てて、その遺構群に幾何学的な分析を試みています。
ベンベン出版社はカナダの研究グループと繋がりをもっており、かつては縮尺を揃えたエジプト建築の図面集の刊行を予告したりしていましたが、最近は目にしないところを見ると断念された様子。メソポタミア建築ではこうした図面集がすでに出ており、非常に有用ですから、この種の企画は是非、実現してもらいたいところ。


Hadyn R. Butler,
Egyptian Pyramid Geometry:
Architectural and Mathematical Patterning in Dynasty IV Egyptian Pyramid Complexes

(Benben Publications, Mississauga, 1998)
xvii, 242 p.

ちょっと荒い図ですが、100枚以上の分析図を収めており、キュービット尺による完数が多く示されています。古代エジプトの数学についても紹介を2章にわたっておこなっており、丁寧です。第7章の、ギザ台地の高さ関係についての分析は珍しく、面白いところ。第4王朝のピラミッドだけではなく、第11章では続く第5王朝、第6王朝に属するものについても言及しています。

ただ、ひとつの考えに収斂を見せないのが弱く感じられ、どこまで行っても完数計画の実例を延々と並べ立てているような印象がなくもない。四角い建物の平面の完数を探るのは比較的簡単で、問題は少ないと思えます。
これがピラミッドとなると、平面は正方形になるけれども、角度にもまた簡単な決め方が求められ、それは高さの完数計画にも決定的な影響を与えるから、さまざまなヴァリエーションが生み出されます。特に、高さの計測はものさしを当てて測れるようなものでないから、平面の一辺を定める時とは違う精度が求められたはずです。

著者は在野の地質学者であるらしく、苦労がしのばれますが、ここでも建物がどのように計画され、また造られるのかという実際上の問題がまったく触れられていません。これがいつでも課題となり、多くの混乱を招き寄せているように思われます。

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